174
約1年ぶりの更新です。
イベントの会場は言ってしまえば学校だった。
いや、それだと語弊があるか。まるで小学校のような四階建ての建物に、体育館と思しきもの、屋外のプールはおそらく二十五メートルのやつで、校庭のような広場がある。
随所にあった案内板の通りにクルル平原を進んでいたら校門のようなものがあり、御丁寧に『イベント会場』と掛かっていた。で、校門をくぐり中に入ればそのような光景が広がっていた訳だ。
まさか、わざわざこのイベントの為だけに作ったのか? 同じように集まっているプレイヤーから『うわっ、懐かしい』『息子の運動会にこの間行ったばかりだから既視感が』『学校だぁ!』等の声がちらほらと聞こえる。
「みー?」
「びーびーっ」
ルーネ達は学校なんて初めてなので少し目を輝かせ、物珍しそうに眼をきょろきょろとさせている。
取り敢えず、俺達は『白組』と立て看板のかかった所に三列になって並ぶ。『赤組』『黒組』『青組』の面々も同様に並んでいる。いや、本当に学校の運動会みたいだなぁ。
で、広場の一角には『本部』や『救護』と表示された白テントが複数張ってあり、『本部』テントには一足早く来ていたプレイヤーが二人、用意されていたパイプ椅子に座り、長机に置かれたマイクを弄りつつスタンバイしていた。
「オウカーっ! サクラお姉ちゃーんっ! アケビお姉ちゃーんっ! みんなーっ!」
ふと、後ろの方から俺達を呼ぶ元気な声が。
振り返ればかなり後ろの方で黒組の列から半分身を乗り出してこちらに一生懸命手を振っているモミジちゃんの姿があった。
「モミジちゃんっ」
「やっほー」
サクラとアケビがそれぞれモミジちゃんに手を振り返している。俺も手を振り返すと、モミジちゃんは更に元気よく手を振る。その様子をモミジちゃんの後ろで微笑ましく見つめているハイドラ以下の面々。ただし保護者は除く。何故ならローズは列に並んでいないから。
別にイベントに参加していない訳ではない。では、何処にいるかと言えば……。
『あーあー、マイクテストマイクテスト』
本部席に座っていたプレイヤーの声がマイクから近くに設置されているスピーカーを通して全域に響き渡る。
『えー皆様、こちらの声は聞こえますでしょーか? ……はい、聞こえているぞというリアクションありがとうございます』
『それでは定刻になりましたので、始めさせていただきます』
『こほん、それではこれより、運営主催大規模イベント『Summoner&Tamer Onlineちきちき大運動会!』を開催します! 司会進行は私、カンナギと!』
『ローズでお送りいたします』
本部席に座っていたプレイヤー二人――カンナギとローズは立ち上がって一礼する。それに合わせてプレイヤーから拍手が鳴り、開会を告げる花火が打ち上がる。
そう、ローズはこのイベントの司会進行になっていたのだ。ついでにカンナギも。
何故司会進行をしているのかと言えば、ゲーム内時間で二日前の夕方、急に運営からイベント参加プレイヤーへ通達があったのだ。
『急募:司会進行』
と。届いたメッセージを読むと、元々は運営側で司会進行をしようと考えていたそうだが、折角ならプレイヤー側で司会も行った方が場も盛り上がるんじゃないか? となったらしく急遽当日の司会進行役を募る事になったそうだ。
司会進行の応募自体はイベント参加プレイヤーなら誰でも可。ただしそれ相応のトークスキルや進行能力が求められるので、応募後にちょっとしたテストが応募者以外に非公開で行われ、司会進行に相応しいプレイヤーが運営から選ばれた。
で、選ばれたのがカンナギとローズという訳。この二人がメインで司会進行を行うが、競技に出て不在となる場合はメインに選ばれなかった他の応募者が代理で行うそうだ。
『皆様、お手元のプログラムをご覧ください。こちらのプログラムに沿って進行していきます』
『尚、プログラムは先日皆様にメッセージで送信されている物から変更はございません』
俺達はメッセージで届いた当日プログラムを開く。これに今回のイベントの進行内容と各競技の順番及び出場選手の名前が並んでいる。各競技に出るメンバーはこのプログラムの通りで固定となり、代理出場は基本出来ないようになっている。
『初めに開会の挨拶。本来ならば直接挨拶を行う筈でしたが、急用が出来てしまったのことで、メッセージを預かっていますので、そちらを流します』
そう言ってカンナギは何処からか出したラジカセにカセットテープを挿し込み、再生する。
『皆さんこんにちは。いつも「Summoner&Tamer Online」を遊んでいただき、また今回のイベントに参加していただき誠にありがとうございます。開発部門担当の大和田和則です。さて、この度二回目の大規模イベントは少し異色な運動会としましたのは、通常の冒険や生活とは一味違う形で皆さんのパートナーモンスターと召喚獣達と親睦を深められる場を提供出来ればと思い、皆さんの大切な思い出の一つとなる事を願いまして、開催した次第です。またこれを機に、参加されているプレイヤーの皆さん同士、他の方のパートナーモンスターや召喚獣とも親睦を深められる切っ掛けとなれれば幸いです。――以上をもちまして開会の挨拶とさせていただきます』
ラジカセから少しノイズの混じった大和田氏の音声が流れる。この大和田氏は『Summoner&Tamer Online』の公式チャンネルの紹介動画にほぼ毎回出演しているので、プレイヤー全員が知っている。
挨拶が終わると同時に、自然と拍手が起こる。
『大和田氏、ありがとうございました』
『続きまして選手宣誓。各組のリーダーの皆様、お願いいたします』
赤黒白青の代表が各列の最前に出て来る。白組からアカギが、黒組からハイドラが、赤と青は俺が知らないプレイヤーが前に出て来る。
『宣誓、我々は』
『スポーツマンシップに則り』
『正々堂々競い合う事を』
『ここに誓います』
一礼し、右手を上げスタンドに設置されたマイクに向けて宣誓。宣誓を聞き届け、三度拍手。
『各組のリーダーの皆様、ありがとうございました』
『これにて、開会式を終了いたします。皆様は、各組の待機場所へと移動をお願いいたします』
二回目の大規模イベントの膜が、いよいよ上がる。




