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「ォォォオオ……」

「…………ふぅ」

 俺は額を拭い、【蹴舞】で止めを刺し光となって消えていくトレンキを後にして更に森を進んで行く。


『トレンキを一体倒した。

 トレンキの葉×1を手に入れた。

 ポイントを3手に入れた。

 スキルアーツボーナスにより、更にポイントを2手に入れた。』


『Point 32』


「32、か。これで今一体どれくらいの順位なんだろうな」

 視界の端のポイントを見て、そう呟く。

「さぁ?」

 横を歩いているアケビは肩を竦めるだけだが。

「まぁ、結構貯まってる方だとは思うよ?」

「だといいがな」

 まだ最初のランキングがメッセージで送られてこないので、どのくらいのペースで集めて行けばいいかが本当に分からない。

「取り敢えず、トレンキの葉はあと3枚か」

「そうだね」

「頑張って手に入れるか」

 軽く伸びをして、首を回す。

 現在、俺達は二手に分かれて臨時クエストを進めている。俺とアケビのチーム、そしてサクラ、リトシー、フレニアのチームでだ。

 あの後、フチに誘われて神殿へと向かった。そこではフチと同じような格好をしたセイリー族が結構な人数がいた。その誰もが、神殿の最奥に位置する巨大な五角形を二つ合わせたような形のモニュメントの周りに集まり、手を翳したり、何かを嵌め込んでいたりしていた。

 赤、青、水色、黄色、黄緑、緑、茶、黒、白、灰色と十色もの光が辺に沿うような形で巡りめくっている。その光はとても強烈で、直視出来ない程だ。

 その巨大なモニュメントこそがセイリー族の秘宝である【妖精の十晶石】。この秘宝はセイリー族の集落全てを外敵から守る為、一体範囲内に近付いた指定外の生物に【縮小化】の呪いを付加させると言うものだ。その【縮小化】は範囲外に出れば即解除されるらしいのだが、現在この秘宝が暴走状態にあるらしい。

 範囲が拡大してクルルの森全域に広がってしまっている。その御蔭でプレイヤーを含め、モンスターに【縮小化】が課せられている。また、その他にも範囲外に出られないように結界までも作動させられているとの事だ。

 その説明をフチから【妖精の十晶石】を前に受けた。また、あの円盤は【妖精の十晶石】の力の一部を一時的に移しかえる道具らしい。本来はセイリー族以外の種族が外敵として秘宝に反応されずに集落へと来る為の道具だそうで、これを持っていればレベルが1になる事も、そしてアイテムの使用制限が課せられる事も無くなるそうだ・。

 だが、いくら力を移しても秘宝からはとめどなく力が溢れだしてしまっていて効果が無いらしい。そして、【妖精の十晶石】が暴走状態にある現状ではそれを他種族に持たせても意味がなく、【縮小化】の呪いをそのまま受けてしまうそうだ。

 で、フチは一番下の階級に位置してはいるもののその神殿に遣えているそうだ。なので秘宝についても色々と知っており、円盤――【十晶石の力片】と呼ばれる道具を運ばされていたのもそれが理由だ。

 この暴走状態については神殿に着いてからフチが他のセイリー族に訊いたものであり、俺達と会った時はまだ暴走状態だとは知らなかったそうだ。まぁ、寝惚けてたからな。何でも昨日は徹夜で仕事をしていて、朝に漸く就寝出来た、との事だ。

「こんな事態になるのは初めての事で……文献で調べても今までこんな事になった事はないそうです」

 フチが顔を伏せながらそう言っていた。原因が全く分からないので今直ぐにどうこう出来ないようで、暫くの間クルルの森にいる人間――つまりはイベント期間中のプレイヤー達はどうあってもアイテム使用制限、レベル1の状態で進めて行かなければならなくなった。

「あの、不躾がましい事を言うようですが、暴走の原因を突き止めるのを手伝っては貰えないでしょうか? 私達の知識や思考だけではどうあっても対処出来そうにもないので。お願い出来ませんか?」

 と言うフチの懇願から暴走の原因を探る為の臨時クエスト【秘宝の異変】が発生した。これについての明確な説明はなく、ただウィンドウにも『暴走の原因を突き止めろ』としか書かれていない。

 俺達はこのクエストを受託した。断る理由はないし、そもそもがこの秘宝に纏わるイベントなのでそれに関連するクエストをクリアした時のポイントが高いだろう、と言う事もある。

 その後、フチに見送られる形で神殿から出て、原因を究明するのと並行して他の臨時クエストも進めて行こうという話になった。臨時クエストは通常のクエストとは違い、パーティー共通で同時に10個まで受託可能らしいので、クエストを消化するのには二手に分かれた方が効率がいいだろうと言う事になった。

 組み分けの際にまた神殿に戻り、フチに頼んで先の色が赤か青に塗られた棒を五本用意して貰った。その結果が現在の組となっている。何故か、組が決まった瞬間サクラがアケビをじっと見ていたが。

 臨時クエストは集落にいるセイリー族に話し掛ける事で発生し、逐一受託するかしないかの選択が出来たので、まずは自分達の身の丈に合う程度のクエストを受けて行った。

 現在俺達のパーティーが受けている臨時クエストは【鳥のおやつを作ろう】【秘宝の異変】【トレンキのお茶を飲みたい!】【縫物を一緒にやろう】【蜂蜜ゲットだぜ!】【家のお掃除手伝って】【倉庫の整理をお願いしたい】【薬草欲しい】【荷物運びのアルバイト】【ボボナの実が食べたいです】だ。このうち、集落内で終えられるクエストをサクラ、リトシー、フレニアのチームが担当している。

「それにしても、こうも森が広いと何処に行けばいのかが逆に分からなくなるな」

 俺はマップを呼び出しながらそう呟く。全体マップは今までと同じような表示だが、自分の周りを拡大させた部分マップではあまりにも拡大し過ぎて何処に向かっているのか分かり難い。

「別に目的地決めてないからいいんじゃない?」

「それもそうか」

 アケビのあっけらかんとした一言に納得する。確かに森の中で蜂蜜のある場所や薬草のある場所、果てはトレンキが常時突っ立っている場所なんて分かる訳がない。適当に彷徨う方が案外見付かるか。

 因みに、今回で初めて食材アイテムの成る木を見付ける事が出来た。理由は簡単で、その木は小さくなってなかったからだ。遥か真上に赤い果実が生っているのが見えた。その実を取るのにはロッククライミングを行わなければならなかったので今回は諦めた。

 そして、トレンキも直ぐ見分けがつく。【縮小化】の呪いを受けて小さくなっているからな。俺達と同様にレベルが1になっているらしく、苦戦もせずに倒せた。今まで五体程出会い、全てをスキルアーツで止めを刺す事に成功している。

 現在のポイントは32。うち5ポイントは円盤のクエスト、25はトレンキ討伐。残りの2は十数分前にサクラ達が【家のお掃除手伝って】をクリアした際に得られた物だ。

「おっ、トレンキ発見」

 目の前に果実のなっている小さな木を発見する。最早擬態の意味を成していないトレンキの近くへと行こうとすると、アケビに肩を掴まれる。

「何だ?」

「そろそろ、私も何かしたい」

 真剣なまなざしでそう言ってくるが、俺はやや眉を寄せる。

「何かしたいって、アケビは短剣持ってないから有効な攻撃手段ないだろう」

 俺達はまだ使える武器と防具を入手していないので有効な攻撃手段が俺の蹴りのみとなっている。なので今の今までトレンキの相手は俺だけがしてきた。まぁ、【蹴舞】をする際には一人の方が周りを気にせずに発動出来るからって言うのもあるが。

「大丈夫。キマイラ呼ぶから」

「…………キマイラ、か」

 そう言えば、召喚獣の存在忘れてたな。

「私はまだ役に立てないけど、キマイラは役に立つから。だから、やらせて」

「そこまで言うなら」

 と、俺は後退してアケビを前に出す。

「来なさい、キマイラ」

 それを合図に、アケビのベルトの金具から出た光が天へと昇り、真っ直ぐに落ちてくる。

 光が薄れ、そこにはあの合成獣が――――――。

 ……………………合成獣が…………。

「おい」

「何?」

 俺は今光の中から現れた生き物を指差し、アケビに尋ねる。

「これ、何だ?」

「……キマイラ?」

 アケビは首を傾げながらそう答える。

 まぁ、確かに形はキマイラだ。

 しかし、しかしだ。

「ぐるらぅ」

 何で元のサイズよりも小さいんだよ? いや、召喚獣も【縮小化】の呪いを受けたのだろう。だから元のサイズよりも小さいのは分かるが、言いたいのはそうじゃなくて、何て言うか退化している。成獣から幼獣に。

 体のサイズが二回り以上小さくなっているし、ぎらついていた目なんてくりくり眼に変貌してしまっている。あと、足も太くて大きくなっている。翼も頼りないくらい小さいしタテガミも消え失せてしまっていて威厳なんて存在しない。尻尾の蛇の眼も丸っと大きくてちろちろ舌を出す仕草をずっとしている。

「ん?」

 と、疑問ばかりが頭を占めている時にアケビの目の前にウィンドウが表示される。


『【縮小化】の呪いにより、【キマイラ】は【きまいら】に変化しました』


 ……いや、確かに今のキマイラは平仮名表記が似合う姿になってるけどな。

「これ、戦えんのか?」

「……分からない」

 こればっかりは召喚者のアケビでも分からないわな。知っているのは運営だけか。

「ぐるらぅ!」

 と不安に駆られているとキマイラ、もといきまいらが魔方陣を出現させて黒い球体を出現させ、それをトレンキに向けて発射する。以前見た【初級闇魔法・攻撃】か。

「ォォォオオオ」

 黒球が直撃したトレンキは雄叫びを上げながら地面から根を出し、きまいらに向けて襲い掛かっていく。

「ぐるっ」

 きまいらはそれをひょいひょいと避け、少し丸くなっている爪や牙で攻撃を仕掛けていく。トレンキもいいように攻撃を喰らわせられるのは気に食わないようだが、生憎ときまいらの方が速いのでトレンキ側の攻撃が全く当たらない。

「ぐるらぅ!」

 何度か攻撃をした後に、きまいらがトレンキの背丈を越える程の大跳躍をし、空中前転を繰り広げながら爪でトレンキを縦に切り裂いた。

「ォォォオオ……」

 トレンキは身動きを止め、光となって昇天した。


『トレンキを一体倒した。

 トレンキの葉×1を手に入れた。

 ポイントを3手に入れた。

 スキルアーツボーナスにより、更にポイントを2手に入れた。』


『Point 37』


 レザルトウィンドウが表示される。あの攻撃はどうやらスキルアーツだったようで、それできっかり止めを刺してくれたようだ。

「意外と」

「強い」

 俺とアケビは一仕事を終え、前足で顔を洗っているきまいらを見て、そうぽつりと呟いた。



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