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「ふぅ……」

 俺は息を吐きながら、目の前に現れたウィンドウの文字を目で追っていく。


『ビーワスを八十七体倒した。

 ビーワスの針×30を手に入れた。

 ビーワスの身肉×11を手に入れた。

 ポイントを43手に入れた。

 ボスワスを一体倒した。

 ボスワスの身肉×1を手に入れた。

 スキルフィニッシュにより【ビーワスの卵】を手に入れた。

 ポイントを5手に入れた。

 スキルアーツボーナスにより、更に3ポイント手に入れた。

 ハビニーを助けた事により、更に20ポイント手に入れた。』


『Point 197』


 あの雀蜂はビーワスというモンスターだったようで、二体倒すと1ポイント加算されるらしい。あと一体多く倒せていれば1ポイント多く入ったのだが、そこは仕方ないだろう。そして親玉はボスワス。こいつは一体で5ポイントも貰える。更にスキルアーツで止めを刺したので3ポイント余計に手に入れた。

 更に、蜜蜂――ハビニーと言うらしい――を助けた事によってもポイントを手に入れた。確かに公式サイトでポイントは臨時クエストのクリア、モンスターの討伐等()で加算されていくと書いてあったからな。それ以外の方法でもポイントは増えていくのだろう。

 今回のがそれに当たるらしい。クエストでなくとも、助ける事によってポイントが貰えるようだ。

 その御蔭でポイントが一気に増えてランキングに載っていたサモレンジャーを越えるくらいに稼ぐ事が出来た。ただ、今回はギザ葉がいなければやられていた可能性があるので、運がよかっただけだな。次回からはきちんと料理アイテムを持っていくとしよう。食材アイテムも手に入ったようだし。

 そして、【捌きの一太刀】の効果も運がいい事に発動したようだ。

 スキルアーツ【捌きの一太刀】。この技によってモンスターに止めを刺した場合、確実に食材アイテムを入手する事が出来る。ただし、それだけの効果なら残存体力を全て消費して発動する意義があまりない。このスキルアーツの真価はもう一つの効果にある。

 もう一つの効果とは、消費する体力の量によって、食材アイテムの他にレアアイテムをドロップする確率を上げると言うものだ。消費する体力が多い程、レアアイテムの入手確率が上昇し、低ければ確率も低下する。しかし、通常の攻撃で止めを刺した場合よりは可能性はある。

 今回の消費体力はかなり少なかったが、それでも自分は運よくレアアイテムを手に入れる事が出来たようだ。どういうアイテムかは説明を見ていないので分からないが。ただ、メニューを開くにしても気怠過ぎて指も動かしにくい現状となっているので体力が全快してからだな。

 俺は顔を地面につけて楽な状態にする。

「人間の子よ」

 それと同時に、上から声が投げかけられる。

 下げた頭を上に上げれば、一匹のハビニーが巣穴から出て来る所だった。それは他の個体よりも大きく、更に頭の上に王冠を被っている。その個体の後をハビニー達が続いて行く。

 俺とアケビ、サクラとの距離が丁度同じくらいまで近付くと空中で静止し、俺達を一瞥する。

「私達を助けて下さった事に感謝します」

 なんか、喋った。そして先頭の個体が頭を下げると、それが波及して後ろに控えていたハビニー達も次々と頭を下げていく。そして、先頭の個体が少し前に出て来る。

「えっと、あんたは?」

「申し遅れました。私はハビニーの女王。この子らの親であり、長でもあります」

 女王蜂、ね。だから王冠を被っているのか。

「貴方達が来て下さらなければ、巣の中の赤子共々、私達は全滅していた事でしょう。ビーワスは私達一族の赤子を好んで食します。女王以外の私達一族は寿命が短く、次世代が飛び立てる頃にはこの世を去ってしまいます。ですので、敵が攻めてきた際には命を賭してでも、飛び立つ事の出来ない次世代を守り抜きます。ですが……今回はビーワスの数が多過ぎました。本来なら七匹程度で襲い掛かってくるのですが、その十倍以上の群れが一斉にやってきました」

 軽く百体以上もいたからな。確かに大軍勢だろう。現実でもあんな数の雀蜂は絶対に相手したくない。

「今までにない数の襲撃に誰もが死を覚悟しました。女王である私に子らが逃げろと言いましたが、誰が我が子を見捨てて逃げる事が出来ましょうか? 私は逃げずに赤子を守る為に巣の前を塞いでいました」

 女王に逃げろと言ったハビニーの気持ちも分からないでもないな。恐らくだが、現実の蜜蜂と同じように女王蜂にしか卵を産めないのだろう。女王さえ生き残れば、全滅は免れ、一族を増やす事が出来る。なので逃げろと言ったのだろう。しかし、女王は子供を見捨てる事が出来なかった。我が子達を想うあまりに。

「ただ、私には戦闘力がありません。戦う事が出来ない私はせめて子らが死なないようにと巣の前で補助の魔法を施し続けるしかありませんでした。それでも……あのビーワスの強靭な顎の前では無力でしかありませんでしたが」

 女王は目を伏せる。恐らく散って逝ったハビニーの事を思い出してしまっているのだろう。

「刻一刻と子らが減っていき、巣の前を守る子らにさえも牙を剥かれ、巣の中に到達してしまうのも時間の問題、と言う時に貴方達がビーワスに攻撃を仕掛け、ビーワスの意識がそちらに向きました。その御蔭で、減っていく一方だった子らも立て直す事が出来、無事に巣を守り切る事が出来ました」

 改めて、女王は俺達の顔を順々に見ていく。

「一族を救って下さった貴方達に、今一度感謝を申し上げます。……ありがとう」

 もう一度、深々と俺達に頭を下げてくる。

「そして、形ある礼としてこれを」

 顔を上げた女王の体から光が迸り、光の筋が俺達全員に向かう。光の先端には橙色に輝く丸い石があり、俺の目の前で止まる。

「これは?」

「私の力の結晶です。一度きりですが、貴方達の身を守ってくれます」

 橙色の石は光となって俺達の胸の中へと仕舞われていく。


『【クイーンハビニーの守護結晶】を手に入れた』


 防御系統のアイテム、か。これで死に戻りしにくくなったな。準備不足だったが、蜜蜂を助けた事による得が多いな。クエストでもないのにポイントに加えてアイテムを入手。情けは人の為にならず、と言う諺を体現している気がする。

「もし、他に私達に出来る事があれば何なりと申して下さい」

「蜂蜜少し分けて下さい」

 俺の代わりにサクラに支えられているアケビがそう申し上げた。まぁ、本来の目的が蜂蜜ゲットだからな。忘れてはいけない。

「どうしても必要なので、お願いします。本当に少しでもいいので」

 やけに低い姿勢で頼むアケビ。何だろう? 本当に蜜蜂と現実世界で何かあったのか?

「畏まりました」

 頷き、女王がそう言うと後ろのハビニーに目配せをする。するとハビニー数匹は巣の中へと入って行き、瓶に入った蜂蜜を手にして出て来る。

 ……何故、蜜蜂が集めた筈の蜜が既に瓶に入っているのだろうか? 気にしては駄目な気がするが、どうしても気になる。もしかして、持ち運びが出来るようにわざわざ瓶を何処からか仕入れて来るのだろうか? サイズからしてセイリー族のような気もするが。はたしてセイリー族とハビニーは交流を持っているのだろうか?

 そんな俺の心の中で呟いた疑問は聞こえる事も無く、瓶に入った蜂蜜はアケビの前へと送られていく。

「少しと言わず全部……と申し上げたい所ですが、蜜が無いとまだ飛べない子らが飢えてしまいますので勘弁下さい」

「いえ、こちらこそ無理言ってるので、本当にありがとうございます」

 低頭のままアケビは礼を述べる。そして蜂蜜は光となってアケビの胸の中へと消えて行った。

「他に何かございますか?」

「いや、もうないな」

 漸く体力が全快したので、立ち上がりながら俺は首を横に振る。一応パーティーメンバーの方にも目を向けて確認を取ると、誰もが頷いた。これ以上何か要求するのは筋違いだと思うしな。

「そうですか。では、また何かあればお立ち寄り下さい。お力になります」

 ハビニー達が頭を下げ、次々と巣へと戻っていく。これで、蜂蜜を届ければクエスト一つ達成だな。

「じゃあ、俺達ももう行くか」

 ハビニー全員が巣の中へと入っていくのを確認し終えて、ここから去る事にした。次はイワザルの所でも行くか……いや、もう少し準備を整えてから挑まないといけないな。となると、一度また集落に戻った方がいいかもしれない。

「もし」

 その事をパーティーメンバーに話そうとした時、巣から女王が飛び出してきた。

「何か困った事でも?」

 アケビが首を傾げながら問い掛ける。

「いえ、ただ皆様がセイリー族の集落へと赴く機会がございましたら、ハビ様に伝えて下さいませんか?」

「ハビ様?」

「セイリー族の族長様です」

 族長っていたんだ。まぁ、モリュグ族にも親方と呼ばれてる族長がいるしな。いない方が可笑しいか。

「行く機会はあるので構いませんよ」

「ありがとうございます」

「で、何と伝えればいいんですか?」

「『跡地に何やら力が渦巻いています』と」

 何やら不穏に満ちた言葉だな。これは十中八九【秘宝の異変】に関わる事だろうな。直接その跡地とやらに向かってもよさそうだが、生憎とその跡地とやらがどんな所か分からないので行く事が出来ない。

「それでは、お願いします」

 女王はそう言うと再び巣の方へと去っていった。

「跡地、ねぇ」

「どうします?」

 サクラが俺に訊いてくる。まぁ、どちらにせよ一度集落に戻った方がいいと思っていたから丁度いいか。俺は全員に諸々も含めて一度集落に戻ろうと提案する。全員がそれに頷いてくれたので【鳥のオカリナ】を取り出して鳥達を呼ぶ。

 因みに、逸れモンスターのギザ葉はサクラに了承を得て一緒に乗って貰う事にした。俺とアケビはそれぞれリトシーときまいらを乗せなくてはならず、場所がないからだ。フレニアは最初から宙に浮かんでいるので問題ない。

「お願いします」

「ピー」

 サクラを乗せた鳥が集落へと向けて飛び立っていく。

「じゃあ、私達も」

「そうだな」

 俺達も鳥に乗って集落へと向かう。

「頼」

「ピー!」

 全部を言う前に鳥は全速力一直線で集落へと飛んで行く。


『メッセージを受信しました』


 そんなウィンドウが目の前に現れるが、正直そんなのに目をくれる暇はなく、酔いと勢いに負けないようにリトシーを抑えながら鳥にしがみつくのに必死にだ。

 …………そろそろ、この振動に慣れないだろうか? まぁ、今までの経験から無理か。

 集落の発着地点に一番に辿り着き、例の如く俺は鳥の背中から転げ落ちて酔いを醒ます為に横たわる。リトシーは心配してか俺の眼に葉っぱを当ててくれる。そして鳥はまた俺の頭を嘴で突っ突いてくる。

 だから、やめてくれって。



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