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第二話 とある夏日のあの日溜まり

 四時限目、授業の科目は古典。双葉(ふたば)夏希(なつき)という名の少女、つまりあたしの机の上には申し訳程度に閉じられたノートと全く関係ないページが開かれた教科書が置かれている。

 まあそんなことはどっちでも良くて、今話題に上げたいのは座席の配置についてだった。昨日の席替えであたしは窓側の席になり、更にその真後ろはあたしの親友多喜(たき)希実(のぞみ)、どう考えても最高の配置である。出来ることなら今すぐにでも踊り出したい気分だ。

「ねえ双葉ちゃん」

「ん、どうした? どっか分からない所でもあるのか?」

 授業などそもそも聞く気は無いし、希実のコールに応じてあたしは背後を向く。どれくらい授業を聞く気が無いかと言えば、常に黒板に背を向け続けても良いと思えるくらいだ。

 ちなみにあたしは不真面目な訳じゃない。

「いや、やっぱり何でも無く……なくて、ここっここ!! この問題が分からないんだよ」

 振り向いた直後はぽかーんとした顔だった希実だが、数秒の後慌てて問題を指さし分からないと言う。

 ……お前は鍋によく入れられる麺のコマーシャルでもするつもりか。と言うかなんか怪しいな。慌てて分からない所を作った様な動作だったぞ。

「あ、あ、アヤシクナイヨ!! むしろ天使の様に真っ白だよ!!」

「余計怪しいわ!! そして意味が分からねえ!! ……あれ、さっきの口に出てた?」

 おかしい。明らかに様子が普通じゃない。いやまあ普通じゃないのはいつもの事と言うか、こいつについて普通とは一体何なのか定かじゃないんだけど。

「あー、うん。多分口に出てたよー」

 やっぱりいつものこいつじゃないな。

「……さてはあたしに隠しごッ!?」

 ゴスっ、と言った様な音で何かがあたしの後頭部に当たる。それはそこそこの衝撃で、「あたしに隠し事をしてるな」と口にするつもりが中断されてしまった。教師の仕業だろう。まあこれだけ騒いでいたら殴られても仕方ないか。

「隠し子ッ!? 双葉ちゃん妊娠したの!? あたし以外の子をっ!?」

 ――パァァアアン!!

 よくスリッパでこんな音が出たな。あたしやるじゃん。

「アホかお前は!? それに女同士でそんな行為は出来ねえよ!!」

 何を言っているんだこいつは。あたしに親しい人間が少ない事は分かりきっているであろうに。いやそんな事より最後の一文は何なんだ、希実よ……。

「アホはお前もだ双葉。授業中に騒々(そうぞう)しいぞ。そして余談だが女同士でもIPS細胞を用いれば妊娠は不可能じゃないらしい」

 ――パコン

 あたしの新品スリッパが次に教師の頭部を捉える。

「あんたの担当は保健体育じゃなくて古典のはずだが」

 何だったっけこの人の名前、朝も校門の前で会ったけど。あー確か双葉なんて苗字じゃなかったよなあ。違ってたら良かったなあ。

 まあ言うまでも無いだろうけど補足情報を一つ。希実を除くクラスメイトは全員引いている。

「学校ではお姉ちゃんと呼ぶ約束だろう?」

「やだよ、そんな約束した覚えはない。しかもそれ普通逆だろ。一般的な教師なら学校では先生と呼びなさいって言う物だ」

 この変態シスコン女め……。親の顔が見てみたいぜ……。

「私としてはお前の常識を押し付けられるのは喜びに値する物なんだがな。これだけは譲れない。さあ、遠慮無くお姉ちゃんと呼んでくれて構わないのだぞ! 姉貴や姉上も悪くないなっ! 何なら身体で表現してくれても良いッ!!」

 惚けた顔でそう言う教師に、もう何と応答すれば良いのか分からない。まともに相手をしていてはあたしの精神が保たないだろう。

 瞬間――そこにこの場を納める一言。

「先生、授業の続きをお願いします」

 ああ、ありがとう神様。こんな救いの手を差し伸べてくれるなんて。あたしはまだ見限られていなかったんだな!

「そうだな、仕方ない。では授業を再開しようか……ちっ」

 今あんた舌打ちしたな!? 絶対したよな!? もう教師辞めて良いよな!?

「ねえ双葉ちゃん?」

「ん? また何か用か?」

 やっと不毛な口論が幕を閉じた頃、希実が再びあたしに話し掛けてきた。それも悟りを開いたような表情で。

「大変だね……ど突き漫才」

 何を言い出すかと思えば……。

「そうだな、全くだよ……」

 ――コン

 軽いチョップが希実の脳天を直撃した。

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