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昨日は五度【怪盗からの再挑戦状】をトライしたが、追い付く事叶わず、ドリットを墜落させる事も出来ずに失敗の連続で終わった。
「ミビニーと一緒に外に行くか」
今日は土曜日で学校が休み。春休みの時と同じ午後一時にログインして拠点に来て一言。
本日もサクラとアケビはいない。予定が今日まで延びてしまったからだそうで、明日には来れるらしいとメッセージが届いていた。二人は新しい仲間と少し変わった拠点を見てどういった反応をするのか?
と言うのは置いておくとして。ミビニーと一緒に外に行くのには理由がある。
ミビニーは【怪盗からの再挑戦状】で有効な魔法と固有技を持っているからだ。【初級風魔法・補助】は敏捷を上げる事が出来る。固有技の【花粉団子】は走るので減っていく体力をアイテムの消費無しに回復出来る貴重な技だ。
ただ、いくら有効な魔法と固有技を持っていてもミビニー自身のステータスを上げておかないと、全力で走る俺に追いつけず、魔法の効果や体力が切れそうな時に直ぐに発動が出来ない。
リトシーは俺と同じレベルだけど、ミビニーはレベル1。レベルを上げてリトシーと同じ……とまではいかないが、15くらいまでには上げたいな。
それに、魔法も何度も使えばスキル経験値が溜まって、効果時間が増えたり効果自体に変化が現れたりする。固有技に関しては信頼度を上げないと逆に体力が減ってしまう。
ミビニーのレベルアップ、それに魔法のスキル経験値上げ、信頼度の上昇を目的に外へ……より正確にはクルル平原へと行こうと思う。
クルルの森とか横穴では確かに一気にレベルが上がりそうだけど、その分ミビニーに危険が伴う。レベルが上がってから行った方が死に戻りする可能性は低くなる。
暫くはリトシー達との仲を向上させる事を優先させようと思ってたけど、三匹並んで昼寝して、起きて直ぐに追い駆けっこを始めたのを見た時に、もう充分だと判断した。
キマイラとの仲も良好で、今日ログインした時にはキマイラの背中に三匹が乗って昼寝してたし。追い駆けっこにも参加していた。その時のミビニーの顔は恐怖してなかったのが証拠になる。
「……と言う訳で、悪いけどリトシー、フレニア、キマイラは今回留守番でいいか?」
「しー」
「れにー」
「グル」
リトシー達は嫌な顔一つせずに頷いてくれる。流石に今日一日ずっとミビニーといる訳ではないけど、帰ってきたらちゃんと構ってやらないとな。
「じゃあ、ミビニー行くぞ」
「びー」
俺とミビニーは拠点を出てシンセの街へと降り立つ。
そこから直ぐに移動を開始する。ちらちらと何故か俺の方を見てくるプレイヤーが何人かいたが、それを無視して北門へと向かい、そこからクルル平原へと出て直ぐに草原の方へと向かい、モンスターと出逢う為に徘徊する。土曜日と言う事もあってか、他にもプレイヤーが結構いる。
「ミビニー、魔法で補助を頼む」
「びー!」
ミビニーは魔法を発動させ、先日PvPをしたローズと同じように風が纏わり付く。
『00:00:20』
視界の端に時間が表示される。これが魔法による恩恵を受けられる時間みたいだ。レベル……じゃなくて魔法の経験値が上がればローズと同じように一分以上敏捷を上げる事が出来る筈だ。
「ぶぎゅー」
「あぎゃー」
ホッピー二体とアギャー一体が横から飛び出してきた。
手始めにとホッピーに接近してサッカーボールのように蹴り飛ばす。今まで以上の速さが出て、自分でも戸惑ったがきちんと芯を捉えて彼方に吹っ飛ばし光に還す事が出来た。
その後にアギャーに踵落としを食らわし、最後に残ったホッピーをフライパンで叩き付けて戦闘終了。
『ホッピーを二体倒した。
アギャーを一体倒した。
経験値を80手に入れた。
アギャーの胸肉×1を手に入れた。
ミビニーのレベルが上がった。 』
レベル上がったな。まぁ、パーティーメンバーがいないから経験値の分散が無い分多く経験値貰えるから当然か。
その後もホッピー、アギャー、時々ロッカードを倒して順調に経験値を溜めていく。ミビニーは精神力の続く限り俺に魔法を掛けてそちらの方の経験値を上げる事に専念し、直接の戦闘は今の所やっていない。
ただ、レベルが5になった時に【初級風魔法・攻撃】を覚えた。筋力と魔力の数値が同程度だから近距離、遠距離の攻撃が可能の万能型になったか? ただ、俺と同じで耐久と魔法耐久はあまり高くなく、敏捷が高いから近距離はヒットアンドウェイが主体になりそうだな。もしくは攻撃を躱し続けるか。
パートナーモンスターはプレイヤーと相性がいいのが生まれるとリースが言っていたな。リトシーは防御的な補助に徹し、相手の弱点を突くのに長けているのに対して、ミビニーは攻撃と防御の補助を一手に出来る。確かにどちらも俺と相性がいいとは言えるけど、こうまで違うか。
パートナーは二匹同時に連れ歩けないから、これからは戦う相手によって連れて行くパートナー変えていった方がいいな。
と考えながらモンスターを狩っているとミビニーのレベルが7になったので、ある程度動けると思いクルルの森へと向かう。そう言えば、イベント以来だなここに来るの。
何故か何時も引っ掛かるトレンキを包丁でざっくざくに切り付け、バッドットをミビニーと一緒に倒し、遭遇率の低いダヴォルと出逢った際には常に周囲を警戒して二匹目の不意打ちを食らわないようにして慎重に戦った。
俺のレベルが26と言う事もあってか、クルルの森のモンスターを一人と一匹で相手してもそこまで苦戦する事はない。と言うか、イベントで散々相手にしてきたモンスターばっかりなので、慣れてると言った方が正しいかもしれない。
なので、ミビニーに攻撃が当たらないようにしてわざと受けた攻撃以外は全て避けている。時折休憩も挟んでミビニーと交流を深めたりもする。
四時間も経過すると、ミビニーのレベルは13にまでなった。たったの四時間でここまで上がるとは思ってなかったな。目標まであと2か。今日中に行けそうだな。俺の方のレベルも2上がって28になった。レベルだけで言えばパーティーで一番高い。二番目はリトシーで26。次はアケビで24か。サクラとフレニアは22。
明日は二人がログインするから久しぶりにフルメンバーでレベル上げでもした方がいいかもな。新しいエリアへと向かうとなると北の森のボスを倒さないといけないし、その為にはレベルを上げないと。ツバキは確かレベルが42の時に他のパーティーと手を組んでボスを倒したって言っていたから、少なくとも40にはしておかないとキツイな。
そうなると、クルルの森だとあまり効率よくレベルは上げられないかもな。早々と北の森に進出したり、横穴でスチアリを狩りまくった方が上げやすいかもしれない。
と考えながらもどんどんクルルの森のモンスターを倒していく。
「ゲゴッ⁉」
『セレリルを倒した。
経験値を75手に入れた。
セレリルの舌×1を手に入れた。
ミビニーのレベルが上がった。 』
スキル【小乱れ】で一気に終わらせたセレリルから得た経験値でミビニーのレベルは15になった。これで当初の目的は果たせたな。さて、じゃあ拠点に戻って留守番してるリトシー達と遊ぶか。
「びー!」
と思っていたら、いきなりミビニーが声を上げ、全身が光に包まれる。
あれ? これってもしかして第一成長か?
光が強まり、視界が白に染まる。
徐々に光が弱くなり、うっすらと目を開けると、ミビニーの外見が変わっていた。頭部、胸部、腹部がそれぞれ楕円形になり、鋭利さが増している。脚にも棘が生えて攻撃的な側面が強調されてるけど、目は全然変わってなくてギャップがある。
『ミビニーはスビティーに成長した』
……何か、リトシーよりも先に成長したな。一応信頼度を確認してみると、結構上がってるがリトシーよりも低い。なのに、成長した。どういう事だ?
考えられるのは、リトシーが成長するにはミビニーもといスビティーよりもレベルと信頼度を上げないといけない事だな。実際、ツバキのリトシー――リークも俺のリトシーよりもレベルが上の筈なのに全然成長してないから可能性大だ。
兎にも角にも、スビティーのステータスを確認してみると、敏捷と運がかなり伸びている。筋力と魔力も伸びてるが、逆に耐久と魔法耐久はレベル14の時と比べて下がってる。あれ? 可笑しいな?
「びーっ」
より敏捷が命なステータスになったスビティーは俺の周りをくるくると飛ぶ。まぁ、本人が気に入っているようだから俺は気にしないでおこう。
「これからもよろしくな、スビティー」
「びーっ!」
スビティーの頭を撫で、拠点に向かう為にシンセの街へと戻ろうと歩き始めるが、一度ログアウトして再度ログインしてからの方がいいかもしれないと考える。
再度ログインするには休憩が必要になるが、今からシンセの街に戻って拠点へ向かうと強制ログアウトが間近になってしまう。一度ログアウトすれば一旦リセット出来るから、リトシー達とその分多く遊べる。
あと、今日は両親が少し早めに帰って来るそうなので、そろそろ夕飯の支度をしないといけないと言うのもある。なので、丁度いい頃合だな。
俺はメニューを開いてログアウトを選択。
「……あの」
――しようとした所で、後ろから声を掛けられる。
「ん?」
手を止めて俺は振り返ったが、即行でメニュー画面に向きを戻してログアウトを直ぐ様選択。
「あ、ちょ」
何か引き留めようとしてきたが完全に無視して現実世界に戻る。
「…………」
自分でも眉間に深い皺が刻まれてるのが分かる。が、取り敢えず気にしても仕方がないので夕飯を作りに下へと降りて行く。
……大丈夫だ。今日はあと拠点でリトシー達と遊ぶだけだから、もう会う事はない。




