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きまいらの快進撃? により、どんどんトレンキを倒してポイント獲得、そしてトレンキの葉を必要枚数手に入れる事が出来た……のだが。
「ぐるらぅ……」
どうやらきまいらは体力を使い果たしたようで、目を回してぐでーっとへたってしまっている。アケビはきまいらを抱えて「御苦労様」と頭を撫でている。
「……ん?」
と、俺はここで疑問が生じる。きまいらの召喚時間はとっくのとうに過ぎている。なのに、きまいらは未だに存在し続けているがこれは一体?
「なぁ」
「何?」
「何できまいらずっと出てるんだ?」
「……このイベントに限り、【縮小化】を受けている召喚獣は任意で喚び出したり、戻したり出来るみたい。そして生命力が0になっても死に戻りが起きる」
俺の質問にアケビがウィンドウを表示させながらそう答える。そのウィンドウに説明が書かれているようだ。
「つまり?」
「イベント中だけ、パートナーモンスターと同じ扱い。ただ、その分能力が低下してるみたいだけど」
今度はステータス画面を開くアケビ。そこできまいらの能力を俺に見せてくる。きまいらのレベルも1になっており、それ相応の数値を誇っている。以前アケビが言った通り耐久は殆ど無いが敏捷、筋力、魔力がある。
そこは分かるのだが。
「……いや、俺はキマイラのステータス見た事無いからどう変わってるか分からないのだが?」
「耐久以外のステータスは四倍くらいあった」
「それって破格だろ」
レベル1の初期ステータスにしてはかなりあるな。四倍となると、三つの能力値が60を超えていることになる。流石に初期SPをほぼ全振りした色物の特化プレイヤー(いるかどうか分からないが)ならば優に超えるが、それでもこれは異常だろう。
まぁ、確かに。本気のキマイラの一撃でセレリルが瞬殺されていたからアケビの言葉には納得出来てしまう。
「その代わり、初めは召喚時間が凄く短かった」
「そりゃ妥当だな」
流石に運営も召喚時間に制約を持たせたようだ。そうしないと楽々とモンスターが狩られてさくさくとレベル上げが出来てしまうからな。
因みに、召喚時間は召喚獣の行動によってゲージが消費されていくシステムになっているようで、召喚図撃がより強力な攻撃、魔法等を放つ事によってゲージの減りが速くなる。逆にあまり強い攻撃をしなければその分ゲージの減る速度が遅くなる……らしい。これはアケビに訊いた事なので今一実感が沸かないが。
俺はまだ【テイマー】だしな。【サモナー】にチェンジする事が出来るらしいけど、どうすれば変える事が出来るのかが分からないと言うのもあるが、【サモナー】にチェンジした時にリトシーがどうなってしまうのかが不明瞭なので怖くてやりたくない。
まぁ、今はそんな事は置いておくとして、だ。
「次は蜂蜜とボボナの実を見付けるか」
トレンキを探している最中に薬草も採取して必要数はもうある。蜂蜜は恐らくそこら辺に蜂が巣を作っているかもしれないから、そこから手に入れる。ボボナの実は…………。
「アケビ、ボボナの実ってどんな形か分かるか?」
「青いバナナ」
「未熟のバナナみたいなのか」
なら、見た目でも分かりやすいな。
「違う、真っ青のバナナ」
アケビが首を振りながら訂正してくる。
「…………そうか」
真っ青のバナナ、か。なんかアメリカの菓子みたいな色合いなんだろうな。食べられるのか? と疑問に思うような色だな。まず自然界にそんな青い実なんてお目に掛かれないだろうに。
まぁ、どちらにしろ見た目で分かりやすい事に変わりない、か。
「行くか」
「はい」
俺とアケビは甘味を捜しに森の奥へと進んで行く。
その際にもホッピーやバッドットが襲い掛かってくる。ホッピーに対しては無傷で倒す事が出来るのだが、バッドットはフライパンを持っていない&瞬殺要員のきまいらが体力切れでダウンしているので無傷では倒せなかった。それでも、あまりダメージを喰らわなかったのは幸いか。
因みに、ホッピーを倒すと1、バッドットの場合は10体、つまりは一つの群れを倒す事で1ポイント手に入れる事が出来る。また、バッドットの場合は群れ全部をスキルアーツで倒さないとスキルアーツボーナスを習得出来ないようで、あまり美味しい敵ではないな。ホッピーはスキルアーツボーナスも1だが、まぁ無難に倒せると言う敵だから多く出現したらポイント稼ぎには打って付けだ。
『Point 54』
ポイントも50を超えたな。順調にポイントは取得していけているな。このままいけばいいかな?
「うきーっ」
と、ポイントを気にしていると上からイワザルが降ってきた。数は一体。全身が岩で出来ている猿。大きさもニホンザルと同じだ。こいつは動きは少し遅いが攻撃と耐久が少し高めだ。まぁ、それでも一体だけならば苦戦する相手ではないか。
「しっ」
「うきーっ!」
早速俺は蹴りを放ってイワザルを転ばさせる。イワザルの弱点の一つに、倒れると起き上がるのに時間が掛かると言うものがある。一体だけならばこうして転ばせておけば適当に蹴るだけで倒す事が出来る。
まぁ、少しでもポイントを手に入れる為にスキルアーツで止めを刺すが。
何回か蹴って、【蹴舞】を決める。
「うきー……」
『イワザルを一体倒した。
ポイントを2手に入れた。
スキルアーツボーナスにより、更にポイントを1手に入れた。』
『Point 57』
イワザル一体で2か。スキルアーツボーナス込みで3。まぁ、バッドットに比べていい方だな。
「うきー」
「うきー」
「うきー」
と、息吐く暇もなく今度は三体のイワザルが一気に出てきた。【蹴舞】はもう使ってしまったから、ディレイタイムが終わるまで使えないし、そもそも【蹴舞】は一対一向きで、一対多では【AMチェンジ】を装備していると途中で横槍が入り中断されてデメリットが発動しやすくなってしまう。
そもそも、イワザルは複数出現すると転ばしても他の個体と連携して回転アタックを仕掛けて来るから全部の行動を封じる事は出来ない。してしまったら面倒になるだけだ。
スキルアーツボーナスのポイントが入らなくなるが、安全に倒す方に専念しよう。
「ふっ」
手前の一体に蹴りを喰らし、転ばないように蹴り上げる。それから続けて二体目、三体目も攻撃していく。こういう時に武器を所持していないのは不便だな。蹴りだけだとあまりに攻撃手段が限定されてしまう。
……まぁ、スキルは持ってないが殴っても行こう。その方が牽制にもなるし。
殴って蹴って、蹴って蹴って蹴って殴って蹴って蹴り上げて。途中できまいらが体力切れから回復したので参戦して止めのスキルアーツを一体に放った。
「「「うきー……」」」
『イワザルを三体倒した。
ポイントを6手に入れた。
スキルアーツボーナスにより、更にポイントを1手に入れた。』
『Point 64』
「うきー」
「うきー」
「うきー」
「うきー」
「ちょっと待てやコラ」
戦闘が終了すると今度は四体落ちてきた。何だよ? 何でこんなにいるんだよイワザルは? もう体力半分切っているんだがそんな愚痴を言っても仕方がないので倒しに掛かる。幸い今度は初っ端からきまいらとのコンビでイワザル四体を相手取れるので先程よりも体力を消費せずに倒し切る事が出来た。
『イワザルを四体倒した。
ポイントを8手に入れた。』
『Point 72』
「「「「「うきー」」」」」
「ふざけんなっ」
流石にここまでの連戦になるのは有り得ない。何で倒した傍から次々と降って来るんだよ? 何? もしかして縄張りだってか? だが、クルルの森にいるイワザルは縄張りを持たないとウィキとやらに記載されていた筈だ。なのに、何故こんなに出て来るんだよ?
これ以上は体力が切れてしまうので逃げる事を視野に入れるべきだ、と思ていると後ろからアケビが俺の肩を叩いてくる。
「何だ? 今取り込」
「あれ」
と、アケビが指を上に差す。俺は木の幹に沿うように視線を上へと向ける。
「…………げっ」
俺は片眉を上げて唇の端を引くつかせる。
そこには……岩の塊が浮かんでいた。正確には遥か上方に一欠片毎にうごめいている岩の集合体。
いや、岩の集合体じゃないな。イワザルの群れ、か。何であんなにいるんだよ? ちょっと以上に悍ましいぞ。軽く五十は超えているし、もうあれだけ相手するのは御勘弁願いたい。
「…………ん?」
だが、目を凝らして見ればイワザルが群がっているものが隙間から見える。何か、やたらと不気味な程に真っ青なものだが……。
「もしかして、あれってボボナの実か?」
「多分」
「どうやって採れって言うんだよ?」
「……さぁ?」
アケビは肩を竦める。俺だって知らん。あんな数のイワザルを全て相手にしないと手に入らないとかか? 今の俺達では無理だ。数の暴力で押し切られて死に戻りする。
ここは一度撤退だな。
「逃げるぞ」
「了解。行くよ、きまいら」
「ぐるらぅ!」
俺とアケビが確認作業をしている間、独りでイワザル五体を相手取っていたきまいらを呼び戻して逃走を開始する。その際にマップを呼び出してこの位置にマーカーを残しておく。これで森を彷徨う事無くこの位置に戻って来る事が出来る。
イワザルは追い掛けてきたが、全員敏捷にやや重きを置いているステータスなので、振り切る事に成功した。
「…………ふぅ、少し休憩いいか?」
後ろを振り返り、イワザルがいない事を確認してから立ち止まる。もう体力が一割切っている。これ以上走ると体力切れを起こしてしまう。
なので休憩を提案する。アケビの体力はまだ大丈夫だろうが、きまいらも半分は切っている事だろうからな。下手に体力が少ない状態で動いてモンスターとエンカウントするよりは立ち止まって体力を少しでも回復させた方が有利に立ち回れるし。
「うん。そうしよう」
「ぐるらぅ」
近くに生えている草を背もたれにして、俺は地面に座る。その隣にきまいらが座って欠伸をする。
「…………」
アケビは腰を下ろす事も無く、視線を一方向に向けている。
「どうした?」
「うん、何かあっちの方に蜜蜂が飛んで行ったのが見えたから」
アケビはその方向を示すように指差す。
蜜蜂……つまりはその向かった先に巣がある可能性があり、そこで蜂蜜をゲット出来るかもしれない。
「ちょっと見てくる」
「一人でか?」
流石に一人で行くのは危険だと思うのだが。アケビは現在攻撃手段を持たない訳だし。
「大丈夫。戦闘は回避するし、あくまで様子を見て来るだけだから」
そう言うとアケビは俺の言葉を待つ間もなく走り去ってしまった。残された俺は追う事はせず、そのまま体力の回復を待つ。今追い掛けても体力が少な過ぎて直ぐにバテてしまうから足手纏いだ。草に背を預けて息を吐き、きまいらの背中や頭を撫でながらアケビが戻ってくるのを待つ。
「ただいま」
数分後に少し息を荒げたアケビは無事に帰ってきた。
「どうだった?」
「巣はあった。けど……」
と、アケビは眉間に皺を寄せていく。
「蜜蜂の他に雀蜂がいて、蜜蜂の巣を襲撃してる」
「おいおい……」
蜂の間で戦争が起きてるのかよ。それじゃ隙を突いて蜂蜜を手に入れる事は出来ないな。
「因みに、見た感じは五分五分の戦いをしてる」
「…………つまり?」
「どちらか一方が終わるまで長い時間が掛かる」
戦いが終わった後に蜂蜜を奪取する事も容易ではないな。時間的に。
こうなると、雀蜂を俺達が倒して蜜蜂を助けるしかないのか?
まぁ、どちらにしても現状ではどうにも出来ない訳だが。
「これからどうする?」
流石にアケビも蜜蜂の巣へと行こうとは言わないな。無謀過ぎるし。
「もう少し休憩したら一度戻るか。ボボナの実を手に入れるにも、蜂蜜を手に入れるにも戦力が足らなさ過ぎる」
集落でサクラ達と合流して、武器を入手しないとな。あと薬や食料も必要だ。色々と準備を整えてからいかないと無駄死にしかならない。
「分かった」
アケビは頷くと、俺の横に座ってくる。息を整えようと目を閉じながら何度か深呼吸をする。
「…………因みに」
「ん?」
「蜜蜂は現実と違って熱で雀蜂を撃退しようとしてなかった。普通にお尻の針で応戦してた」
「どうでもいい情報だな」
「そうでもない。これから予想出来るのは、あの蜜蜂も熱に弱いと言う事になる。つまりは蜂全般の弱点は炎になると思う」
「それは虫全般に言える事だと思うが?」
「そうだけど、ここはサモテの世界。現実世界の虫と同じと考えない方がいい。もしかしたらあの蜂達もモンスターの一種かもしれないし」
「……それもそうか」
「そう。で、話を戻すけど蜜蜂だけを助けるように雀蜂を殲滅するのに炎属性の攻撃は向かない事になる」
「そこまで予想立てるか。……もしそうだとしたらフレニアは攻撃が制限されるな」
「そこはあんまり心配しなくても――」
蜂蜜奪取の為の作戦を立てながら、じっくりと体力を回復させていく。




