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零
人間と妖怪は、昔から互いにけん制しあい、ときには契約しながら生きながらえてきた。
しかし人間は妖怪の存在を忘れ、見ることもできなくなり、妖怪は人間にすみかを奪われつづけ、人間と妖怪の間にはもう、なにもなかった。
――それでも、人間のなかにもまだ「見える」ものがいる。その見えるものは、見えないものに「ふつうではない」という位置づけをされ、やがてその見るものも、余計少なくなっていった。
排除され、弊害と認められた「彼女」は何もしらずに――森へ捨てられるために両親につれられてやってきた。
古くから「鵺の森」と恐れられる、死の森へ。
鵺の森――。
鵺と呼ばれ、恐れられるものたちが住む森は、ひとの目にふれることなくひっそりと存在している。