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第八話 不思議に続く化かしの森

「やったー! 私の勝ちぃ!!」

 裏庭の入り口に立ち、希実は(えつ)に浸っている。対してあたしはこの不当な勝負に少なからず不満を抱いていた。

「いや反則だろ……これは」

 何が不当なのか、解はただ一つ。始めからあたしに勝ち目が無かった事である。希実が急にカウントを取り出すから夢中になって学校裏に飛び出したが、考えてみればあたしは裏庭の所在を知らなかったのだ。ならばゴールに辿り着ける訳は無い。

「まあいいじゃん。それよりどうどう!? 凄いでしょここ!」

「確かにな。しっかしこれだけ広けりゃ上から見えてもおかしくないのに何で知らなかったんだろ」

 この裏庭と言うのはかなり広大だ。森の中にあるけれど校舎からはそう離れていないし、周囲を取り囲む木々もそれ程大きくはない。であれば当然校舎の三階から見る事が出来ても何らおかしくないはずなのだが、あたしはこの裏庭の存在を塵ほども知らなかった、見た事が無かった。しょっちゅう窓の外を覗いてにもかかわらず。

「ぱっと見分かんないからこんなに荒れ果ててるんだろうけどね」

「まじまじと見てても気付かなかったがな」

 まあ良いだろう。遠くから見るのとその場所に立って見るのでは、違う物が目に映ると言うのは当然だ。実値を計ってもいないのに推測だけで悩むのは無駄である。たまたま見えない位置にあったという事実さえ分かっていれば十分。

「それはきっと双葉ちゃんの目が節穴なんだと思――」

「……やかましい」

 授業中に髪の毛が一本抜けたので何となく握っていたのだが、それを葉に変えて希実の口にねじ込んだ。まったくこいつはいつも適当なことばかり言う。

「ひ、酷いよ葉っぱなんか食べさせるなんて!! ……むしゃむしゃ」

「嫌なら吐きだせば良かっただろ……」

 何か楽しげに食ってるし。

「ごくん……もう一枚!!」

「美味しかったのかよ!?」

 なら今度あたしも試してみるか……? でもそれってやってることイカと同じだよな。

「冗談はさておき双葉ちゃん。種を埋めるならあの真ん中の花壇で良いんじゃないかな」

「ん、ああそうだな」

 確かに土の条件は良さげである。庭の中心である花壇のそのまたど真ん中に得体の知れない種を植えるのはどうかと思うが、どうせ人は来ないだろうし構いはしない。

 ――そしてあたしが花壇の前でしゃがんだ時だった。

「ハッハッハ、見付けたぞ双葉夏希! よくぞここまで辿り着いたな!」

 希実の更に向こうからだろうか、声が聞こえる。それはそこそこ聞き慣れた声で、声の主はまったく迷惑な奴に違いなかった。

「牧原、なぜお前がここに……」

 彼女の名は牧原桜香。先日帰り道にてあたしを襲ってきた馬鹿である。かねてから奴はあたしにストーカー行為を働いていた。

「しかもあれウチの学校の制服だよ!?」

 最近のストーカーは学校にまで追っかけてくるんだな。いやはや呆れて言葉も出ない。というか怖い。

「なぜってお前、果たし状見てここに来たんじゃねえのか? てかあたいは前からこの学校の生徒だぞ……」

「そうだよ、知らなかったの双葉ちゃん? 果たし状の事」

「いやいや適当な事言うなよ、特に希実。お前はどっちの味方なんだ」

 あの手紙が果たし状と言うのは何となく分かっていたが、まさか決闘の場所をこんな所に指定していたとは思わなかった。第一あたしは今この時までここの存在を知らなかったわけだし、頭が回らないにも程があるだろう。

「あたいが前からこの学校にいたって話は無視なのか!?」

 それはお前の影が薄かったって事で自己解決している。

 ああでもそう言えば、まだ合点がいっていない問題があったな……

「ところでお前、何故あたしばかり付け回すんだ?」

 あたしの記憶にその原因となり得る出来事は無く、牧原とは別段良くも悪くもない仲のはずだった。それがどうしてこうなったのか、気になるところではある。知らなくてもそれ程の問題は無いけども。

「そ、それはだな。何というかそう……あれだ、あれ!!」

「いやあれって何だよあれって……」

 アレアレ詐欺でも横行しているのか、あたしの周りでは。

「ふふん、お困りのようだね双葉ちゃん。名探偵多喜希実がこの事件を見事解決して見せよう!」

「お前が探偵ならこの世から天才という言葉が無くなりそうだけどな」

 この馬鹿がそんな知性必須の職に就けるなら、今頃世界はテレビで見る未来都市をも凌駕しているに違いない。

「ふぇ……? い、いや流石にその嫌みくらいは分かるよ!?」

「まあそんなことどうでもいいから続けてくれ」

 理解に時間が掛かった事については触れないでおく。何故かって言うと面倒くさいからだ。

「えー、コホン。それじゃズバリ行くよ!! 真実はいつも一つッ!!」

 指をピシッと伸ばして希実はあたしを指す。それはもうどこぞの名探偵ばりに。

「……それで満足したか?」

 結局それが言いたかっただけなんだろうこいつは、という事であたしはヘッドロックに掛かる。相手は女だが今更躊躇う必要も無い。

「あああああご! 顎が外れちゃう! 待って待って、ちゃんと意見言うから!!」

「オーケー、良いだろう」

 言ってあたしは技を解除。希実はあたしの放つ殺気に気付いたのか、すかさず喋り出した。

「答えは義兄弟の杯を交わす為だよ!」

 なるほど思い付きもしない解答である。ごめんなさい分かりません、といっておけば良い物を……

「ああちょっとタンマ! 話せば分かるって双葉ちゃん!」

 という風にあたしが希実を襲おうとした時、

「待て双葉。そいつの言っている事は間違っちゃいねえ」

「ほら、牧原もどん引きしてるぞ…………って、なに!?」

 ――牧原の口からとても信じがたい言葉が放たれた。

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