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 …………一つ、言わせて貰ってもいいだろうか?

 俺はこのイベントに向けて、レベルを上げてきた。少しでもレベルを上げ、SPでステータスを伸ばせばその分ランキング上位に行けると思っていたからだ。

 勿論、俺なんかよりも一回りも二回りもレベルが上のプレイヤー達も当然いる。そう言った奴等を追い抜くのは至難の技だろう。いや、追い抜けずランキング外に留まり続けて終わってしまう可能性の方がずっと高いだろう。

 それでも、だ。モンスターとの戦闘ではレベルが物を言うだろうが、臨時クエストではそうとも限らないだろうと言う事もあり、俺としてはモンスターはポイントが入りやすいようにスキルアーツで止めを刺すが、クエストの方を重点的にやって行こうと思っていた。

 モンスターを倒してポイントを稼ぐだけでなく、クエストを達成してポイントを入手する、と言うのはレベルの低いパーティーへの少なからずの配慮ではないだろうか? とも考えた。

 だったら、それを有効活用しない手はない。クエストを多くこなし、その途中でモンスターを狩ればそれでポイントが結構手に入る。今回は一位を目指していないので、可能性としては有り得るだろう。

 …………そう、思っていた。

 俺は、運営……つまりは姉貴がバイトをしているSTO製作会社を甘く見ていた。

 アップデート時に、パートナーモンスターの反抗値のステータス、そして隠れスキルを公けにしなかった運営だ。姉貴曰く驚く顔が見たいと言った理由だけで公開しない。そのような連中だ。

 恐らく、いや、確実に他のプレイヤーはこう思っているに違いない。

 ふざけるな! と

 と言うか、遠くからそんな叫びが聞こえてくるのは決して気の所為ではないだろうな。

 俺からは特に……絶対に抗議が殺到するだろうなぁ、と思うだけだ。

 転送されて俺は森の中におり、近くにはリトシー、サクラにアケビ、フレニアがいる。

 ここはクルルの森なのだろう。だが、今までと違う点がある。

 地面から生えている草、木が物凄くデカくなっているのだ。地面に転がっている石ころも岩へと変貌しているし、偶然近くに生えている薬草も俺の背丈と同じくらいある。

 因みに、これは周りがデカくなっている訳ではない。


『パーティーイベント【クルルの森の異変】を開始いたします。

 イベント開始に伴い、強制的に【縮小化】の呪いが付加されます。

【縮小化】の影響により、レベルが1に変動します。

 また、所持しているアイテムは特定のもの以外は使用不可能となります。』


 俺達が単に小さくなっているだけだ。おおよそ元の身長の十分の一にまで縮んでしまっている。

 プレイヤー全員の目の前に表示されているウィンドウがそれを無慈悲に宣告している。

 レベルが強制的に1となる。所持しているアイテムは使用不可能。つまりは生命薬等の回復アイテムは元より、装備も強制的に解除され、アイテム欄に収められているアイテムは全て灰色の文字で表示され、タップしても何の反応も無い。今の俺の姿は、初めてSTOをプレイした時そのものの恰好に強制的にさせられている。

 この仕様により、駆け出しのプレイヤーと古参のプレイヤーとの格差がイベント期間中に限りなくなった。

 しかし、これは何の告知も無くやっていいものではないだろう。

 この日の為に必死になってレベルを上げていたのは俺達だけではないし、回復手段があるかどうかも分からないので回復アイテムを溜めていたパーティーも当然あっただろう。そして、がっちがちに装備を固めて準備万端にしていた猛者もいた事だろう。

 なのに、このイベントはそれをいとも容易く一蹴した。今までの苦労が水の泡、と言う言葉相応しい状態だな。

 まぁ、確認したがスキルに関しては全くの変動がなく、スキルアーツも普通に使えるから完全に水の泡ではないのが救いだな。

 また、この強制的にレベルが1になるというのも、ゲーム開始時のステータスに戻るという訳でもない。どうやら元のレベルのステータスを参照し、レベル1に置き換えたものとなっているようだ。

 その証拠に、生命力、耐久、魔法耐久がSTOを始めた頃よりもかなり下がってしまっている。その代わりに体力、器用、敏捷が高めになっている。

 これによって最初の頃は魔力も精神力も0だったサクラも魔法を使う事が出来、ある時期から敏捷にのみ特化したアケビもその機動性をある程度保ったままの弱体化した事になる。

 また、アケビの服装も初めて出会った時のサクラと同じ格好になっている。

「…………ん?」

 今、俺は疑問が生じた。アケビの隣にいるサクラの恰好だけが何も変わっていない。灰色のローブをそのまま身に纏っている。

 どうしてだ? と一瞬疑問に思ったが、そう言えばサクラの初期装備はもう無いんだったな。もしかしたら初期装備を持っていないからそのままになっているのかもしれない。

 …………と思ったが、どうもそうでもないようだ。

「なぁ、サクラ」

「な、何ですか?」

 久しぶりにどもっているな。ではなく、少し顔が赤いな。そして何かもじもじしている。その理由は察しているが。

 サクラは今、裸足だ。これはつまり装備が強制的に外された事を意味している。そしてもじもじと体を動かしている所を見ると、どうやらサクラはローブ以外の装備が強制解除されたようだ。

 そして、ローブはアイテム使用不可能の例外に位置しているようだ。また、初期装備も例外にあたる。装備しても何の能力値も上がらず、特殊効果も表れない装備は普通に身に着ける事が出来るんじゃないか? まぁ、そうしないと下着一丁の姿にされてしまうのだろうから、ある意味の救済措置か。

「よかったな。ローブ持ってて」

「そ、そう、です、ね……」

 俺の言葉にサクラは一気に顔を赤らめて伏せていく。

「……で、いきなり予想外の事が起きたけど、どうする?」

 アケビは辺りを見渡ながら俺に問うてくる。

「取り敢えず、移動しかないだろうな……が、その前にだアケビ」

「何?」

「召喚具は使用不可能になってないのか?」

「なってない。普通に使える」

 どうやら召喚具も例外にあたるアイテムのようだ。それはよかった。そうでなければ【サモナー】だらけのパーティーにとっては大打撃となっていただろう。

 …………そう言えば、サモレンジャーは参加しているのか? もし参加しているとすれば当然あの特撮ヒーローチックな格好から初期装備に変貌している筈……。

 まぁ、特に興味もないので頭の片隅にそっと置いておくとしよう。

「じゃあ、行くとするか。……サクラ、大丈夫か?」

「は、はいっ! だ、大丈夫、ですっ!」

 何か語尾が上がっているが、本人が大丈夫と言っているならいいか。やせ我慢だとしても。

 俺達はその場から動き、当てもなく彷徨う事にする。

 歩きながら、自分の視界の右下を確認する。


『Point 0』


 このイベントに限り、どうやら自分達で獲得したポイントをこうして視覚化されているようだ。直ぐに確認出来るのはいい事だな。

 だが、こんな配慮より色々と情報を公けに晒しておけよ、と突っ込みを入れるプレイヤーはいるだろうな。

「……ん?」

 感覚的に巨大化している森の中を数分歩くと、倒れ伏している人を発見する。大きさは俺達と同じくらい。俯せで顔は見えないが黄色の髪はセミロングでワンピースを着ているので女性だろうな。そして、イベントに参加しているプレイヤーではないと確実に言える。

 背中に蝶の羽が生えている。別に装飾とかではない。本当に生えている。あと、頭の先からちょこんと触覚のようなものさえ見える。

「セイリー族……かな?」

 アケビは首を傾げながら倒れている女性を指差す。

 セイリー族。大きさは手の平サイズで昆虫の翅を持つ種族でクルルの森に棲みついている。とアケビが言っていた。だが、そのアケビも本物と出逢った事が無いので行き倒れがセイリー族かどうか半信半疑と言った感じだな。

「……どうする?」

「どうすると言われても、取り敢えず起こすか」

 セイリー族はこのイベントに深くかかわっているらしいので、何かしらのアクションを起こせば臨時クエストが発生するかもしれない。

「おい」

 俺は女性に近付き、軽く頭を叩く。

「お、オウカさん」

「それはない」

 二人から非難の目を浴びせられる。

「しー……」

「れにー……」

 更にリトシーとフレニアからも白い目を向けられる。俺としてはどうしてこいつらがそんな目を向けて来るのかが分からない。

「こいつ、寝たふりしてんだぞ」

「「……え?」」

 サクラとアケビは同時に口を開く。

「いやー、ばれてましたか」

 で、女性はそう言いながら軽快に起き上がる。

「どーもー。セイリー族のフチといいます」

 フチと名乗るセイリー族の女性は猫背で頭を掻きながらにんまりと笑う。髪と同じ黄色の瞳と低めの鼻が特徴と言えば特徴か。

「あ、ど、どうも。サクラ……です……」

「初めまして、アケビだ」

 サクラは久々に人見知りを発動させて即座にアケビの後ろに隠れてしまい、アケビはフチに右手を差し出してる。

「おっ、握手? アケっちよろー」

 フチはアケビの意図を読み取り、ガシッと右手を掴んで緩く上下に振る。

「で、サクっちもよろー」

「よ、よろー、です……」

 アケビとの握手を終えると今度はサクラの手を勝手に掴んで握手を交わすフチ。サクラよ、口調が移ってるぞ。

 と言うか、変なニックネームつけてないかこのセイリー族?

「あと、そっちの男の子とモンスターは?」

 サクラとの握手を終えたフチはくるっと首を回してこちらに顔を向けてくる。

「俺はオウカだ。こっちはリトシーとフレニアだ」

「しーっ」

「れにーっ」

 リトシーは一度起きく飛び跳ね、フレニアは一度大きく頷く。

「オウっちにリトっちにフレっちもよろー」

 フチは俺、リトシー、フレニアとも握手を交わしていく。その後にフチは右の人差し指を下唇の下に当てながら首を傾げて訪ねてくる。

「で、私の後頭部を叩いたオウっちはどうして起きてるって分かったんですか?」

「俺やアケビの言葉に少し反応しただろ」

 僅かに肩が揺れたりしていたからな。注意して見ていればそれが意識の無い動きではないと言う事が分かると言うものだ。

 さて、今度はこっちが訊くとするか。

「何で寝たふりなんかしてたんだ? もしかして俺達を罠に嵌めようとしてたとかか?」

「そんな事しないですよー。ただ上から落ちてそのまま起き上がるのが面倒だっただけです」

 やだなぁ、と言わんばかりにおばちゃん仕草(手招き?)をしながらあっけらかんと答えるフチ。

「上?」

「そう、あの葉っぱが生い茂ってる枝に私の住んでる集落があって、そこから足を踏み外して落ちたんですよ」

「あんな所に住んでたのか」

 どうりでクルルの森でセイリー族に会わない訳だ。木の上なんて一度も行った事が無いからな。

「でも、落ちたんなら何で羽使わなかったの?」

 アケビが当然その事を疑問に思ったらしく、フチの翅を指差す。

「寝起きだったから忘れてましたよー」

 あっはっは、と軽く笑い飛ばすフチ。こいつ、おおらかと言えばいいのか、それとも何事にも気にしないタイプとでも言えばいいのか。あとあんな高さから落ちて無事とはどれだけタフなんだよ? 人間だったら即死だぞ。

「全く、いきなり起こして荷物運ぶの手伝えー、とか何考えてるんですかねー」

 にへらと笑いながらそんな事を言うフチだが、急にはっと顔を引き締める。

「…………あ、ヤバいです」

 で急に顔を青褪めるフチ。そして慌てて辺りに視線を動かす。

「あのっ、この近くにこれくらいの丸い金属板見ませんでした?」

 フチは両手でフリスビーサイズの円を描きながらそんな事を訊いてくる。

「いや」

「見てない」

「……です」

 三者三様にそう答える。

「…………ヤバいヤバい、ヤバいです」

 今度は頭を抱えて瞳がぶれ始める。さっきまでのフチとはまるで別人だな。

「あ、あのすみませんが探すの手伝って貰えませんか? ないと物凄くヤバいんです」

 さっきからヤバいと連呼するフチは俺達に一緒に捜索して欲しいと頭を下げて頼み込んでくる。


『臨時クエスト【フチの探し物】が発生しました。

 このクエストを受けますか?

 はい

 いいえ                   』


 で、俺の目の前にだけそんなウィンドウが表示される。どうやら臨時クエストとなるようだ。俺だけにウィンドウが表示されるのはパーティーリーダーだからだろう。

 ここで首を横に振る理由は全く無いので、サクラとアケビに視線を向けてから『はい』をタップする。

「ありがとうございますーっ!」


『クエストを開始します』


 さて、丸い金属板を探すとするか。



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