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何故かある山門を目の前に、俺達は続いている道を見る。一寸先は闇を体現しているほどに暗いので道の始めくらいしか分からないな。道は最初は一本だが、そこからどんどんと枝分かれしていっているらしい(ツバキ談)。暗くてよく見えないけど。
分かれ道はプレイヤーによる混雑をなくそうとした結果か、はたまたこの道毎に難易度が変化する仕様なのか。まぁ、可能性としては両方だと思うが。
「よし、じゃあ行ってみるか」
火の灯ったランタンを片手に持ったツバキと少しだけ火を吹くフレニアを先頭に、俺達は新たに実装されたエリア――キリリ山へと踏み込んでいく。ランタンの明かりとフレニアの吐く火によって視界は結構良好だ。
ランタンを所持していないが、フレニアがいれば必要ないか。
いや、流石にフレニアが離脱した場合を考えると必要か。もしくは、光属性か炎属性の魔法、【夜目】のスキルを持っといた方がいいかもしれない。
そんな事を一人つらつらと考えながら俺達一行は山の夜道を進んで行く。
…………因みに。
どうしてだか知らないが、移動するコケゲの振動を感じ取れたのは俺だけのようで、他の奴等は皆平然としていた。グロッキー状態になったのは俺だけ。正直、物凄く納得がいかない……っ。
俺が乗ってたコケゲだけ振動が発生、という訳でもなく同じコケゲに乗ってたツバキは平然としており、やせ我慢をしているようには見えなかったらしい(アケビ談)。スビティーもフレニアも平気だったそうだ。ただ、三人(一人と二匹)はどちらかと言えば俺の意思ではないタックルの方が痛かったそうだ。
兎にも角にも、結局俺の酔いが醒めるまで待つ事になってしまったが、時間にしてほんの数分で終わりを迎えた。これに関しては自分の回復能力が上がった訳ではなく、カエデにある丸薬を呑まされたからだ。呑んだ瞬間に酔いが一呼吸するより早く鳴りを潜めた。
その丸薬の名前は【醒め薬】という状態異常回復アイテムで、効果は混乱を回復。どうやら酔いは状態異常の混乱に含まれるようで、今度から俺は【醒め薬】を常備しようと心に決めた。幸いNPCの店でも買えるらしいし、そして調合もしやすい部類の回復アイテムなのであとでサクラとアケビに頼み込むとしよう。
因みに、カエデが俺に【醒め薬】を呑ませた理由は「もしかしたら、醒めると思ったから」だそうだ。ある意味で実験だったが、カエデの御蔭でSTOの世界に限り、酔いがすぐに醒める事が可能になった。なので、カエデには何度も頭を下げた。
さて、キリリ山の道は緩やかに傾斜がついている所もあれば、およそ三十度も傾斜のある道があるらしい。それは道毎に異なっているそうだ。
初めは緩やかで、今の所俺達は苦も無く進んで行く。麓からだいたい十二メートルくらいで最初の分かれ道に出くわす。
右、左、そしてそのまま真っ直ぐに続く三叉路。
「どっち行く?」
『まかせた』
ツバキの質問に即座にカンナギが答えた。メッセージで。まぁ、最初だから俺も先頭を行くツバキとかフレニアにでも決めて貰った方が楽でいい。俺と同じかは分からないが、他の女性三人も右に同じ。決定権はツバキにゆだねられた。
「えっと……今回はこっちの方がいいな」
ツバキが選んだ分かれ道は最初は真っ直ぐ、次の分かれ道は右、最後は右でそこからは道は枝分かれしていない。
真っ直ぐではなく、蛇行したり大きく右に曲がったりと様相を変えて来ている。進むにつれて、周りに生えていた木々はより一層茂ってくる。ここで道を逸れて木々の中に入れば、即座に戦闘が始まりそうだな。実際、少し遠くからモンスターと戦ってるような音がちらほら聞こえてくる。
でも、今回はあくまでキリリ山を探索? 散策って言えばいいか? 兎にも角にも戦闘が目的じゃないから道を逸れない。
あ、そう言えばリースも今この山に来てるんだよな? もしかしたらこの木々の向こうで戦ってるのがリースだったりして……。今日はもう会いたくないな。あと、機甲鎧魔法騎士団の面々にも。ローズやモミジちゃんなら大丈夫だけど、副団長……名前は何だったか? まぁ、兎も角絡み上戸とだけは会いたくない。サモレンジャーは……いいか。
「……ん?」
「れに?」
先頭を行くツバキがふと立ち止まる。それにつられてフレニアも静止。後続の俺達も止まる。
「どうしたの?」
「いや、何か地面が気になってさ」
突如止まったツバキにカエデが首を傾げながら質問すると、ツバキはしゃがんでランタンを置き、そのまま地面を触り始める。
ツバキは【観察眼】のスキルを所持している。これの御蔭で前のイベントではクォールの掘った穴に引っ掛からずに済んだし、最後のイベントボス戦でも比較的楽に攻撃を与え続ける事が出来た。
ランタンとフレニアによって明るくなったが故に、違和感を感じ取ったのかもしれない。試しに俺も見てみるが、何処が気になるのか皆目見当がつかない。俺もこのスキル収得しようかな?
そう言えば、アップデートでは新たにスキルも増えたのか? 事前告知では全く触れられてなかったけど、ありそうだな。後で確かめてみよう。
「……ここもかぁ⁉」
ツバキが地面を観察して一分。違和感のある場所を触ったツバキが吹っ飛んだ。文字通りに、やや斜め上前方に。そしてそのまま落下して背中を強打するように地面に激突した。頭の横に丁度よくランタンが着地する。無傷って……流石はゲームか。
「ぐべっ!」
「しーっ⁉」
「ちょっ⁉ ツバキ大丈ぉ⁉」
『なにそれ面白そう』
即座にカエデとリークがツバキの安否を確かめにそのまま駆け出してしまい、ツバキの二の舞に。そしてカンナギに至ってはホップステップをしてジャンプのタイミングでわざと吹っ飛ばされた。一人だけ楽しんでやがる……。
と言うか。何だ? これ?
「どうする? 私達もやっておく?」
「いや、流石にそれは……。僕、絶叫系はあんまり得意じゃないですし」
後ろでアケビとサクラがのんきにそんな会話をしている。絶叫系が得意ならやったのか。と言うか、絶叫系が苦手ならあの時無理してジェットコースターに化けたシェイプシフターに乗らなくてよかったんじゃないか?
「しーっ⁉」
「れ、れにーっ!」
「びー! びーっ!」
リークが吹っ飛んでしまったのでリトシーが慌てて駆け寄ろうとして二の舞……いや、三の舞って言うべきか? 兎にも角にもリトシーも吹っ飛び、フレニアとスビティーが急いで先回りしてキャッチした。因みに落下予測地点には下からツバキ、リーク、カエデ、カンナギの順に伏している。ただし、カンナギだけは無事に(カエデの上に)着地したが何故かそのまま横になったから伏している状態だ。
「……で、あいつらはここを踏んで飛んで行った、と」
俺はゆっくりとその地点へと近付いてしゃがみ、覗き込む。見た目全く罠があるようには見えない。普通の――と言っていいのか分からないがそんな地面がそこにあるだけだ。
まさか、セーフティエリアである道にこんな絶叫系の罠が仕掛けられているとは思わなんだ。と言うか、こんなのがあるんならもうセーフティエリアって言えないな。
「まぁ、何はともあれ山道を行くには注意しないといけないな」
俺は立ち上がって伏しているカンナギパーティーを助け起こそうと足を踏み出す。勿論、罠の場所は踏まないように。
「あっ! オウカそこ踏むなっ!」
丁度顔がこっちに向いていたツバキは目を開いて俺に警告を発してくる。
「え?」
しかし、もう既に遅く俺は一歩踏み出している。そしたら、地面を踏み抜いた。踏み抜いた場所から穴が広がり、人が一人通過出来るくらいまで大きくなる。
「え――――――――――――――?」
ここって、本当にセーフティエリアかよ? と疑問に思いながら、俺はそのまま真下に落ちて行った。




