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郁人少年の恋愛奮闘記  作者: ラゼル
スタートライン到達まで
4/17

お兄様がいうことには。

紗雪の兄、聡Sideです

 俺には芸能人の妹がいる――なんて、中々ないことだと思うがそういう立ち位置に俺は居るわけだ。


ーーその立場に居るにあたっての経緯といえば、ありがちといえば有り勝ちな始まり。


 昔から少し年の離れた妹の紗雪は兄の俺ではなく近所に住んでいるガキンチョの郁人によく懐いており、そして俺はこれ幸いと自由に一人っ子のような生活をエンジョイしてたわけである。

だからといって兄妹仲が悪いというわけでは決してない。あえて言うならルームシェアな関係がぴったりくると俺は思うわけだ。

 

 そんな折にプロデューサーを仕事とするの俺らの母親がまだ小さい彼らと俺ををスタジオ見学に連れて行き、

仕事の傍ら世話をするということがたまにではあるがそういうことがけっこうよくあったのである。


 あるCM撮影で子役を起用するというとき、その選ばれた子達が緊張してしまって上手く演技ができなかったということがあった。


それで、その場に偶然居た彼らにスポットライトが当たったわけである。

ちなみに俺はその頃から無愛想だったし、年齢もCMのコンセプトに合わないということで除外されたらしい、とは母親の談である。


 仕事はなんだか上手くいったようで、それがテレビで放映されたわけだ。


そしてそれはその場限りのつもりだったわけだが、艶やかな日本の美とも言える和服が似合うつやつやした黒髪に、子ども特有のくりくりした黒目、雪のような白い肌に可愛らしいあどけない笑顔が武器となった(くだん)のCMはそれなりにヒットしてしまったわけである。

だからある程度名前が売れてしまうと、彼らを起用すれば多少の視聴率を取れるだろうという大人の思惑が浮かんでくるのは摂理だった。

そうして彼らに子役にならないか、と申し入れがあったわけである。


 俺らの両親は「一度の人生楽しまなければ損!」を家訓というかコンセプトととしているというか、まぁそういうことだ。察してくれ。

ある意味放任というか、子どもを大事には思っているがだからといって、がちがちに教育するタイプではなかったわけで、紗雪がなんとなくだとしても”やってみたーい!”と言えば契約をきっちり詰めて彼らなりにちゃんと娘がうまくやっていけるようにすぐさまサポート体制に入ったわけである。


 そして郁人の両親はというと、一度のCMならば、まぁいいかとOKしたもののそれを仕事とするには不安だったのだろう。彼らは快くはそれを受け入れられなかったわけだ。


それが普通だ、とは今になって俺は思う。だってその頃あいつらまだ幼稚園に入ったばっかりで、その頃受けた影響はきっと大人になっても濃く残るだろうことは簡単に想像がつくし、仕事は仕事なのだ。


 厳しいことも言われるだろうし、子どもらしさを受け入れられない時もあるだろう。つらい思いをあえて子どもにさせたいとは思わなかったんだろう郁人の両親は彼をなんとか宥めて説得にかかったわけではあるが、そう上手くは事は進まなかったのである。


――なぜか、と言われれば理由は簡単である。


 ”紗雪の存在”だ。べったりべたべたと四六時中一緒に居た片割れの存在が仕事で離れるわけだ。しかもあの餓鬼はいっちょまえに紗雪の兄のような存在であることを自覚し、ウチの妹を守るという使命感に燃えたわけである。

まぁ、一番は離れたくないということだったんだろうが。


 一緒にやりたいと紗雪に笑顔で言われたので落ちた(トドメだった)んだろうなという気もするが……。


 結局一切意見を曲げることなく、要求を通しまくった郁人に彼の両親が最後には負けて折れたわけである。これには俺ですら、むしろ天晴れだと感心してしまった。


 そうしてメキメキとその頭角を示して色んな番組に引っ張りダコだった彼らだったが、小学校を卒業する頃には少し人気が落ち着いた、かと思えば中学生になると、また仕事が増えて最近では忙しそうである。


 そうそう、彼らが小学生、俺が中学生になった頃に仕事に付き添うことが多かったんだよなぁ。それが俺がマネージャー見習いになった原因で、まぁ紗雪たちはまだ子ども。周りは知らない大人だらけ、俺が居るだけでもかなり落ち着くらしく俺がよく仕事に連れて行かれたわけだ。安心毛布みたいなもんだ。


 まぁ、中学生までの勉強は公立の普通の学校だったのでぶっちゃけ簡単でむしろ時間をもてあまして退屈だなぁと思っていた俺には中々できない経験だしいいか、と彼らについていき、ちょっとした日常への刺激を楽しんでいた。その空き時間にはマネージャーさんのお手伝いを子どもながらにしていたわけで、高校生になる頃には”マネージャー見習いやってみない? バイト代出すから”と土浦さんに言われたわけだ。


 将来やりたいことがあったときに先立つものがあれば色々都合いいなという、かなり俗物的な理由で現在の俺があるわけだ。


 まぁ芸能人の妹である紗雪と周りに比較されることもあるが、あれはあれでしんどいと俺は思う。最初は金ガッポガッポで羨ましいな、と思っていたのだが。ストレスで吐くという場面を見てからは仕事には責任が、多大な金にはそれに対する労力が。ということをなんとなくではあるが理解(知って)してしまった俺は彼らにむしろ同情してしまったわけである。

なので彼らに対するコンプレックスは割かし薄くてそのお陰というのもおかしいかもしれないが今のところ上手く彼らと一緒に過ごせているわけである。

 

 そんな俺の目下の楽しみと言えば、


「今日はすき焼きです。どうぞ召し上がれ」

とウチの台所を俺達よりも把握して活用しまくっている郁人と


「わーい。すき焼き久しぶりーっ」

郁人に卵を割ってもらってお椀を用意してもらって、ぐつぐつといい匂いを立てる鍋に箸を突っ込みにこにこと喜んでいる紗雪の行く末だろうか。


 しかしもう既に、お兄さん通り越してオカンいやむしろ紗雪個人の使用人になってしまっているんじゃないかと思われる郁人の行く末の方が個人的にすっごく気になるんだがな……。

 

 ていうか、もうわざわざ手ずから郁人が紗雪の口に食べ物を持っていっても不思議じゃないほどの過保護っぷり。それを普通に許容している我が妹も妹ではあるのだが、お前の相手はもう郁人くらいしか無理じゃないのかと思うぞ。


他の人じゃもう満足できないんじゃないだろうか。むしろそれが狙いなのかねぇ……。とはいえウチの妹が恋愛に興味をもつにはまだまだ、なようで。


 ――彼の前途は多難であるだろう、と俺は予言したいと思う。


 まぁ、多分ではあるが郁人は自覚していると思う、紗雪への好意が紗雪が郁人に向けるものと異なっていることを。


しかしそれがまったく報われない不憫さが傍から見ていて楽しいのでもう少しはこのままでいいんじゃないかと人でなしな俺である。


「聡さん、お口に合いませんでした?」

と無言で箸を進める俺に不思議そうな顔をして訊ねてくる郁人。

おっかしーな普通に美味いよな? と自分で味見しながら、なぁ紗雪などと訊ねてみている彼を見て笑って言う。


「いんや、美味いよ。もうお前どこにでも嫁にいけんぞ」


「……いや、俺男なんですけど」

と微妙に嫌そうな顔をする将来の義弟。


――まぁ、結局はなかなかどうしてこんな日常を俺は愛してやまないってこと、かね。

お兄さん書きやすい…!


最新話に目を通していただきありがとうございます。

ご意見、ご感想、誤字報告気が向いたらよろしくです。

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