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 PvP。つまりは対人戦。今思えばSTOでPvPは初めてだな。PvPではなく一方的に掛かっていったりやられたりはしたけど。この場合は正式なPvPは初めてと言うべきだな。

 姉貴はその為だけに俺を呼び出し……たんだろうな。けど折角の申し出だが、一応俺の現状を話してから本当にするのかどうか再確認をしよう。

「……俺、今デスペナルティ中なんだ」

 流石にデスペナルティを受けていると体の怠さが常時残る形となり、体調不良での試合となってしまう。仲が悪かった時、姉貴はどんなに俺が悪態をついても俺が不調なら喧嘩をしようとしなかった。そんな姉貴とPvPするとしてもデスペナルティが終わってからだろう。

「奇遇だな。私もだ」

 だが、どうやら姉貴もデスペナルティを受けているようだ。なので、これに関しては対等な条件となっている。と言うかデスペナルティは完全な体調不良とは違うしな。そもそも論点が違っていたか。

 では、次の現状の情報を伝えよう。

「あと、武器大破してる」

 今日の一回目のログインの時に耐久度を回復する事が出来ずに包丁とフライパンを大破させてしまった。姉貴としては、もしかしたら武器を装備している俺とのPvPを望んでいるのかもしれない、と考えた。

「気にするな。私もだ」

 だが、どうやら姉貴も武器を破壊してしまったようだ。なので、PvPでは互いに武器無しで戦う事になるのでそこまで気にする事ではないようだ。武器無しで姉貴と渡り合うのは台所戦争を勃発させる以前にしか体験してないから、久しぶりだな。

 では、最後の現状の情報を開示しよう。

「……レベルだってまだ11しかない」

 姉貴はGMをやっているようなので、俺よりも早い段階でSTOの世界へと来ている筈だ。そうすると必然的にレベルの差が出て来るだろう。レベルを合わせる……なんて現実では言い訳にしかならないが、ここはゲーム内なのでレベル差があり過ぎるとワンサイドゲーム。下手をすると勝負自体にならなくなる可能性が高い。ただでさえ姉貴には勝った事が無いのに。まぁ、レベルは素直に実力の差として俺は潔く諦めて玉砕覚悟の全力で挑む事にはするが。

「安心しろ。私もだ。と言うかレベルに関してはPvPの設定で低い方に合わせる事が出来るから不安になるな」

 だが、どうやら姉貴も俺と同じレベルのようで、PvPではレベル設定が可能なのようだ。

「そうなのか」

「あぁ。そして、確認の為に見せるがこれが私の現ステータスだ」

 と姉貴はメニューを呼び出し、画面を俺に見せてくる。……確かに姉貴のレベルは俺と同じく11で、デスペナルティによる-30%補正付き。そして武器を装備していない。武器に関しては大破したとは確証はないが、他は嘘偽りがない事は分かった。まぁ、姉貴はなんだかんだで俺に嘘を吐いた事はないからステータスを見なくても信じるのだが、

 ついでに、ステータスの伸び具合も俺のものととても似ていた。違う点は俺に比べて耐久と魔法耐久が恐ろしく低く、その分精神力にSPを振っていた事だ。魔力は0なのにどうして精神力に貴重なSPを割いているのだろう? スキルアーツは体力の消費で繰り出すので、完全に無用だろうに。

 で、ここで一つ純粋な疑問が浮かんだので姉貴にストレートに訊いてみる。

「……って、姉貴ってGMもしてんだろ? どうして俺と同じレベルなんだよ?」

「GMのアバターと今のアバターは全く別物なんだ。で、色々あって自分のDGであまり入れてないってのも影響してあまりレべリング出来てないんだ」

「デスペナルティを受けてんのは?」

「今日昼に潜った時に単眼蛙野郎に呑み込まれて死んだんだよ。その時に武器の耐久度も0になった」

 倒せる筈だったんだが、と軽く息を吐きながら言うが、あまり気にしていないように見える。

 まさか、姉貴もあの単眼蛙に呑まれていたとは思わなんだ。そしてその時に武器の耐久度が0になるとは、これは偶然か? 偶然にしては全く同じ境遇だぞ。

「兎に角、だ。私と桜花では設定を弄らなくても対等な条件下でPvPが出来るんだ。だからやるぞ」

「……分かった」

 あまりにも姉貴と同じ状態過ぎて正直薄気味悪いが、確かに対等な条件なので

「桜花のパートナーは……リトシーか。そいつはギーファの上にでも乗っけておけ」

「……そこのクワガタの名前か?」

「そうだ」

 姉貴は頷きながらメニューを操作していく。姉貴がリトシーの名前を知っているのは、俺よりもSTOに詳しいからだろうな。バイトでGMをしてるくらいだし、知ってて当たり前……か?

 俺は言われた通りにクワガタ――ギーファの上にリトシーを乗せ……る前に「いいか?」とギーファに尋ねると「ギー」と鳴きながら頷いてくれたので眠っているリトシーをギーファの背中に乗せる。

 リトシーを手から離すのと同時に、俺の目の前にウィンドウが表示される。


『リオカからPvPを申し込まれました。

 ルール

 ・1vs1(パートナーモンスター、召喚獣の介入禁止)

 ・アイテム使用禁止

 ・制限時間無限

 勝利条件

 ・先に相手の生命力を半分以下にしたプレイヤーの勝利

 プレイヤー:リオカとPvPをしますか?

 はい 

 いいえ                      』


「ルールはその通りだが、いいか?」

「構わない」

 ルールは正真正銘の一対一か。それも実力のみ。まぁ、寝ているリトシーを起こすのは可哀想なのでこの申し出はとても有り難い。

 で、何気に俺は姉貴のプレイヤー名に目が行く。

「って、姉貴は名前を逆さ読みにしたのか」

「そう言う桜花は片仮名表記にしただけだな」

 姉貴のウィンドウには『プレイヤー:オウカからの返答を待っています』と出ている。

「いいだろ別に」

「悪いとは言ってない。あと、桜花も私のプレイヤー名に難癖つけないだろ?」

「当たり前だ」

 と言い合いながら俺は姉貴から距離を取り、六メートルは離れた所で立ち止まって『はい』を選択する。


『プレイヤー:リオカとPvPを開始します』


『Count 3』


 ウィンドウは直ぐに切り替わり、カウントダウンが表示される。


『Count 2』


 姉貴と俺は構える事もせず、自然体のまま互いの全身を視界に収める。

 突然、俺の視界の下に姉貴の生命力のゲージが表示される。PvPに限り相手の生命力を確認出来るようにしてあるようだ。


『Count 1』


「さぁ」

「行くぞ」


『Count 0

 Start!  』


 カウントが0になり、俺と姉貴は同時に駆け出す。

 姉貴は真っ直ぐと俺に向かって、逆に俺は後方へと。今までの経験から、真っ向から相手しては姉貴に勝ち目はないと分かっているので少し絡め手を行う事にする。

 移動速度は同じで、距離が開く事も縮む事も無い。俺は後ろを見ながら街の中心へと走っているが、不思議と人がいないのでぶつかる心配はなく、直線の道なので建物にぶつかる事も無い。

「突っ込んで来ないのか?」

「そりゃ、ね」

「そうか。だが、甘いと思うぞ?」

 姉貴は姿勢をより低くし一歩力強く踏み出すと、一気に加速していく。体力の消費量を無視して短期決戦で勝負をつけようとしているのだろう。

 俺は即座に角を曲がって路地裏へと入り込む。

 そして、即座に壁を蹴って跳躍し、向かいの建物の壁を蹴って更に高く跳ぶ。所謂、三角跳びを行った。

 同じように角を曲がってきた姉貴は俺を一瞬見失い、勢いを無理矢理殺して止まる。その間に俺は背後に降り立って一撃蹴りをお見舞いする。

「甘い」

 が、降り立った時の音で感づかれたらしく、姉貴は振り向き様に回し蹴りを繰り出してくる。俺と姉貴の足は交わり、そのまま互いに弾かれる。生命力は減ってしまったが、俺よりも耐久の低い姉貴の方が多くダメージを受けたので結果としては上々か。

「桜花、三角跳びなんて出来たのか?」

「最近出来るようになったんだよ」

「そうか」

 と、姉貴はそのまま俺の脛に向けて蹴りを入れようとして来る。俺は足を上げて回避し、その勢いのまま後転しながら残った足で姉貴の顎を狙う。だが足先に感触が伝わってこない所を見ると、避けられたようだ。

「がら空きだ」

 逆立ち状態になった俺に向かって姉貴が屈み、俺の体を支えている腕目掛けて全力の足払いを繰り出してくる。

 俺は腕だけの力で跳ぼうとするも間に合わず、肘を曲げた瞬間に姉貴の足がぶち当たり、体勢を崩して体を地面にぶつける。

「ほらっ」

 更に俺の腹目掛けて爪先を放ってくるが、それは喰らうまいと転がって回避し、即座に起き上がる。生命力が一割減ったな。結構な威力の蹴りだった。現実世界だったら折れていただろうな。間違いなく。

「今更だけど、姉貴も【初級蹴術】を持ってるのか」

「あぁ。これが私のスキルで唯一の武器を使用しない攻撃系のスキルだからな」

 と言葉を交わしながらも俺と姉貴は互いの足技を躱しながら一撃を入れようと放っていく。暫く姉貴とは喧嘩もせずに過ごしていたが、どうやら姉貴の動きはなまっておらず、それどころか上達しているように見える。俺は攻撃よりも回避を多くしている。姉貴の蹴りの方が速く、そうせざるを得ないのだ。

 もしかして、大学で格闘系のサークルに入ってるとかか? それならこの動きには頷けるぞ。

 兎にも角にも、互いに【初級蹴術】を持っている為に蹴り技だけを駆使している。相手に有効打点を加えられるのが該当スキルをもつ攻撃なので、必然それだけを使う事になる、か。

「言っておくが、桜花」

 だが、いとも簡単に姉貴はその暗黙のルールとも言える蹴りの応酬を瓦解させる。

「【初級殴術】がなくとも、拳は使うぞ?」

 姉貴は蹴りにばかり気を取られていた俺の顔目掛けて握り拳を打ちこんでくる。俺は避ける事も出来ずにもろに喰らい、それによって意識がそちらに向いてしまい、横腹目掛けて放たれた蹴りに反応出来ずに喰らってしまう。

「がっ」

 息がつまり一瞬硬直してしまうが無理矢理後ろに跳ぶ。また俺の顔面を狙った姉貴の拳を辛くも回避する事に成功した。

「桜花、忘れてないか? 該当スキルが無くとも相手にダメージを与えられる事を」

「……忘れてたよ」

 肩を竦める姉貴に俺は素直に頷く。別にスキルが無くとも自分の意思で攻撃自体は出来るし、ダメージを与えられる。それがVRゲームと言うものだ。補正が付かないので微々たるダメージ量だが、決して馬鹿に出来ない。

 現に、今の拳で意識を逸らされた俺は更に蹴りの分のダメージも受けてしまった。既に生命力は残り七割に差し掛かろうとしている。

 全く、俺は色々と予測する能力に欠けているな。STOを初めてからそんな場面幾度もあっただろうに。学習能力が無いな。

 と自虐している暇があるならその分、全力で姉貴に立ち向かっていった方がいいだろう。今ので学習はしたので、蹴りの他に殴る、頭突き、肘、体当たりが来ると前提で戦うとしよう。

 俺も、体全体を使って姉貴に攻撃を仕掛けていく。

 互いに殴り、蹴り、それを回避していく。一向に当たる気配はないが、それは姉貴も同じだ。だがやはり俺の方が回避が多く、その分姉貴は多く攻撃を行う。

 姉貴の踏み込んだパンチを後ろに跳んで避け、一気に後方へと走っていく。

 背を向けて逃走する俺を姉貴は追ってくる。

 俺の体力は三割を切っている。それは姉貴も同じだろう。いや、最初に加速した分姉貴の方が減っている筈だ。

 昔の喧嘩は俺の体力切れでの終了が多かったが、このまま俺が逃げていれば姉貴の体力が先に底を尽き、身動きが分くなった所を一気に決めると言う選択が俺の中にはある。

 が、姉貴に対してはそのような戦法で勝ちたくないと決めている。

 正々堂々……とは言えないかもしれないが、きちんと戦って勝ちたいと思っている。

 なので、俺はただ逃げているだけではない。

 路地裏の出口が見えた。このまま突っ切ればまた大通りに出るだろう。だが、俺は出る気はない。

 俺はまた壁を蹴って宙へと躍り出る。

「同じ手は食わない」

 通り過ぎて路地裏から出た姉貴は俺に背後を取られないように即座に振り返って片足を僅かに後方へと引いて溜める。

「それ以前に、私が見えている所でそんな事をしても効果はあまりないぞ」

 俺が地面に接する寸前に引いていた足で回し蹴りを放ってくる。回避は不可能だ。だから俺は避ける事をせず、着地の事は頭の中から消し去り片足を思い切り蹴り上げて姉貴の回し蹴りを相殺させる。

「っと」

 姉貴は尻餅をついたが、俺はふらつきながらも難とか片足で着地する事に成功する。俺は両足を地面につけ、この隙を逃してはいけないと姉貴の足を両手で掴んでハンマー投げの要領で飛ばして体を石畳の硬い地面に叩き付ける。

「っ」

 投げる事によるダメージはあまりなかったが、蹴りを相殺した時に姉貴の生命力は一気に無くなった。今では残り五割五分と言った所か。俺は六割以上七割未満。生命力の差で俺が有利だな。

 この流れに乗って一気に決着をつけようと投げ飛ばした姉貴に向かって駆け出そうとする。

「っ」

 が、本能的に足を止める。

 それと同時に、姉貴の体から水色の光が発せられ、姉貴の体を包み込む。

「さて、と」

 姉貴は軽く埃を払う動作をすると、そのまま俺を一瞥する。

「そろそろ、サモテでの私の本気で行くか」

 俺はつい身構えるが、それが悪手であった。

 身構えたのと同時に、姉貴は俺の目の前まで来ていた。俺は瞬きさえしていないのに、姉貴の接近に気付く事が出来なかった。

「……は?」

「ふっ」

 そして俺の顎目掛けてアッパーカットを繰り出してくる。

「がっ」

 俺の足は地を離れ軽く宙を舞う。そして生命力の減りが可笑しい事に気付く。スキルも無い殴打でスキル補正有の蹴りと同等の威力を誇っていた。俺の生命力は姉貴のそれと並ぶ。

「これで、終わりだ」

 宙を舞う俺の耳に姉貴の声が響き、それと同時に腹に今までSTOで受けた事のない強い衝撃が発生する。

「ぐっ!」

 俺の生命力は一瞬で残り二割を切ってしまう。


『You Lose』


 地面に背中を打ちつける俺の目の前に、俺の負けを知らせるウィンドウが表示された。



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