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 俺は咄嗟に包丁を地面に突き刺そうと振り被るも、それよりも速く【アトラクトタイフーン】によって体を引き寄せられて体勢を崩され、引き摺られるようにペガサスへと吸い寄せられる。

 これ以上吸い寄せられるものかと苦し紛れに腹這いになりながらも包丁を地面に刺すが、ガリガリと地面を抉りながら止まる気配はない。

 ペガサスの【アトラクトタイフーン】はフォレストワイアームのそれ以上に引き寄せる力が強い。体感して分かった。何か、魔力の値とかレベル差とかが影響するのだろうか? 因みに、一番引き寄せられてるのは俺で、カンナギは僅かに引き寄せられながらも馬頭鬼と戦闘を繰り広げている。いやいや、よく攻撃なり回避が出来るなこの状況で。もしかして風属性軽減の防具とかアクセサリでも装備してるのか?

「おいおい、俺も巻き込むなよな……」

 で、俺と同じ姿をしているドッペルゲンガーも、俺同様に腹這いになりながらも包丁を地面に突き刺し引き寄せられていたりする。どうやら風属性に対する耐性も俺と同じみたいだな。

 そして、リースはと言うと相手をしていたドッペルゲンガーが引き寄せられているので現在フリー。だと言うのに腰を僅かに落とし、大剣を水平に構える。目の前に何もないのに。

 リースの大剣が光って風が集まり、うねりが生じる。もしかして、スキルアーツでも発動中なのだろうか? 構えは【レイトラル】のとは少し違っているし、そもそも以前見たリースの【レイトラル】では大剣に風なんて集まらなかったから別のスキルアーツか。

 でも、この竜巻に並みの風では太刀打ち出来ない所かそのまま竜巻自体の威力が増してしまいそうなんだが……。とか思っていると風を集めた大剣が緑色に輝き出す。

「いくぞ」

 静かに宣言したリースは大きく半円を描きながら大剣を振り抜く。振り抜いた瞬間に、大剣に集まっていた風は消えた。広範囲に伝播した訳ではなく、空気に溶けるように、音も無く霧散した。大剣を振り抜き終えれば、ペガサスを中心にした【アトラクトタイフーン】の竜巻もまた、微風一つ残さずに消え失せた。

 何が起きた? どうして【アトラクトタイフーン】が消えたんだ?

「とぅ!」

 俺が頭の中をクエスチョンマークで満たしていると何時ものようにデカい掛け声共にリースはペガサスに向かって大きくジャンプした。更には頂点に達した所で空中を蹴ってもう一度ジャンプした。二段ジャンプ? そんなスキルってあったっけ? いや、スキル一覧には無かった筈……だとしたら隠れスキルの一つか?

「ん? 隠れスキル?」

 心の中で呟いた言葉に引っ掛かりを覚えて首を傾げ、思い出す。リースの隠れスキルを。正確には、スキルアーツを。

 先程リースが放ったのは恐らく【凪の一撃】。一定時間リース以外の風属性の攻撃を無効化して、風属性に対する耐性も無くす。隠れスキル【疾風剣】を習得すると使用出来るようになるスキルアーツ……だとアケビが言ってたな。

 このスキルアーツがあれば、【アトラクトタイフーン】は全く怖く無いけど……ディレイタイムってどのくらいだろうか? 風属性無効時間の方が先に切れたら、為す総べなく今度こそ巻き込まれるな。と言うか、流石にあまり時間を置かずに連発出来たらゲームバランスが崩壊するだろうから、ディレイタイムの方が長いか。

 リースにディレイタイムと無効時間がどれくらいか? を訊こうにも状況的に訊けないんだよな。リースはリースで空駆けるペガサスに挑み始めたし。

「ようやく普通に動けるようになったな」

 俺は俺でドッペルゲンガーと互いに動けるようになったもの同士で戦闘が開始されたからな。よそ見とか、意識を別に向けにくくなった。

 ドッペルゲンガーは俺の攻撃に合わせてフライパンにはフライパンで、包丁には包丁で、蹴りには蹴りで対応して相殺してくる。まるでイベントの時の幻人と戦っているかのように思えるが、全然違う事が直ぐに分かる。

 こいつ、俺の攻撃に後出しして同じ攻撃をしてきやがる。しかも、俺の動きを読んでいるようで、後出しでも殆ど遅れていない。

 敏捷、器用のステータスはドッペルゲンガーの方が上だろうな。そうでないと、こんな芸当は出来ないだろうし。

 と言うか、普通に向こうから攻撃して来れば俺は防戦一方に追い込まれる筈だ。なのに、そうしようとしない。まるで遊ばれているようで少しムカつく。

「おいおい、そんなものか?」

 ドッペルゲンガーが涼しい顔をしながら挑発してくる。が、これ以上連撃を繰り広げると俺の体力が一気に底を尽く。もう三割にまで減り、ペースを緩めないといけない。

 その為に一度距離を置こうと目一杯後方へと飛ぶ。

「逃げんな逃げんな。もっと楽しもうぜ?」

 が、ドッペルゲンガーもほんの少し遅れる形で前へと跳び、俺との距離を一定に保ったまま互いに移動しただけとなって離れる事が出来なかった。

「ちっ」

 俺は『ショートカットオープン』と念じ、アップデートによって追加されたショートカットウィンドウを呼び出す。

 スキルアーツを発動する際に出すコマンドウィンドウとは違って放射状に広がっておらず、横二マス縦六マスの計十二マスが俺にだけ見える形で展開。

 俺が事前に登録している料理アイテム【セレリルステーキ】を使うと念じる。【セレリルステーキ】はセレリルを倒した際に稀に手に入る【セレリルの腿肉】を切ってミディアムレアに焼き、塩で味付けしたものだ。効果は体力を15%回復。それにプラスして二十秒間筋力が5%上がる追加効果もある。

 今の所、体力回復以外の効果が付加した料理はこの【セレリルステーキ】だけで、接近戦を主軸にしている俺にとっては有り難いものになっている。ただ、女性陣は(セレリル)の肉を使っているからか、抵抗があり自分達には使わないでと宣言されほぼ俺専用の回復アイテムと化してしまっている。

 因みに食べてみた感想は、結構鶏肉に近くて旨かった。あと、なんかもっちりしてた。パサついてなくて瑞々しい。脂があまりないからあっさりで、唯一一緒に食べたキマイラが物凄い勢いでがっついていたのが鮮明に思い出せる。

 いや、今そんな事はどうでもいいか。このショートカットウィンドウを操作しながら戦闘するのは正直しんどいな。攻撃の手が緩む。ただ、ドッペルゲンガーが俺の攻撃に後出ししている今ならそれ程苦でもないか。


『誰に使用しますか?

 オウカ

 リース

 カンナギ     』


 別のウィンドウが表示され、俺はリースを選択する。そしてまたショートカットウィンドウを表示させ、今度は【セレリルステーキ】をカンナギに使用する。

 リースもカンナギも、俺程ではないにしろ体力は削られている。もしかしたら自分達でもう回復しているかもしれないが一応回復と、微力ながら決定力の底上げを図った次第だ。それに、俺よりも強いリースとカンナギの二人が戦闘不能になるよりも弱い俺が戦闘不能になる方がまだ召喚獣達に勝てるだろうし。

 で、俺も体力を回復するべくショートカットウィンドウを出し、【こんがりアギャー肉(骨付き)】を四個消費して体力を40%回復させる。

 これで体力に余裕が出来たから、一発くらいはスキルアーツを発動出来るな。

 俺はコマンドウィンドウを表示させ、スキルアーツを選択。【AMチェンジ】の効果で再現を開始する。

「くらえっ」

 フライパンを大きく振り被りながらジャンプして、そのまま振り下ろす。

「喰らうかよ」

 ドッペルゲンガーも俺と同じように跳んで大きく振り被ったフライパンを僅かに遅れる形で振り下ろす。

 互いのフライパンは完全に振り下ろされる前に接触し、弾かれる。俺はそのまま着地するが、ドッペルゲンガーは足をもつれさせて着地に失敗した。

「しま……っ」

 取り敢えず、効果が発動した様でよかった。俺が使ったスキルアーツは【ショックハンマー】。攻撃した相手を一定確率で行動不能にする効果を持つ。別に脳天に直撃させる必要はない、とクルルの森のモンスター達で実験した。脳天に当てた方が行動不能にしやすいし、その時間も長くなるが、当たりさえすれば行動不能に出来る優れたスキルアーツだ。

 なので、俺の攻撃を避けようともせず相殺してくるドッペルゲンガー相手に使った次第だ。行動不能になるまで【ショックハンマー】を連発しようと思ったが、運よく一発目で行動不能になってくれて助かった。

「く、そ」

 ドッペルゲンガーは呻くだけで全く動けない。行動不能時間はおよそ五秒。脳天に当てれば十秒だが、五秒でも余裕が出来るのはとても有り難い。

 今のうちに出来る限りダメージを与えおこうと思い、スキルアーツ【乱れ切り】を発動させ、滅多切りにする。【AMチェンジ】の効果で連撃系スキルアーツの最後の一撃は威力が五倍になるから、結構いいダメージになると思う。

「このっ!」

 だが、最後の一撃は避けられてしまう。行動不能時間が過ぎて動けるようになってしまったか。でも、これで生命力を削れたからアドバンテージは稼げた筈だ。

「やってくれたな! もう遊びは終わりだ!」

 どうやら、ドッペルゲンガーが俺の攻撃に後出ししていたのは遊びだったかららしい。何かムカつくが、それって三下の放つ言葉じゃないか? とどうでもいい事を思てしまうが油断出来ない。

 ドッペルゲンガーが包丁を突き刺して来たので、フライパンで受け止める。更にフライパンと蹴りを巧みに織り交ぜながら一方的に攻撃してくる。俺はそれらの軌道を逸らしたり避けたりするので手一杯になる。先程よりも速くなってこちらから攻撃が出来なくなってしまった。

「無よ、我が言葉により形を成し、辺り一帯を呑み込め! 【ウェイブグラビティ】!」

 攻撃を続けながらもドッペルゲンガーが超至近距離で【ウェイブグラビティ】を発動させ、避ける間もなく俺は喰らって敏捷と器用が下がってしまう。動きが遅くなった俺をドッペルゲンガーが蹴り飛ばし、先程開けようとしていた距離が開く。

 この一撃で生命力が三割にまで減ったので急いでショートカットウィンドウに登録した【生命薬】を使用して回復させる。更に体力も【こんがりアギャー肉(骨付き】で回復。その間にドッペルゲンガーはまた詠唱をする。

「無よ、我が言葉により形を成し、星の力を弱める鎧となれ! 【アンチグラビティアーマー】!」

 訊いた事のない魔法を発動させ、透明なうねりがドッペルゲンガーを上から包み込む。

「無よ、我が言葉により形を成し、星の力を我が武器に宿せ! 【アディショングラビティフォース】!」

 地面から発生した透明な波がドッペルゲンガーの持つ包丁とフライパンを包み込む。包丁とフライパンは何故か輪郭がぼやけ、歪んでしまっている。

 二つの魔法も重力が関係しているらしいが、効果は正反対だよな。ドッペルゲンガーの体を包んだのはアンチってついてたから重力を軽減するもの。逆に包丁とフライパンを包んだのは重力を付加もしくは発生させるもの……だと思う。何か歪んで見えるし。

「これであっさり終わるなよ!」

 ドッペルゲンガーは包丁とフライパンを逆手に持ち替え、眼にも止まらぬ速さで俺に近付いてくる。

「凄く重い攻撃だな!」

「こんな無魔法ってあったっけ?」

 俺の身体が反射的に動く暇も与えずに二つの武器で攻撃を仕掛けてきたが、それは俺の後ろから現れたリースとカンナギによって防がれた。

 あの、俺は反応出来なかった攻撃なんだけど……この二人は凄いな本当。

 って、何でリースとカンナギはこっちに来たんだ? 御蔭で俺は助かったけどペガサスと馬頭鬼をフリーにしちゃいけないと思うんだけど。

「そちらさん二人はもう終わったのか」

「あぁ!」

「まぁね」

 ドッペルゲンガーの問いにリースとカンナギは頷く。

 終わったって……何が?

 何となく後ろを振り返るとそこには何もなかった。

 何もなかったし、いなかった。

 ……あれ? 馬頭鬼とペガサスは? もしかして、もう倒してしまったのかこの二人は?

 まだ開始数分の筈なんだけど……。何なのこの二人?



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