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第七話 恋文はいつも下駄箱に

「さてさてさて、到頭(とうとう)この時がやって来ましたよ双葉ちゃん!」

「放課後は確かに嬉しいけど騒ぐほどのことなんてあったっけ?」

 本日の学業終了の号令が終わるやいなや、希実は唐突に叫び出した。割とよく見る光景だろう、受け答えもいつも通りである。

「何って双葉ちゃん、あれだよあれ。何だっけあれなんだけど……そうだあれ! あれだよ!!」

 アレアレ詐欺か。

「あれしか言ってないぞ希実」

「冗談だよ双葉ちゃん! そんな寒い奴を見る様な目で私を見ないで!! ……でもこれはこれでちょっと良いかも」

「今、何か言った?」

 聞こえちゃいけないことが耳に入った気がする。あー、でも何て言ってたんだろうなー。やっぱり思い出せないや……そう言う事にしておこう。

「まあそんなこと置いといて本題です。じゃじゃん、名付けて園芸部を作ろう計画!!」

 高らかに叫び、希実は彼女の割には綺麗に書かれた新規部活設立希望申請書を見せつけてくる。やたらと長い名前の書類だな……。

「なるほど、それが昨日のお前の質問の結果か」

「そうそう。どうかなこれ。もちろん双葉ちゃんが嫌ならポイするけど」

 部名欄には園芸部の文字。活動内容には雑草の除去など裏庭の整備、花壇、畑含む裏庭での自由かつ適度の園芸と書かれていた。部員名はもちろんあたしと希実の二人だけ。案外記入欄の少ない書類だが、考えてみれば妥当なところか。他に書くべき事なんて思い付かないし。

「良いと思うよ。基本的にあたしは暇してるし」

「ほんと!? なら次は顧問を探さないとね。その後に部員かな。後三人だから多分何とかなるはず」

 やけにノリノリである。今まで散々あたしは希実の部活勧誘を断っていたから、まあ当然と言えばそうなのだろう。

「顧問は後回しで良いと思うよ。先に部員を探そう」

「……何で? 顧問が見付からないまま部員探すのは流石に、って、あ。そういえば双葉ちゃんのお姉さんがいたんだった」

 ポンっと左手の(てのひら)に握り拳を軽く打ち付ける希実。中々察しが良い様で。

「それじゃあ勧誘活動を始めようか」

 あたしがそう言って席を立とうとした時だった。

「待って双葉ちゃん。双葉ちゃんは付いてこない方が良いかも」

「……何でだ?」

 都合の悪いことでもあるのだろうか。さては例の手品で脅迫するとか……?

「だってさ、双葉ちゃん怖いんだもんね!!」

 ……あたしはすかさず背後に回り込みヘッドロックを掛ける。

「お前はあたしと楽しく土を(いじ)りたいのか、それとも愉快に土に帰りたいのかどっちなんだ」

「前者です! 弄りますから!! あー痛い痛い、痛いよ双葉ちゃん!」

 瞬間、あたしは更に腕に力を入れた。希実が痛い痛いと騒いでいるのはそのせいである。

「どうせまたあたしが弄るのは双葉ちゃんだよー、とか言い出すつもりなんだろ」

「はっ! 何でばれ――ああ死ぬ死ぬ死んじゃうぅう。首が絞まって死んじゃうよ!!」

 ヘッドロックで締めるのは首じゃなくて顎なんだけどな。

「……分かりやすい奴だなあ」

 あたしが言うと少し間抜けかも知れない。性格のストレートさは自負している。そろそろ放してやるか。

「ふぅ……助かった。しっかし最近の双葉ちゃん乱暴すぎるんじゃないかな?」

 少し怒り気味な様子で多喜希実は文句を言ってくる。放してやればこれだから困っちゃうよまったく……

「前からだしお前が変なこと言わなきゃあたしは何もしないだろ」

「言葉と暴力じゃ重さが違いすぎるよ!! あ、そうだ。あたし抱き締められるの嫌い!」

 何その饅頭怖い式トラップ。

「んじゃ希実、アホなこと言ってないで裏庭に行くぞ。どうせ部活は作れるだろうし、先に種の一つくらい植えといても(ばち)は当たらないだろう」

「ごめん双葉ちゃん。私双葉ちゃんにぎゅーってしてもらえるまで動けない病が発症しちゃったみたい」

 初めて聞いたよそんな病気。これまた随分とアホらしい病名だな。

「……分かった分かったしてやるよ。ほら、ぎゅー」

 そう言い、今度は首に腕をまわし本当に首を絞める。身長的にもこいつの首は丁度良い。締めるには持って来いだ。いやはや、あたしに締められる為にあると言っても過言では無いだろう。

「あぐ、ぐるじい! ぞうじゃなくてもっと身体全体で! 包む様に!」

「文句が多いな。ならこんな感じでどうだ?」

 続け様に卍固めに持ち込み、言われた通り全身で締めに掛かる。

「……ひぐぐぐぐ……あっ!」

「これ……楽しいか? ってお前それは!」

 適当にポケットに突っ込んでいたのが失敗だった。少しはみ出していた紙切れの端を、希実は手探りで見付けたらしく、するりと抜き取られてしまう。

「こ、これは今朝双葉ちゃんが私に見付からない様にこそこそ自分の靴箱から抜き取っていた便箋(びんせん)! 即ちラブレター!」

「ちぃ、読ませはせん! 読ませはせんぞォォォオオオオ!!」

 と言ってはみるものの、正直どっちでも良い。差出人は中身を見ずとも分かったし、どうせ仕様も無い事が書かれているのだろう。例えば「今日こそケリを付けるぞ双葉夏希」とか。

「双葉ちゃんこれ果たし状だよ!! と言うかラブレターだよ!?」

 言わんこっちゃない……希実も乱心しているのだろうか。意味が分からん。

「行くぞー希実。あたしは一刻も早くその手紙の事を記憶から除去したいんだ」

 軽やかに技を解除し、手紙を取り返す事もせずあたしは例の種片手に教室の後ろのドアへ向かう。その時希実は技をかけられていた時の体勢のままで手紙を凝視していた。わざわざそんな辛いポーズで固まらなくて良いというのに。

「あーでも双葉ちゃん」

「ん? まだ何かあるのか?」

「いや、何でも無いや。それじゃあ行こっか。楽しみだなあ、種植え」

 少なからず希実の調子に違和感を覚えるが、何なんだろうこれは。あたしの経験上、何か隠している時の顔の気がするけど。しかし何か変な事がかいてあった訳ではないだろうし……。

「やっぱりあたしに何か隠してないか?」

 訊くのがやはり一番早い。考え事は苦手なのだ。

「あっはっは、双葉ちゃん。それは面白いジョークだよ! この私が隠し事なんて出来る訳無いじゃない!!」

 やや(りき)みながら希実は言い放つ。彼女はそのまま目を閉じて何かを噛み締めていた。

「言ってて虚しくないか、それ」

 まあ希実らしいっちゃ希実らしいけど。

「そこそこ、かな……まあそんな事は置いといて、裏庭まで競争ね! いちについてー、よーい……」

「どん」

 あたしはそう希実に聞こえる様に呟いて教室を駆け出した。

「あ、双葉ちゃんずるいよそれ!! 不意打ちは卑怯――って窓から飛び降りるの!? ちょ、双葉ちゃん!?」

 この学校の窓とパイプの位置は粗方記憶している。教室のすぐ横の窓から飛び降りればすぐ下には太い鉄パイプがある訳で、そこから一つ下の階の窓に飛び込むのだ。リスクの割に然程のショートカットにはならないが、希実の動揺を誘う事が出来る。全てあたしの思惑通り。

 ちなみに窓が開いていなかった場合や人がいた場合はパイプに掴まって一旦停止し、他の窓から入るなり何なりする予定である。

「し、下に双葉ちゃんがいない……? はっ、まさか神隠しに!?」

 こいつの頭を一度切り開いてみたい物だな……

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