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郁人少年の恋愛奮闘記  作者: ラゼル
手探り奮闘中
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お兄ちゃんのつぶやき 2月13日のこと

聖バレンタイン.デー 

それは日本ではお菓子業界のチョコを売りさばく陰謀渦巻く日……

とはいかないまでも恋人たちにとってはそれなりに上手くこなさなければならないイベントであり、

片思いの女の子にとっては「好き」と口にしないまでもチョコを渡すだけで気持ちが伝えられるお得なイベントである。


――とはあまりにロマンのない冷めた意見であろうが、そんな風にまでは考えていないものの

かなり乙女心からは程遠い俺の妹、紗雪はというと。



デパ地下にはずらりとチョコレートがずらりと陳列され、学校内でもチョコの話題が上がる頻度が増えたころ。俺のダチも心なしかそわそわしており、かなり気持ち悪い光景だと思う。


つまりは、バレンタイン直前日 2月13日

今日は彼女はマネージャーの土浦さんに付き添われてテレビ局へ足を運んだ。

そう、朝のニュース番組の「朝ちょく」紗雪と郁人がレギュラーで担当しているコーナーの撮りで

もちろん今回の内容はバレンタイン特集『彼に送るRecommend List』

ちなみに紗雪が担当で郁人はお休みの回であった。

そして番組が始まる前の控え室では、バレンタインの話題が挙がっていたらしい。


「ねぇ、チョコ郁人くんにあげるの?」

と紗雪に訊ねたのはTeen雑誌『Luca』のモデルで事務所の後輩であるみのりである。

年はみのりの方が上だが芸暦は小さい頃からの紗雪たちのほうが上なのである。

「……むしろ毎年もらうかな、」と紗雪は質問に答えを少しの沈黙のあとに口にした。

「えっ!?」

「……?」

「あげないの?」

「いえ、もらいます」

 バレンタイン……。今年はチョコの宣伝ポスターには出たけど、特に用意はしてないなぁ。

「大切な人に愛のこもったチョコレート」なんて恥ずかしいフレーズとともに綺麗めのデート服を着たんだよなぁ……。髪の毛もふわふわにして、メイクもキラキラだった。

ふむ、バレンタインにチョコ……かぁ。

「………。」

と紗雪より年上のお姉さんは予想し得ない答えに目を見開き、再度本当なのか、と確かめるも答えは芳しくなかった。

そして彼女はふっと浮かんだ郁人くんの垂れた犬耳を想像して同情の念を彼に送った。



 ――そして、紗雪の家では

「うーん、紗雪にも料理させた方がいいんですかね。聡さん」

どうした、いきなり。というか料理させないのは紗雪を駄目にして傍に置くためかと思ってたんだが違うんか……?

「そりゃ、出来ないよりは出来た方がいいとは思うけど」

「一応、昔ちょっとは料理させようと思ったことがあって、やらない?ってきいたんだけど”何で?だって郁人が作る方が美味しいでしょ”ってなったんですよねー」

基本くらいは仕込んでおいた方がいいと思ったんですよ。出来ないよりは出来た方がいいだろうし

と思いまして……でもものすごく不思議そうな顔されちゃって、なんて一人ごちる。

「へー」 

 もうお前ら付き合っちゃえよ。メンドイ。つうか仕込むってなんかエロイな。

「上手くいけば、紗雪の手作り食べられるかなぁと思ったんですけど。あんまり俺が飯作るの当たり前に思い込んでたんでそれ以上突っ込めなくて……」

その頃お前ら何歳だったんだ……? つうか甘すぎで砂吐きそう、俺。

「ほー」

もう俺帰っていいよな……? 彼女に慰めてもらおうか、なんて自分らしくもない考えが浮かぶ。


「…なぁ、お前今年も紗雪にチョコやるの?」

ふと思いついた疑問をだらりと椅子に体を預けながらきいてみる。

すると、ふぅと息をついて哀愁を漂わせた郁人は

「……今更、ですよねぇ。もうすでに習慣ですし」

と力なく微笑して鍋でチョコを丁寧に湯銭で溶かしながら言った。

この顔を見れば同世代の女の子は落ちるだろうに相変わらず残念なことに紗雪一筋。

恋心を自覚してからはその傾向がますます強まったようである。

「……好きな子からチョコがもらえないのか、不憫な……」

と彼にトドメをさした俺。

「ぐっ……」と小さく郁人が呻いてそして力なく項垂れた。

「言わないでください。自分で自分が可哀想になります」



……つい苛めたくなるコイツが悪いと思うんだよな。


そう、昔紗雪の母つまり俺たちのババアもとい、オカンがパパにチョコを渡すように促したのがうちのバレンタインの始まり。「娘のチョコが欲しい」とはウチのバカ(親父)の心からの叫びだろう。

そのときについでに郁人に渡したのが最初で最後の紗雪から郁人のバレンタインチョコ、だったらしい。


それからは、そんなイベントを全くないものとして、学生と芸能業界の二束のわらじを履き日々を過ごしていってそんな忙しい日々に忙殺され、そしてそれなりに人気が出たときのこと。



「はい、郁人くん。君のファンからのチョコだよ。手作りは残念ながら除外して既製品だけ残したからもって帰りたいならもって帰るといいよ。あとはこちらで処分しとくから」

と"処分"なんて冷たい言葉とともにお腹壊さないようにね…?、と大人な事情をあけすけに言う土浦さんに

「郁人ずるいーっ」

と女という性別ゆえにチョコはもらえなかった紗雪は半ば本気で涙目になりつつあった。色気より食い気だな。


――そして郁人はいうと

こちとら本気で久しぶりの涙に頭が真っ白になり

「わかった、俺がやるから!」

と両肩をガシッと掴んでおにいちゃん面して紗雪を慰めたのであった。


――もう、お分かりであろう皆様。これが後々彼の首を絞める一言となるのである。


 その後は郁人の母の教育が仕込まれ、要するに……「男の子は料理できたほうが素敵よね……」という夢見がちな方だったゆえに。普通の料理を少しずつではあるが身につけられて、そしてそれは我が家でも振舞われるようになった。


 それとともにチョコも既製品から手作りに。

紗雪が素直に喜ぶほどそれはより可愛らしく、紗雪好みの味へ

子供ができる範囲ではあるが、それは毎年積み重ねられていく。

要するに……郁人の手作りチョコに紗雪は満面の笑みを浮かべるので年々こいつの菓子作りのスキルは上昇し、それがエンドレスリピートというわけである。

 

 そして現在は郁人が手作りチョコをバレンタインに。

紗雪はお返しをホワイトデーにという男女逆転状態である。

別にもらえてるんだからいいじゃねぇか……と俺は思うわけであるが、彼は紗雪からチョコが欲しいという気持ちはあるらしい。よくわからん。とはいえ自覚したらほしいものかね。

 あぁ、最近はマシュマロやキャンディーじゃなくて、郁人に使えそうなものをお店で吟味して買ってくるらしい。キーケースとか、似合いそうなジーンズだとか。最近では郁人に似合いそうなものを頑張って探して渡しているようである。


郁人がチョコ欲しいと言い出せば「いいよ?」とあっさり渡しそうだが、気持ちをこめてもらいたいんだろうか。毎年それは言い出さない。……当分貰えなさそうだ。


……もう、十分仲がいいと思うのは俺だけじゃないと思う。



「もう、お前ら結婚しちゃえばいいよ」

とつぶやくのも当然ってもんだ。

次回は郁人サイド。明日アップできたらいいな…とは思ってはおりますが。

筆の進み次第です。


実はお兄ちゃん聡さんには彼女さんがいたりします。

この話もいつか書けるといいなぁ……。

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