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クルル平原に来てみれば、何時も以上に他のプレイヤーがこぞってモンスターを狩っていた。多分、大規模イベントに向けてレベル上げを行っているのだろう。
見た感じ初期装備が多く見受けられるから特に初めて間もないプレイヤーがここに集中している。初期装備でないプレイヤーもいるにはいるが、誰も彼もが初期装備とパーティーを組んでいるように見える。
恐らく、プレイ時間が長いプレイヤーはクルルの森でモンスターを狩っている事だろう。あそこの方が経験値効率がよさそうだし。行った事はないがクルル平原よりも街から離れているのでモンスターは強いだろう。その分経験値の獲得数も上の筈だ。
まぁ、俺はまだレベルが7なのでクルル平原でレベル上げだが。まだデスペナルティが二十分くらい残っているので森に行ってもまたデスペナルティを受ける可能性が高くなるだけだし。
「行くぞ」
「しー」
「ふぁー」
道から草むらへと移動してモンスターとエンカウントしていく。
ホッピー、アギャーは出逢えばぶちのめしていくがロッカードは目に一撃繰り出した後に逃走。今の戦闘パーティーではロッカードに歯が立たないので。あと時間をかけてロッカード一匹を倒すよりもその時間内にホッピーやアギャーを倒していった方が効率がいい。
まぁ、デスペナルティが終了するまでは動きと威力が制限されていたが、無事に終了するとそこからはもうスピーディーに屠る事が出来た。
あと、ファッピーは【炎の舞】をしてはくれないようだ。昨日の感じでは体力もしくは精神力を結構減らしてしまうからだろう。もしくは、単にサクラがこの場にいないだけだからかもしれないが。
ファッピーが【炎の舞】を使わずとも火を吹くだけで牽制にもなるし、直撃すれば結構なダメージが入る事は分かっているので特に気にもしない。
リトシーも【初級木魔法・補助】は使用しない。今の時点であれが必要と言う場面が無いと言うのもあるがな。
所々で休憩をはさみ、減った体力を直ぐに回復させる為に手に入れた食材アイテムをその場で調理をする。とは言っても、アギャーの腿肉を焼いただけだが。成功率は前回よりも上がっていて生焼けは三回に一回に減った。
ついでに薬草の採取クエストをクリアする為に薬草を摘んでいく。【採取】のスキルはコマンドウィンドウを開かなくても常時発動するタイプの所謂パッシブスキル? にカテゴリされているので選択する手間が省ける。
薬草は草むらを成している草と違い、少し丈があって蕾のような先端を持つ濃い緑色の草だと雑貨屋に赴いた際に形状を確認していたのでどれがどれだかと迷う事は無かった。
ただ、生えている場所が限定されていたので見付けるのに苦労はした。
無造作に生えているのではなく、岩の陰に隠れるようにひっそりと生えているのだ。岩自体を見付けても付近に生えていないと言うのもざらだ。ただ、生えている場所を見付けるとそこに群生しているようで一度に三束を手に入れる。
薬草は摘むと他のアイテムと同様に光となって胸の中へと消えていく。
今の俺の行動と言えば、岩のある方へと向かい、その際にモンスターを倒し、薬草を摘んで時々肉焼いて休憩。とサイクルを作っている。
その所為かクルルの森付近にまで来てしまったが。近くまで来ると余計に森の規模が広大であると窺える。木の高さも近所の自然公園に生えている樹木よりも目測三メートルは高い。
森へと続く道は森の中にまで敷かれているようで、セーフティエリアを求めてわざわざ平原まで戻る必要は無さそうな構造だ。
外周はそこまで生い茂っていないが、中心に向かう程緑が濃くなっていっている。
今日は入る気はないが、森の外周すれすれまで近付いて行く。
「おっ、薬草だ」
そして、日陰になっている部分には薬草が生えているを見付ける。どうやら薬草は太陽の光が当たらない場所に生える傾向があるようだ。植物なのに陽の光を嫌うのか。まぁ、それは植物の勝手なので気にせずにどんどん摘んでいく。岩の陰よりも見付けやすいなここ。
薬草を摘んでいる最中にも背後からホッピーやアギャーが遅い掛かって来るが、蹴ったり切り付けたり叩きのめしたり火を吹いたりで撃退をしている。
一昨日に比べて多くの数のモンスターを倒しているが、未だにレベルは9だ。レベルが上がる毎に必要経験値が多くなるので仕方ないとは思うが、それ以外にもレベルが上がり難くなっているのには理由がある。
単純にパーティー人数が増えたからだ。モンスターから取得した経験値はパーティー全体に割り振られる。ただし、それはプレイヤーにだけ適用されてパートナーモンスターには反映されない。
パートナーモンスターはどうやらプレイヤーのレベルが上がったら自動で上がるようになっているらしい。実際、俺とサクラだけの頃と、アケビが加入する前の二人と二匹パーティーでは取得経験値に違いがみられなかった。
今回はアケビも加えて三人と二匹パーティーだ。経験値も二等分ではなく三等分となっている。また小数点以下は切り捨てられるようでホッピー一体を倒した時の経験値が7になっている。
この違いが結構影響していて今三匹倒しても以前二匹倒した際の取得経験値よりも少なくなってしまい、効率が悪い。まぁ、こればかりはシステムの都合上仕方がないと割り切っているが。
モンスター狩り&薬草採取を繰り返し、武器の耐久度を確かめる為にメニューを開くと二時間が経過したのに気が付く。御蔭でスキルの経験値も結構貯まった。が、包丁とフライパンの耐久度が1と2になってしまい、これ以上戦闘を行うと大破して蹴りしか有効打が無くなってしまうのでここらで街に戻る事にしよう。
「戻るぞ」
「しー」
「ふぁー」
まずは道に戻るように森の外周に沿って歩く。薬草を求めて道から外れてしまったからな。結構歩かないといけない。
「っ?」
遠くに見える道へと歩いていると、森の方から何かが飛び出してくる。
「ゲゴォ」
一言で言えばキマイラよりも巨大な蛙で大体二段ベッドくらいだ。そして一つ目。正直言ってロッカードよりも気持ち悪い外見だ。表面は粘液でぬるぬるしているし、目をきょろきょろとせわしなく動かしている。そしてドブのような濃い緑と茶色のマーブル模様が人によっては嫌悪感を抱くだろう。
未知の敵との遭遇、か。こいつ一体だけだし、ヤバそうなら逃げればいいか。あと、攻撃は蹴りだけにしよう。
それに、イベントではクルルの森に入るのだから、今のうちに森に生息するモンスターとの戦闘を経験しても損はないな。ゲームオーバーになるのは勘弁だが。
「やるぞ」
「しーっ!」
「ふぁーっ!」
俺達は単眼蛙に向かって突撃して行く。
「しー!」
まず、リトシーが目玉に目掛けて突進していく。ロッカードの弱点でもあった場所なので、多分有効打になるだろう。
「ゲゴォ」
リトシーが地面を蹴った瞬間、単眼蛙が口を開け、舌を伸ばす。
「しーっ⁉」
何とリトシーが舌に捕まり、ぐるぐると巻かれながら単眼蛙の口の中へと納まってしまった。
「あっ」
「ふぁーっ⁉」
俺とファッピーは突然の事で為す術もなくただ見守っている事しか出来なかった。
「ゲゴん」
そして喉を鳴らしながら呑み込んでしまった。
すると、単眼蛙の口の隙間から光の粒が漏れ出し、天へと昇って行った。そして何時まで経ってもリトシーが出てこない所を見ると、どうやらやられてしまったようだ。
…………マジか。リトシーの生命力が一気に0になったのかよ。
って言うか捕食すんのかよ敵モンスターも。
「……取り敢えず、距離を開けながら戦うぞ。舌に注意だ」
「ふぁー!」
逝ってしまったリトシーに冥福を祈りつつ目の前の難敵に注意を向ける。未だに舌を使って丸呑みをする攻撃以外は分かっていないが、あれは恐らく即死系の技だろう。リトシーの生命力は満タンだったし、俺達の中で一番の耐久力を誇っていたのだからな。それ以外に考えられない。
俺とファッピーは挟み撃ちをするように散り、まずはファッピーが火を吹いて単眼蛙に攻撃を仕掛ける。火は単眼蛙に当たるが効いているようには見えない。あの粘液が火の威力を弱めているとかか?
「ゲゴブッ」
すると単眼蛙は標的をファッピーにしたらしく、顔をぐるりとそちらに向けて頬を膨らませ、桃色と紫色のマーブル模様と言う現実では有り得ない液体を吹きつけていく。
「ふぁっ⁉」
ファッピーは慌てて火を吹くのをやめて避ける。液体は地面に落ちて四散するが、なんと煙が上がっているではないか。
熱を持っている……とかではなく、溶けているのではないか? 口から吐き出した液体と言うと胃液も該当するだろうからその可能性が高い。
「ゲゴブッゲゴブッ」
単眼蛙は続け様に液体を吐いてファッピーを攻撃していく。ファッピーは頑張って避けて直撃は避けているが飛沫が体に跳ねてしまう。当たった箇所から煙が上がる。
「おらっ」
俺は後ろを向いている単眼蛙に向けて【シュートハンマー】を食らわす。耐久度の関係上使いきりの技となるが関係ないな。フライパンは単眼蛙の後頭部に直撃し、粉々に砕けて光となって消えてしまう。
「……ゲゴォ?」
しかも、あまり効いていないようで、俺の方に体を向けてくる単眼蛙。
「ふぁー!」
その隙を狙ってファッピーが再び火を吹く。
「ゲゴォ」
ファッピーの攻撃を気にも留めない単眼蛙は口を開けて舌を伸ばしてくる。今度は俺を舌で絡め取ろうと言うのだろうか?
「ふぁーっ⁉」
が、舌は途中で軌道を変え、背後で火を吹き続けているファッピーを絡め取り、そのまま口の中へと仕舞い込んでしまう。
「ゲゴん」
そしてリトシーの時と同じように呑み込み、口の隙間から光の粒子が零れ出す。
ファッピーまでやられてしまった。
どうする? このままセーフティエリアまで逃げてやり過ごすか? それとも情報をもっと得る為に死ぬのを覚悟で攻撃していくか?
「ゲゴォ」
と考えていると俺に向かって単眼蛙が舌を伸ばしてくる。俺は咄嗟にバックステップを踏んで舌の攻撃を逃れる。
が、舌は地面に当たるとバウンドし、そのまままた俺に向かって伸びてきた。
「げっ」
そして俺もまた舌に絡まれて単眼蛙の口へと向かってしまう。流石にデスペナルティは勘弁と思い、逃れようと包丁で舌を切り付ける。
「ゲゴォ⁉」
すると、効果があったようで単眼蛙は即座に俺を離して舌を引っ込める。どうやら斬撃は有効な用だ。舌に限った話かもしれないが。そして包丁の耐久度も無くなり大破してしまう。これで俺の攻撃手段は蹴りのみとなった。
単眼蛙自体の動きは遅いが、舌の動きと吐き出す液体は予想以上に速く対処し辛い。特に舌は避けたと思っても地面に当たればその反動でまた俺に向かってくるので厄介極まりない。液体の方も当たれば四散し飛沫が振り掛かり完全に避けるのは難しいだろう。
……やはり、情報を収集するにも分が悪すぎるか。
俺はこのままセーフティエリアである道まで退避する事にする。
「ゲゴブッゲゴブッゲゴブッ」
視界から単眼蛙を外さないように後ろ走りを行う。何度も液体を吐いて来て、その都度横に避けていくが飛沫はやはり当たり、そうすると生命力が地味に減る。だが、どういう訳か舌を伸ばしてこないのでこのまま後ろ走りを続けていれば逃げられるだろう。
と、ここで背中が何かにぶつかる。正確には少しねちゃっとした気味の悪い感触の何かに。
「……まさか」
嫌な予感がして振り返ればそこには単眼蛙がもう一匹。……やはりエンカウントしてしまったか。森の外周に沿って逃げていたから、そりゃ遭遇すると言うものか。
「ゲゴォ」
そしてゼロ距離で舌を俺の腰に絡みつかせそのまま口へと運ばれて行ってしまう。
「ゲゴん」
口が閉ざされ、視界が真っ暗になる。それと同時に飲み込まれて足の先から一気に全身を液体に浸かる。
で、生命力のゲージが一瞬で0になってしまう。
『Game Over』
直ぐに水の中にいるような感触が消え、シンセの街の中央広場へと死に戻りする。プレイヤー名の横に『01:00:00』とカウントが表示される。……で、所持金を確認すればきっちり半分。クエスト報酬が……。まぁ、モンスターを倒した際に得た素材や採取した薬草は減っていないからいいか。
「…………しー」
光となって俺の足下に復活したリトシーは目を斜め半月状態にして弱々しく鳴き、震えている。こいつには丸呑みと言う恐怖体験をさせてしまったな。
「悪かった」
俺はリトシーを抱き抱えて頭を撫でる。
さて、パーティーチャットを飛ばして今サクラとアケビは何処にいるのか訊いてそちらに向かうとしよう。
……合流したら、恐らくサクラの下に復活したであろうファッピーに謝るとしよう。




