First-2
8番テーブルには、サラリーマンの人なのか、スーツ姿の男性客が2人いた。
『Dear Heart』は女性客の方が多いけど、スイーツの美味しさは有名だから、男性客も珍しくはない。
「お待たせいたしました。コーヒーになります。
こちらは…」
「あ、俺です」
そう言って少し手を挙げた男の人を見て、私は一瞬固まってしまった。
何というか…、ぱっと見、かっこよかったから。
「ごゆっくり…」
コーヒーを置いて戻ろうとしたその時──。
「お姉さん」
呼び止められると同時にパシッと手を掴まれた。
「新しいおしぼり、くれない?」
コーヒーを頼んだ男の人は、ニコッと爽やかに笑った。
「え…?…あ、はい。
少々お待ちください」
私は、少し早足でその場を去った。
─────……………
おしぼりを渡した後も、どうしてかあの男性が気になった。
「ふぅ…」
お客さまには見えない場所で溜め息をついていると、まだ高校生のバイト仲間、佐川桃恵が近づいてきた。
「せんぱーい!
どうしたんですか?こんなところで」
「…何でもないよ。ちょっと休憩」
そう言うと、桃は「そうですか」と笑った。
「…あ、先輩聞いてくださいよぉ!
珍しいイケメン客発見ですよ!」
桃は「こっち、こっち」と引っ張って私に見せようとする。
「ほら、あそこの8番テーブルの人!
2人いるけど、茶髪の方がすごくイケメンなんです!」
桃が言っているのは、間違いなく私がコーヒーを出したお客さまで。
もう一人の男性と、何やら話をしている様子だった。
「かっこいい人って、それだけで目の保養になりますよねぇ!
まぁ、桃の場合は美人さんでも保養になりますけど」