表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/193

15

 草むらを歩きながら開いたままのメニュー画面でステータスを確認する。スキルアーツを覚えた事により、ステータスにスキルアーツの項目が増えていた。スキルアーツを試してみるにしてもどのような技なのかを把握しておいた方がいいだろう。


『【シュートハンマー】:鎚を相手に全力で投げる。消費体力20』


『【蹴舞】:縦横無尽の蹴りの乱舞を繰り出す。消費体力30』


 流石に【シュートハンマー】がどのような技かは名前で予想はしていたが、【蹴舞】は初期に覚えるスキルアーツにしては結構格好いい見栄えの技な気がする。説明的に。カポエラのようにやるのか? それとも三次元をフル活用する技なのか、考えれば考えるだけ分からなくなってくる。

「あぎゃー!」

 スキルアーツの動作を頭の中で何回かシミュレートしているとアギャーが一体だけ跳び出して来た。これは幸いと思い、早速スキルアーツを試してみる事にしよう。

 まず行うのは【初級蹴術】のスキルアーツ【蹴舞】。どのように縦横無尽に動くのかが気になったからだ。【シュートハンマー】はやらなくてもどのように攻撃するのか瞼の裏に浮かんでくるのでやるとしても次。

「あぎゃー!」

 俺に向かって駆け出してくるアギャーに対面して構え、【蹴舞】を……。

「…………あ」

 やろうとしたがやめて、間一髪でアギャーの嘴を避ける。ヘッドスライディングのように横に飛び、そのまま前転して片膝を立つように体を起こして体勢を立て直す。

 どうして試そうとしていたスキルアーツを急遽やめてしまったのか? これには訳がある。別に深くはないが。

「……どうやってスキルアーツ使うんだっけか?」

 昨日今日と色々あってど忘れしてしまった。確かに説明書にも発動方法が記載されていた。それは覚えている。問題は発動方法が一体どんなのであったかと言う事だ。

 それを思い出さない限りはスキルアーツは発動しない。根性でやれと言われても、こればっかりはゲームのシステムなのでその通りに行わなければ意味が無い。

「あぎゃー!」

 思い出そうにもアギャーを悠長に待ってくれる筈もなく、即座に反転して嘴を突き刺しに突進を再開させてくる。

 仕方ないので、普通に倒す事にする。

 フライパンを抜いて、そのまま振り下ろす。普通に振り下ろしては避けられるので、嘴が俺を貫くギリギリまで待ってから、だ。

「あぎゃるっ⁉」

 少しだけ刺さり、生命力が地味に減ったがアギャーは回避出来ずにフライパンが脳天にクリーンヒットして目を回してその場に尻を付き、頭に星を浮かび上がらせてそれをぐるぐると回転させ始める。ゲームだからか? ゲームだからこのようなエフェクトが発生するのか? ホッピーの時はこんな星は現れなかったのだが? このモンスター特有の現象だろうか?

 と考えを馳せるよりもスキルアーツの発動方法を思い出さねば。

 だが、その前にこのアギャーを倒しておかないとな。

 その場にしゃがみ込んで、取り敢えずアギャーの脳天目掛けてフライパンを何度も何度も振り下ろす。

「あ、ぎゃ、ぎゃ、ぎゃ、ぎゃ、ぎゃ、ぎゃ……」

 現実で人の目のある所でやったのなら間違いなく通報されるレベルの動物虐待を行ってアギャーを倒す。


『アギャーを一体倒した。

 経験値を18手に入れた。

 アギャーの胸肉×1を手に入れた。

 レベルが上がった。       』


 レベルが上がり、アイテムも入手した。

 さて、スキルアーツの事を考えるよりも、先にSPを振り分ける事にしよう。ステータス画面を確認すると今回はSPが5、SLが5増えていた。

 現実の動きを再現しやすいように、敏捷に全部SPを消費する。SLの合計は現在9だが、これではまだ新たなスキルは習得出来ない。一覧を確認してみるも一番消費SLが少ないスキルは【読解】だったが、10も消費する。それ以外では15とか30とかで、まだまだレベルを上げないといけない。

 さて、やる事もやったのでどうやったらスキルアーツが発動するのか思い出さなくてはな。

 普通にスキルアーツの名前を言えばいいのか? いや、そうするとただ自分が使えるスキルアーツをパーティーメンバーに話しただけでも、その最中に発動してしまい、味方に攻撃を繰り出してしまうかもしれない。そうなるとその場の空気が悪くなってしまい、最悪パーティー解散になってしまうかもしれないから音声認識は有り得ないな。

 だとしたらモーションで認識してるのか? スキルアーツの初動を自ら行う事で自動的にスキルアーツに移行するとか? …………それもないな。もしそうだったらモンスターや対人戦(PvP)の時に偶然スキルアーツと同じ初動をしてしまったら否が応でも発動してしまう。そうなると自分で思ってもみなかったので咄嗟の判断が効かず、戦局が大きく動いてしまうだろう。大体が自分の不利な状況へと。だから、これもなし。と言うか、そもそもスキルアーツの初動なんて習得したての頃なんて分からないっての。

 とすると、前世代ゲームでもあったコマンド入力式かコマンド選択式か。コマンド入力式は特定のボタンを順序通りに入力する事で発動するが、STOはコントローラーを握って遊ぶゲームではないのでそもそもボタンは存在しない。メニュー画面とかのウィンドウは表示されるが、いちいち入力するのはこのゲームの売りを損なうので論外。

 ボタン入力ではなく自分の動き自体で認識させるという手法もあるだろうが、個人個人で動きは微細にだが違うだろうし、それが原因で判定で駄目と出てしまう可能性があるのでないだろう。

 コマンド選択式も、わざわざ戦闘中に、それもモンスターと攻防を繰り広げている最中にやるには危険が伴い、下手をすればそれが元で死に戻りしてしまう場合がある。まぁ、それはアイテム使用にも言える事だけど。回復アイテムの使用はメニューを開けてからでないといけないのでここは不便と言わざるを得ないな。次のアップデートとかでそこら辺を改善してくれないだろうか?

「…………結局、どうするんだ?」

 俺一人ではどう考えても駄目だった。所謂手詰まり。いや、もしかしたら俺が言った中に答えがあるかもしれないが、自分で言うのも何だけど本当にその可能性は低い。やってはみるが。

「【蹴舞】」

 まだモンスターとエンカウントしていないが、試しに候補一スキルアーツ名を口に出してみる。

「……」

 まぁ、無論何も起きなかった。

 初動は分からないので無理。コマンド入力もボタン無し、動きの連動性で判断も初動と同じ理由で無理。コマンド選択はそもそも表示されず、ステータス画面のスキルアーツの項目をタップし、スキルアーツを選択しても何も起こらない。

「…………………………仕方ない、か」

 こうなったら、あいつに訊くしかないな。緑髪に。

 あの変態コート女との後にあいつとの会話は心底精神に来る気がするが、背に腹は代えられない。それに、あいつは気に食わない訳じゃなくて、ただウザいだけだ。暑苦しいだけだ。面倒なだけだ。それに善意を持って接してくるし、あの自分の事しか考えていない変態コート女よりは何千倍もマシだ。

 一旦セーフティエリアである道に戻り、フレンドリストを表示させ、その一番上にある『リース』と言う名前の緑髪を選択してボイスチャットを開始する。フレンドリストに登録されているプレイヤーはログインしている場合は普通に表示されるが、ログインしていなければ名前の欄が灰色に染まる。灰色に染まっているかいないかでログイン状態を確認出来るので結構分かりやすい。

 緑髪はログインしていたのでクエストとかしていない限りは出てくれるだろう。多分。俺があいつの唯一のフレンドらしいし。気軽にボイスチャットしてくれとも言ってたしな。あいつ現実で友達ちゃんといるのだろうか?

 ボイスチャット特有の黒電話が描かれたウィンドウが表示され、受話器が震え出す。

 …………ちょっと待て? 俺は何か忘れているような気がする。いや、別に重要かと言われれば重要ではないと即答出来るのだが、それでも今の俺にとっては忘れてはいけないような事だったような。

『やぁ、オウカ君!』

 と、直ぐに緑髪が通話に出て来る。素早いな。そしてボイスチャットでも声がでデカい。耳がキーンと鳴る。

『今何処にいるんだい⁉』

 で、俺が質問をする前に俺の所在を訊いてくる緑髪。

「何処って、北門を出た所にある一本道」

『分かった!』

 訊くだけ訊くと緑髪は直ぐにボイスチャットでの通話を切ってしまった。

 は? ちょっと待てよ。俺は質問したかったのだが、こちらが用件を言う前に何で勝手に切るんだよ? 意味が分からん。

 少し苛立ちながらももう一度緑髪にボイスチャットを飛ばす。

 で、また直ぐに繋がる。

『もう少し待っててくれたまえ!』

 が、直ぐに切れてしまう。

 って、待っててくれたまえ? 何で俺が待つ必要が?

「……………………あ」

 ……………………思い出した。

 ログインして直ぐ、シンセの街で緑髪が去り際に言った一言を。


「何か困った事があれば気軽にボイスチャットで呼び掛けてくれ! 直ぐに駆けつけるぞ!」


 直ぐに駆けつける(・・・・・・・・)。

 それが意味する事はつまり……。

「オウカ君っ!」

 名前を呼ばれたのでそちら――シンセの街が聳える方角――へと視線を向ければ、背後に旋風を発生させながらこちらに向かって走ってくる緑髪とその相棒の蜥蜴が目に映った。って、何で旋風発生させてんの? 腕の振りとか足の上げ方で気流を生み出したのか? これはあれか? 風騎士だからって理由か? そんな理由で納得は出来ないが、それは今は置いておこう。

 あと、走ってくる緑髪を見付けたプレイヤーは旋風に巻き込まれまいと慌てて草むらへとダイビングしていく。あれって避けなければヤバいタイプの旋風なのか? あ、避けきれなかったプレイヤーとパートナーのモンスターが旋風に巻き込まれて空中を回転しながら上昇し、ぽいっと空中に投げ出されてしまった。目測で十メートルくらい地面と離れている位置で。そして落ちた。

 ……他のプレイヤーには何か申し訳ない事を仕出かしてしまったな。心の中で詫びる。

 で、だ。やはり緑髪は来てしまったのか。通話越しでよかったのに。これで暑苦しい緑髪の言動が十割増しで俺に響いてしまう。別に面と向かって教えて貰わずとも、言葉だけでも充分だと思う質問だったので、時間掛かってもいいからメッセージを送るだけでもよかったかもな。

「風騎士リース! ここに見参っ!」

「ぎゃうっ!」

 まぁ、それも後の祭りだが。

 俺の目の前でピタッと立ち止まり右の手の甲を俺に見せるように肘を曲げて脇を締め、左腕をピンと伸ばして斜め上に突き出す。足も右膝は曲げ、左足は爪先までピンと伸ばす。蜥蜴もやはりどうようのポーズをとる。後ろで発生していた旋風が暑苦しい一人と一匹が立ち止まった事により霧散したが、それが前方にも雪崩れ込み、緑髪の長い髪を棚引かせる演出となる。

 本当、よくやるよお前は。毎回やってて疲れないか? と思ってしまうが、本人が好きでやっているのだから口は挟まない。何せゲーム内なので個人の意思は尊重する。周りを顧みない自己中心なのは尊重しないがな。あの変態コート女がいい例だ。

「早速私を呼んでくれて嬉しいよオウカ君!」

「ぎゃうぎゃう!」

「そうか……」

 緑髪はポーズを解除して俺の両肩をバシバシと叩いてくる。と言うか、呼ばれて馳せ参じるってお前は召喚獣かっ? 絶対今緑髪が口にした呼んでくれての『呼』の部分の漢字は『喚』に置き換えた方がしっくりと来るだろう。あと、蜥蜴は俺の肩に手が届かなかったので、俺の右足を両手でバシバシと叩いてきた。そこまで主人を真似するかお前は。

「で、何かお困りかなっ⁉」

 キラリと白い歯を煌めかせながら仁王立ちになり、胸を突き出して腰に手を当てる緑髪。

 まぁ、確かに困っている。ここまで来て貰わなくても解決するだろう質問をするだけなのだが、そこは気にしない方がいいだろう。善意で来たのでな。無碍には出来まいて。

「もしかして、レベル上げを手伝って欲しいとかかい⁉」

「それはない」

 緑髪の問い掛けに俺は即行で否定する。サクラのようなスキル構成でもない限り、俺は他人に頼ってレベルを上げようとは思わない。やはり自分で戦って強くなってこそ意味があると思うからな。まぁ、それは自論だから、他プレイヤーに手伝って貰ってレベル上げをしているプレイヤーを非難している訳ではない。それこそサクラのようなスキルを片寄らせ過ぎたプレイヤーや現実で身体を動かすのと同じようにしてモンスターと戦うのが苦手な人だっているからな。あくまで俺自身と言う事だ。

「そうか、では何だい⁉」

「実は、スキルアーツの発動の仕方を教えて欲しいんだ」

「よし! では私が手本を見せるとしようっ!」

 俺の質問を訊いた緑髪は色々とすっ飛ばした発言をした気がする。いや、ただ発動の仕方を訊いた筈なのに、何故それを直ぐに口にしないで手本へと移行する?

 と言う俺の心の声は当然聞こえる訳もなく、緑髪は俺の手を引いて草むらの方へと向かう。そして、蜥蜴は「ぎゃうぎゃう!」と何故か嬉しそうに緑髪の隣を歩く。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ