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 PvPが終了して体力、生命力が開始前の状態に戻る。

 ……まさか、槍を二本も使うとは。ローズも【二刀術】スキルを習得してるようだな。それも、大物を使えているから初級ではなく中級……いや、上級か。

「対戦、ありがとうございました」

「いや、こちらこそ」

 互いに礼をして、武器を仕舞う。俺は腰に包丁とフライパンを戻すだけだがローズに至っては何時の間にかハルバードと短い槍が何処かに消えたと思ったら吹き飛んだアーマーが何処からか集まってきて再度装着された。

 視線を外した一瞬で装備解除したのか? いや、メニューすら開いてなかったし、それはないか。だとしたら隠れスキルとか……。

 と考えているとツバキからボイスチャットが届く。

「何だ?」

『いや、何だじゃないんだけど。お前の卵が孵化したぞ』

「…………マジか?」

『マジだ』

 また孵化する瞬間に立ち会えなかったな。と言うか、孵化の時間が早いな。一時間経ってないぞ。

『つー訳で今お前のいる場所教えろ』

「今いる場所……南東の少し広めの道だ。周りに急に人が湧いてきてる」

 マップを開いて、大まかな現在地をツバキに伝える。そう言えば、PvPの時は本当に人気が無かったのに、今では普通にプレイヤーが闊歩してるな。俺としては巻き込まなくてよかったと思うが、急過ぎるな。

『もう少し具体的に……まではいいか。取り敢えず連れてくからな』

「迷惑掛ける」

『いや本当にね。PvPじゃリンチだし』

「それは仕方ない」

『仕方ないって何が? って言っても意味ねぇ気がするからもう切るぞ』

 そう言ってツバキはボイスチャットを切る。

 さて、来るまで端によって待つか。

 俺とローズは人が増えた道の端で建物の壁に背を預けてツバキの到着を待つ。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………そう言えば」

 互いに無言だったが、耐えられなかったのかローズが口を開く。

「ツバキから訊いていたのですが、本当に包丁とフライパンを武器に使用しているのですね」

「あぁ」

 ローズは俺と初対面なのに包丁とフライパンの事に触れて来なかったな。気にしないだけかと思ったが、そうでもないみたいだな。今更だけど確認してきた訳だし。

「何かしらの縛りをつけている訳でもなく、昔から姉弟の喧嘩で使っていて手に馴染んでいる、とか」

「あぁ」

「…………どういう生活を送ればそんな殺伐とした喧嘩をするんですか?」

「普通の生活を送ってるんだが」

「いえ、普通ではないです」

 一言でバッサリと切り伏せられた。俺としては普通だと思うんだが、やはり普通の基準は人によって違うか。

 だったら、俺の方も疑問に思った事を訊いてみる事にするか。

「そっちこそ、急にアーマーを吹き飛ばして槍持つなんて普通じゃないだろ」

「それについては同意しますが、機甲鎧魔法騎士団(アーマードマジカルナイツ)では皆がやる事ですけどね」

「マジかよ」

 と言う事は、サモレンジャーと同じでパーティー全員が共通して習得した隠れスキルなのか?

「いえ、これはスキルではありません」

 口に出して質問するが、ローズは首を横に振って否定した。

「じゃあ、何で一瞬でアーマー解除したり槍とか装備出来たんだ? メニュー開く余裕が実はあったとか?」

「メニューも開いていません。あれはこのアーマーの機能の一つです」

 ローズはすらすらと答える。アーマーの機能の……一部、だと?

「今は何処にいるか分かりませんが、ある一人のプレイヤーの作品なのです。通常形態は身体全体を覆うフルアーマーなのですが、コマンドウィンドウにキーワード【解放(パージ)】を設定し、言葉にすると一部アーマーが弾けて、武器に変化します」

「は?」

 アーマーの一部が、武器になる?

「つまり、PvPで使ってたあのハルバードと短い槍が、元はそのフルアーマーだってのか?」

「はい」

 ローズは頷く。確かに、あの二本の槍は何処となくアーマーと同じような意匠が施されていた。が、それは装備に統一性を持たせる為に生産職にそう作るように注文した結果、と思ったのだが……。

「いや、嘘だろ」

 あまりに信じられなくてついそう口にしてしまう。何だよ、

「嘘ではありません」

 そう言うとローズはメニューを表示させて、装備の説明を俺に見せてくる。


『コンバートアーマー-type R-:流線型のフルアーマー。【解放(パージ)】を合図に、アーマーの一部が弾け飛び、パーツが寄り集まり一定時間二本の槍に変貌する。(武器の装備不可) 耐久+80 魔法耐久+80 敏捷-20 耐毒・小 耐麻痺・小 耐睡眠・小 耐沈黙・小 耐久度700/700(【解放(パージ)】時 筋力+80 耐久+30 魔法耐久+30 耐毒・小 耐麻痺・小 耐睡眠・小 耐沈黙・小 耐久度700/700)※レベル45以上で装備可能』


 本当だった。いや、何だよこの装備? ただ、姉貴の【カームルの大盾】と同じで武器は装備出来なくなる制約があるが、微々たるものでしかないように見える。これなら意表を突く以外にも先程俺が受けたようにアーマーで弾き飛ばして相手との距離を開けるのにも使える。その分、槍を扱える時間が存在する訳だが、それでも爆発力はあるな。

 で、ローズ曰くこういうアーマーを全員が装備しているそうだ。

 こういった装備を作れる生産職となれば、該当スキルが上級以上で間違いない気がする。技術云々も当然必要だが、より複雑な工程を必要とするならスキルの方も成長させないと失敗してしまうし。

 流石はVRゲーム。こんな現実では到底為し得ない装備でも作る事が出来るのか。何時かはサクラとかアケビも作る事が出来るだろうか? ……本人達にその気があればやれるのかもしれない、か?

「なぁ、その装備作っ」

「おっ、いたいた!」

 ローズに更に質問しようとした時、ツバキの声が聞こえた。

 二人同時に声のした方に顔を向けると、ツバキとリーク、そしてツバキの横を飛ぶ蜂の姿が確認出来た。

 あの蜂が、卵から孵った二匹目の俺のパートナーか。蜂の幼虫の姿じゃなくて、成虫の状態で孵化したのか。それにしても、俺が戦ったビーワスとは姿が違うな。街灯に照らされた蜂は少し丸みを帯びていて、目もくりっとして凶悪性は感じられないな。でも、ビーワスの卵から孵化した訳だから……ビーワス、なんだろうが。

「びー!」

 と思っていたら蜂は速度を上げて俺に向かって突進してきた。

「ぐっ」

 腹にダイレクトアタックを受けた。突進してきた蜂は顔をぐりぐりと俺の腹に押し当ててくる。地味に痛いな、これ。大きさがリトシーと同程度なので特に。尻の針で刺されないだけまだマシか。

 だが、流石に痛みを甘んじて受け続けるのは勘弁だったので、蜂をガシッと掴んで引きはがす。

「……びーっ」

 蜂の顔を俺の眼前に持ってくる。蜂は半眼で、目尻が下がってて、涙が溜まっていた。

「何で泣」

「そりゃ、目の前に主人がいなけりゃ不安になるんじゃね? 孵化した直前なら尚更。因みに、ボイチャしてる時こいつ声も上げずにずっと涙ボロッボロ流してたぞ」

 俺が疑問を全部言う前に近くまで来たツバキが答えを口にした。その言葉を合図にしてか、蜂は更に多く涙を流し始めた。

「それは、悪かった。悪かった」

「びーっ! びーっ!」

 俺は蜂を抱いて頭を撫でてあやす。近くにいてやれなかったから、生まれた瞬間にもう嫌われたかもしれないなぁ。自分の不手際が招いた事だけど、嫌われたままは嫌だな。どうにかして仲の改善を図りたい。

「と言うか、どうして俺がパートナーって分かったんだ?」

 蜂をあやしながら当然の疑問を口にする。孵化の瞬間に立ち会えず、あまつさえ近くにいなかったので俺がパートナーだと判断する要素が無かった筈なんだが。

「卵の時にも意識があったとか? もしくはゲームだからの一言で片付けとけ」

 ツバキは軽く肩を竦める。卵の時に意識があっても、卵の殻に覆われて見えて無い訳だからその線はないだろうし。……ゲームだからの一言で片付けた方が楽なんだが、それだと俺自身が納得しない。

「びーっ、びーっ……びー……びー……」

 疑問を解決しようと考えながらあやしていると、蜂は段々と静かになり、寝息を立て始めた。時間としてもそろそろ九時になるからな。もう子供は寝る時間か。

「で、ローズは少しずつ距離取ってるのは何でだ?」

 俺が蜂をあやしている最中にすり足で俺との距離を開けていたローズにそれとなく訊いてみる。現在進行形でも離れて行ってるが。

「いや、あの、それは」

「それはだな、ローズは蜂が怖いんだよ」

 ローズがどもっていると、先にツバキが答えた。

「子供の頃に雀蜂に刺された事があって、それ以来蜂を見る度に怖がってんの」

「そうか」

 そんな過去があるから、この蜂の近くにはいたくない、と。

「すみません。その子とはなんら関係のない事なのですが……蜂はどうしても駄目で……」

「いや、仕方ないだろ。そんな事があれば」

 下手すれば死んでしまうかもしれなかったんだからな。その恐怖が今も根強く残ってるんだろう。それに、雀蜂は一度刺された後にまた刺されると余計に酷い事になる、とか。蜂の近くにいたくないのは防衛本能からも来てると思う。

「って、ちょっと待てツバキ。お前がどうしてローズの過去を知ってんだ?」

 ツバキはローズが子供の頃に刺されたと言っていた。他人の過去をそこまで知ってるとなると、ゲームだけの知り合いではないのかもしれない。ローズの方も俺の事をツバキから色々聞いたみたいだし、昔から付き合いがあるのかもしれないな。だとしたら可能性があるのは――。

「何でって、そりゃローズは俺の姉ちゃんだからだよ」

 ツバキはあっけらかんと答えを言ってのけた。

 ローズがツバキの姉、か。アーマーが弾けた際に露出した顔は誰かに似ていると思ったが、あれはツバキか。そして、ツバキ経由で俺の事を知ったのは、連絡の取りやすい身内だったからか。

 可能性の一つに合致して、納得した。



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