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 体力も満タン……とまでは回復してないが、それでも八割は回復したのでもういいだろう。……今思えば、帰る時の方がかなり気を遣うからな。集落に着いてから休憩を挟めばよかったと後悔しているが後の祭りだ。

「大丈夫?」

 アケビが俺の顔色を見て心配そうにしてくる。

「大丈夫じゃないな」

 正直、時間配分を失敗している。今は少しでも早く戻ってさっさとクエストに挑む事を優先させよう。なので大丈夫でなくても強行しなくてはいけない。

「……………………呼ぶか」

「うん」

 俺とアケビは二人揃ってメニューを呼び出して、フチから譲り受けたアイテム――【鳥のオカリナ】を顕現させる。

 見た目は鳩のサブレみたいな木肌色のオカリナ。ただ、別にそれで演奏するのではなく、単に吹くだけだ。そうすれば、あの鳥達が来てくれる。

 集落と森の往復には人を乗せて空を飛べるパートナーがいない場合はこの【鳥のオカリナ】が渡されるようで、集落にいた他のプレイヤーも鳥に乗って下降したり集落に来ていたりしていた。

 口をつけ、空気を送り込み、甲高い音を鳴らす。決して綺麗な音色ではなく、どちらかと言えばただうるさいだけの音。俺とアケビも【初級演奏術】のスキルを所持していないので、期待されても困る訳だが。まぁ、このオカリナを吹くのにスキルが必要でなくてよかったよ。

「「ピー」」

 うるさいだけのオカリナの音を訊き付け、二匹の鳥が俺達の前へと降りてくる。

 さて、本日三回目の正念場だ。

 一回目は集落に行く時、二回目は森に降りる時。両方とも上下運動で三半規管がシェイクされてしまい暫しノックダウンを余儀なくされた。今回も、それを覚悟しなければならない。

「……頼むぞ」

「ピー」

 俺が背中に乗ると、鳥は頷いてくれる。その頷きは単に集落へと送り届けてくれる事に対しての了承なのだろうな。

 因みに、俺が乗っている鳥は最初に集落へと行った時に乗った個体と同じだ。アケビも同じで、どうやら【鳥のオカリナ】で喚び出せるのは最初に乗った鳥だけのようだ。で、こいつにはきちんと菓子を作ってやらないといけないが、今ここでは出来ないのでどちらにしろ集落に戻る必要がある。

「じゃあ、先に」

「ぐるらぅ」

「ピー」

 アケビときまいらを乗せた鳥がまず飛び立ち、螺旋を描きながら上昇していく。

 残された俺と鳥。耳には葉を掻き分ける音や鳥の羽ばたきだけが聞こえてくる。

「…………行ってくれ」

 鳥の背中に顔を埋め、しっかりと羽毛を掴んで落ちないように準備を整える。

「ピー!」

 鳥は力強くはばたくと、そのまま浮上する。ここから螺旋を描いて集落へと。

「――――――――え?」

 行かなかった。いや、集落に向けて飛ぶには飛んだのだが、螺旋を描いていない。

「ピー!」

 そのまま真っ直ぐと、物凄い勢いで上へと目指していくのだ。

「ちょっ」

 振動も凄い事ながら、垂直に飛んでいるので背中に乗る事が出来ず、落ちまいと必死になって羽毛にしがみつく事になる。重力と風圧と振動に負けそうになるも、意地になって手を離さない。そして今までにないくらい凄まじい勢いで気持ち悪くなっていく。

「……もう……無理」

 結局、気持ち悪さに負け、手を離してしまう。あぁ、このまま地面に激突して生命力が無くなり死に戻りになるのだろうなぁ、と微妙に繋ぎ止められている意識でそう考える。

「……危ない」

 と、誰かが俺の手を掴む。その御蔭で落下は止まった。

「…………うぅ」

 気持ち悪さにグロッキーしている間に、誰かが俺を引き上げて地面に投げ出してくれる。いや、地面ではなく木の枝に、か。どうやら、無事集落に辿り着いたみたいだ。と言うか一分くらいで着いたな。まさか、あの鳥が本気を出すとこれ程までに早く戻って来れるとは。

「……ありがとう、助かった」

 俺はよろよろとふらつきながらも上体を起こして助けてくれたプレイヤーもしくはセイリー族に礼を述べる。

「……人は、助け合いで生きている」

 助けてくれた人物は濃い緑の長い髪にマフラーで口元を隠しているサモ緑だった。

「……大丈夫?」

「じゃ、ない……少し休めば回復する」

 俺はその場に俯せになって酔いを醒ます事に専念する。移動時間が極端に短かったから、激しく動いていたとしても一回目や二回目の時のように酔ってはいないのが幸いか。これならアケビが来るまでにはいくらか回復しているだろう。

「……で、お前は一人なのか?」

 俺は顔をずらしてサモ緑の方へと目を向ける。現在は身体全体をマントで隠してはおらず、初期装備の服を着ている。ただし、色は違って濃い緑となっているが。わざわざ染色でもしたのだろうか?

「……他のメンバーはそれぞれ人助け。我は情報収集で単独行動」

 サモ緑は淡々と答えてくる。

「そう、か」

「ピー」

 で、何時の間にか傍らに舞い降りてきた鳥が俺の後頭部を嘴で突っ突いてくる。やめろ。頭だけはやめろ。視界がぶれる頭が揺れる。

「……やめとけ」

 と、サモ緑が鳥の行動を制止させてくれた。

「ありがとう」

 これで酔いが酷くなる事はなくなったな。ふぅ……。

「……」

「…………」

「……」

「…………」

「……」

「…………なぁ」

「……ん?」

「…………何時までいるんだ?」

 さっきから俺の事をしゃがんでじっと見てくるサモ緑に気不味さを覚えてつい訊いてしまう。

「……オウカが回復するか、仲間が来るまで」

「…………何でだ?」

「……一人は危険だから」

 そう言うものなのだろうか? まぁ、他のサモレンジャーと違ってウザくないから別に構わないか。助けてくれた事もある訳だし。

 で、暫く物言わずに黙っている事数分。酔いも醒めて来たと言う所でアケビを乗せた鳥が到着した。

「……じゃあ、我はもう行く」

「あぁ」

 サモ緑は身を翻して去っていった。

「オウカ君」

 それと入れ替わるように鳥から降りてきまいらを抱えたアケビが駆け寄って来る。その際にすれ違ったサモ緑を振り返って見たが、直ぐに顔を前に向ける。

「早かったね」

「あいつが異様に速く飛んだだけだ」

 と、俺はアケビの乗っていた個体とじゃれ合っている鳥を指差す。

「オウカ君に気を遣ったのかな?」

「…………そうか?」

 アケビが首を捻りながらそう言うが、俺も鳥の真意は分からないので首を傾げるだけだ。

「多分、オウカ君があんまり酔わないようにって配慮……かも」

「そう、なのだろうか?」

 と鳥の方を見て答えるが、既に二羽の鳥は仲良く揃って飛び立っていき、訊こうにも訊けない状態だ。真相は分からず仕舞い、か。

「で、オウカ君」

 アケビは改まった顔をしてくる。どうしたのだろうか? 何か問題でも発生したのか? 俺が酔いを醒ましている間にサクラからSOSのメッセージでも届いたとかか?

「何だ?」

「さっきの女の人は誰?」

 が、サクラにが困っている訳ではないようで、どうやら単純にアケビはサモ緑の事が気になったようだ。まぁ、アケビはサモレンジャーと面識を持っていない訳だから、知らないプレイヤーがパーティーメンバーの近くにたら気になりもするか。

「あぁ、さっきのはサモ緑でサモレ…………ってちょっと待て」

 と、軽く流してしまいそうだったがアケビは何やらある意味で重要な事を口にしなかったか?

「何?」

「あいつ、女だったのか?」

「色は違ったけど、私と同じ服装だったし、歩き方も女性のそれだった」

 相も変わらず挙動で男女を見分ける事が出来るみたいだなアケビは。その他に服装で判断か。そう言えば初期装備だったが俺と違っていたような……気がする。

「……で、サモ緑?」

「あぁ」

「それってふざけてる?」

 流石にアケビの眉間に皺が寄っている。俺がふざけて茶化しているみたいに聞こえたみたいだ。まぁ、初めてならそう思っても仕方ないか。

 俺はサモ緑を含め、【サモナー】五人で構成されたパーティー、サモレンジャーの事を掻い摘んで説明する。

「…………へぇ」

 最後まで訊いたアケビはそんなどうでもいいような相槌を打つだけだった。まぁ、自分には関係のない事なので気にもしないのだろう。アケビは結構ドライな性格な気がする。

「取り敢えず、もう動ける?」

「動ける」

「なら、薬草とトレンキの葉をまず届けてクエスト達成させよう」

「だな」

 俺は立ち上がって、アケビと並んで集落を歩く。

 セイリー族の集落は木の枝の上にある。木の枝自体はどういう訳か飛び跳ねても振動が伝わらず、しなる事が無い。また、枝と枝を繋ぐように橋が所々に掛けられている。足を踏み外しても大丈夫なようにか、枝の下には葉が不自然に生い茂っていて真っ逆さまに地上に落ちる事はない。

 集落にある建物は全てが木製であり、また直接木に穴を開けて建物としている所もあるが、そう言う場所は神殿等の特別な場所に限定されている。また上のほうにも枝が密集しており、そこにも建物が置かれている。上に行くには木の幹に掛けられた蔦の梯子を上る必要がある。全部で三階層あるそうで、今俺達がいる場所は一番下の一階層だ。

 枝の道ではセイリー族とプレイヤーが行き交う。プレイヤーは誰もがセイリー族に話し掛けて臨時クエストを受けようとしたりしている。誰も彼もがポイントを貯めるのに苦労しているな。

 さて、まずは薬草を薬屋に届けよう。クエスト内容としては薬を作りたいが薬草が無いので採って来て欲しい、というもの。指定数は15。結構多めだが【縮小化】の呪いにより自分とほぼ同じ大きさなので見付けるのが簡単だった。ただ、見付けてもそっちに向かう為に歩かなければならなかったが。

 薬屋と看板が立てられている建物の中に入り、そこの主人に薬草を採ってきたと告げる。

「おぉ、ありがとう! これは御礼だよ。受け取ってくれ」

 薬草を渡すとそう言って主人が俺の手に生命薬を10個乗せてくる。


『クエストを達成しました。

 生命薬×10を報酬として受け取った。

 Point 78            』


 ポイントも溜まり、そして回復手段も手に入れたのでこのクエストをやってよかったな。所持金も使用不可能アイテムとしてカウントされているらしく、使う事が出来なかったのでアイテムが購入できなかったが、これで一先ずは生命薬を買わなくてもいいな。

 ただ、薬を作る為に薬草を採ってきたのに、薬を渡してもいいのだろうか? と疑問が生じた訳だが、まぁゲーム内の出来事なので深く気にしない方がいいだろう。

「ありがとう」

「また何かあったらよろしくな」

 礼を述べて店を出る。次は雑貨屋の前にいる婦人の下へと行かねば。

 その婦人は美容の為に毎日トレンキの葉のエキスを抽出した茶を飲んでいるそうなのだが、丁度切らしてしまい、買いに来たのだが生憎と売り切れだったそうで話し掛けた俺に取って来て欲しい頼んだ次第だ。一度雑貨屋の中に入ったからマップに表示されているので迷う事無く真っ直ぐと行く事が出来た。

「まぁ!」

 未だに雑貨屋の前に立っている婦人に取ってきた旨を伝えると手を頬に当てる。

「わざわざありがとうね! 少ないかもしれないけど、これは御礼よ」


『クエストを達成しました。

 2000ネルを報酬として受け取った。

 Point 89            』


 ポイントが結構貯まったな。そして現金を報酬で手に入れた。これで店で武器や防具を買う事が出来るな。

「ありがとう」

「よければこれから一緒にトレンキのお茶でもいかがかしら?」

「いや、この後予定があるのでそれは次の機会に」

 婦人の御誘いを丁重にお断りし、立ち去る。この後予定があるのは本当の事なので嘘は吐いてない。次の機会は……多分ないだろう。

「さて、サクラ達と一度合流するか」

「うん」

 俺とアケビ、そしてきまいらはサクラ達が受けているクエストの場所へと向かう。



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