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 建物の中に入ると長い一本道の通路があり、段々と下へと向かっている。急勾配ではないから転がっていくと言う危険はない。両側の壁に松明が等間隔についているので暗くて足元が見えずに転ぶと言った事もない。

「そう言えば」

 ふと、疑問が浮かんだのでカンナギに質問を投げ掛ける。

「カエデも召喚具の素持ってる筈だよな? あいつは呼ばなくてもよかったのか?」

 確か、以前ツバキがそう言ってた。自分はイベント期間中パートナーの卵も召喚具も手に入らなかったと愚痴を零してたし。

 カンナギは「あぁ」とこちらに顔を向けながら返答する。

「カエデは、雪原でその召喚具を使えるようにしたからもう意味がない」

「そうか」

 雪原にも召喚具を使えるようにする場所あるのか。それにしても何故雪原? と思うが深く気にしないでおこう。

「所でカンナギさん!」

「何ですか?」

 と、今度はリースがカンナギに質問を開始する。と言うか、こんな四方を囲まれた狭い通路で大きな声を出さないで欲しい。耳に響く。

「君はよくここを見付けられたね! 何の変哲もない草原の一角だったと言うのに!」

 確かに、それは俺も思う。絶対普通じゃ分からない。あれの何処が怪しいかって言われれば、何処も怪しくない。普通に草が生えてるだけだし。まぁ、でも。それでもこういった場所を見付けられるよな。カンナギのパーティーは。

「それは私のパーティーメンバーの一人がここ怪しいって言ったからです」

 カンナギは軽く笑みを浮かべながら答える。そのパーティーメンバーって絶対ツバキだよな。こういうの探すのに向いてるスキル【観察眼】持ってるし。

 と言う事は、ツバキとカエデもこの場所を知っているんだな、と一人で納得しているとカンナギが肩を竦める。

「でも、その時は踏んでも穴が開かなかったんです。その時パーティーメンバーは『あれ~? おっかしいな~?』って首を傾げてました。これ以上ここにいても仕方ないからって離れました」

 穴が開かなかった? どうしてだ? さっきはカンナギが踏んだだけでぽっかりと開いたのにな。って、つまりはツバキとカエデはここに穴がある事は分からず、この場所を知らないって事になるのか。

「で、その後皆と別れて、私一人でやってきました。そしたら踏んだ瞬間にボッシュート。ここを見付けて奥へ進んで召喚具使えるようになる場所発見。それが昨日の夜の話です」

 見付けたの昨日の夜だったのか。つい最近過ぎるなそれ。と言うか、パーティー行動してる時は穴が開かなくて、単独だと開くって事か? でも、それだと今回は俺とリースもいるから単独じゃなくなって開かなくなる筈だが。

 もしくは、ここに来るプレイヤーによって開く開かないの判定があるのか? カンナギとツバキ、カエデで何が違うんだ? 

「……もしかして」

 ふと、一つの仮説が頭に浮かんだのでカンナギに確認を取ってみる。

「その時リークいたのか?」

「いた」

 リークはツバキのパートナーモンスター。カエデとカンナギはパートナーを連れていない【サモナー】……と言う事は。

「つまり! カンナギさんが我々にパートナーを連れてこないように言ったのは!」

「連れて来ると穴が開かない可能性があったからです。と言うよりも、ほぼ確実に開かないかと」

 やはり、か。パートナーモンスターが近くにいるとここへと続く穴が開かないようになってるみたいだ。だから俺にパートナーは連れて来るなって言ったのか。流石に召喚獣のイベントだからパートナーモンスターはお門違いって事か。

 こりゃ【テイマー】がここを見付けるのは無理だな。【サモナー】でも、パーティー内に【テイマー】がいては訪れるのは不可能。まぁ、【テイマー】でも今の俺やリースのように連れて来なければ問題はないけど。

 ……で、また新たに一つ疑問が浮かんでくる。カンナギは俺の他にリースを誘っていたけど、二人は面識があったのだろうか?

「……そう言えば、カンナギとリースは知り合いなのか?」

「うん。以前横穴のボスを一緒に討伐した」

 一緒に討伐した仲、か。リースはソロプレイヤーだがボス戦では他のパーティーと一緒になって挑んでるようだから知り合う可能性もあったか。

 と言うか……。

「横穴にもボスがいるのか……」

 今度ウィキで調べてみよう。あと、横穴に全然行ってないな。北の森クリアしたら一度行くべきか? サクラもアケビもノリュリュ村の通行証貰ってないし。

 いや、それは後で考えよう。

「うん、いるよ。で、それ以降はソロイベントの時にまた会っただけで、会う頻度は少なかったけど」

「昨日偶然カンナギさんと再会してね! その時にこの話を持ちかけられたのだよ!」

 カンナギの言葉に被せるようにリースが何かポーズを決めながら答える。トルドラゴや新参のフートルがいないと何か寂しいな……と何故か思ってしまう。

 そうか。偶然再会してその時にカンナギに誘われたのか。つまり、メッセージとかボイスチャットでの連絡はしてない、と。

 何となく、カンナギに殆ど声を出さずに聞いてみる。カンナギは【地獄耳】スキル所持してるから聞こえるだろ

「…………カンナギ、お前リースとフレンド登録は?」

 俺の質問に対する答えをカンナギは言葉に出さずに示す。首を少しだけ横に振ると言う行動によって。

 って、してないのかよ。そうだろうとは思ったけどさ。

 一緒にボスを倒しても、フレンド登録されないって……。ちょっとリースが不憫になって来て流石にもうフレンドになれよ、と口にしようとした所でこの通路の終点に着く。

 道はここで終わりで、俺達の前には重そうな石の扉が聳えている。この先で、召喚具を使えるようにするのか。

「行きますよ?」

 カンナギの言葉に俺達は頷き、扉を開ける。

 石の扉を潜るとドーム状の場所へと出た。建物の外と通路と違って松明ではなく、シンセの街と同様に光球がそこらに浮かんでいて、それで光源が保たれている。

 で、中央にこちらに背を向けて立っている。服装は長い藍色のローブを身に纏い、フードで頭をすっぽりと覆ってしまっているので、怪しい以外の情報は分からない。

 恐らくこいつが召喚具を使えるようにしてくれるNPCなんだろうな。

「こんな辺鄙な場所へと遥々ようこそ」

 ローブを纏った誰かは振り返りながらフードを外す。黄土色の髪は肘に当たるくらいまであり、瞳の色も同色。顔は中性的で声も男とも女ともどちらとも取れるくらい曖昧なもの。

「おや、二人は面識があるけど、一人は初対面だね?」

 黄土髪はカンナギとリースを見た後に俺に視線を向けて首を傾げる。って、こいつはリースを知ってるのか? カンナギの事を知ってるのは分かるけど、どうしてリースの事まで?

 それとなくリースの方を見ると、リースの方もびっくりしているようで目を開いて黄土髪を指差す。

「地神ではないかっ⁉」

「地神?」

 地神……地神……? 訊いた事があるようなないような……?

「久しぶりだね。全てのダンジョンの踏破者」

 黄土髪もとい地神がリースを見て全てのダンジョンの踏破者と呼ぶ。全てのダンジョンの踏破者って、この間のソロイベントで、リースが全ダンジョンをクリアしたからそう言ってるのか?

 ん? ソロイベント……?

「あ」

 そうだ。【地神からの挑戦】だ。確かイベント中に定期的に送られてきたランキングのソロイベントの名前が【地神からの挑戦】だったか。まさか、召喚具を使えるようにするNPCってのが地神と言う偉大な存在とは。不思議と納得するのは何故だろうか?

「そして、君は以前もここに来たね? 今回来た目的は? また質問をする為かい?」

 地神の質問にカンナギは首を横に振る。

「いいえ。今回は召喚具を使えるようにする為」

 その答えに地神は僅かに笑みを作る。

「そうか。それはそちらの二人も同じかい?」

 俺とリースも頷く。地神は満足そうに頷き返す。

「そうかそうか。なら、直ぐにでも行うとしよう。では、悪いが一旦君達の持つ召喚具をこちらに渡しては貰えないだろうか? あと、それ相応の代価も支払って貰うよ」

 その声を合図に、俺達の前にウィンドウが表示される。


『【幻人の塊】を渡しますか?

 はい

 いいえ           』


 前回のイベントで手に入れた【幻人の塊】を渡すかどうかの選択が出て、俺は『はい』を選ぶ。

 カンナギとリースも同様の選択をする。すると、俺達の胸から光が漏れ出し、俺から出た光は灰色のゴツゴツとした塊になる。カンナギのそれは二股に分かれた槍のようなものへと、リースのは金色に光る縄へと変化する。それらは宙を飛び地神の手元に集まる。


『所持金が不足しています。 ※所持金:124ネル』


 次に、こんなウィンドウが表示される。なんか、あの喫茶店以来だな。このウィンドウ見るの。

「おや? 一人代価を払えないようだが?」

「私が代わりに払う」

 地神が首を傾げて俺の方を見ると、カンナギが目の前に表示されているウィンドウを弄る。


『プレイヤー:カンナギが代わりに支払いました』


 カンナギが一時的に肩代わりをしてくれる。俺はカンナギに頭を下げる。すると、カンナギは首を横に振って気にするなと言うようなジェスチャーをしてくる。

「確かに預かった。では、直ぐに依代としよう」

 全員分の代価を受け取った地神は手元に集まった召喚具を一つ一つ優しく手で包み込む。三秒くらい包んでから解放すると、ゴツゴツとした灰色の塊は半透明な真球の首飾りへと、二股に分かれた槍のようなのは赤い珠が埋め込まれた槍のような耳飾りに、金色に光る縄は縄の紋様が描かれた輝く籠手へと変化していた。

「さて、これで君達の召喚具は召喚獣を呼べるようになった訳だが……」

 地神は一旦区切ると召喚具を軽く宙に投げる。召喚具は地面に落ちる事無く、その場に留まり続ける。

「一人は知っていると思うが……いや、わざわざ色々と私に質問を投げ掛けてきた一人がいるんだ。君達二人に説明も確認も不要か」

 地神が両腕を広げると、背後の扉が音を立てて閉まり、ドーム状のこの場を覆うように透明な壁が出現する。

「これより、召喚獣の力を引き出す為の試練を行う。君達三人と召喚獣三体による闘いだ。他の召喚獣による介入は一切認めない。正真正銘の三対三だ。何、負けても問題はない。ここでは死に戻りもせず、負けた場合も召喚獣は君達の喚び掛けにきちんと応える。……各々、玉砕覚悟で挑みたまえ」

 言い終えると地神がその場から消える。それを合図に、宙に浮いている召喚具が眩く光り輝く。

 さて、本当に玉砕覚悟でやるとするか。



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