マシュマロの積み木が崩れ落ちる
仕事を終えて土浦さんに車で送ってもらい、家につく。少し悩んだが夜ご飯を一緒に食べる約束をしていたこともあって紗雪の家に向かった。
出迎えてくれたのは聡さんで紗雪はまだ帰っていないということで待たせてもらうことになった。俺は直行で車で家に帰ったが多分電車であろう紗雪のほうが遅いのだろう。だけどあのまま帰っているのならばそろそろ帰っているころなのにな、と少しもやもやする。むー。
「そういえば、聡さんは彼女さんにホワイトデーのお返ししたんですか?」
「あー。おう」
言葉少なに聡さんが答える。何贈ったんだろ。気になるー。
「……へー」
「にやにやすんな」
……はたかれた。
基本は余裕たっぷりの聡さんでもこういう話題を俺とするのはどうにも居心地が悪そうなのでほどほどにして話をフェードアウトさせた。
「………ふー」
「どうした? 仕事上手くいかなかったかー?」
「いえ、まぁぼちぼち」
「ふーん」
なるほど、なるほどと聡さんが頷く。 ……バレテーラ。
「ま、そのうち帰って来ると思うからゆっくりしとけ。俺は部屋に戻る。おつかれ」
「……はい。ありがとうございます」
***
「ただいまー」
と紗雪が靴を脱ぎながら言う。その音のすぐ後ドスンと重いものが落とされる音がする。すぐに玄関に向かって出迎える。そしてアイツのことを聞いていいものか、と思うもどうにも踏ん切りがつかず横に置かれた重そうな荷物を手に取る。
「俺が運ぶ」
「あ、いーよ。今回はいい。あ、ちょっと食卓行って」
……なんで? とはいえ少し重いものを持たせるのもな、と思いつつもなんだかぐいぐいと背中を押してくるあたり引くつもりもなさそうなので観念して食卓に向かった。
お互いに食卓で向かい合って座った。前のほうにはソファとその先にはテレビ後ろにはキッチンがある。
「あ、目つぶってて」
「……おう」
ゴソゴソと袋の立てる音を聞きながら、あぁホワイトデーのお返しかと思う。今日だったな。
箱が机の上に置かれる音がする。それも1つではなく……どんどん増えていく。オイ、いくつ買ったんだと少し不安になるも目をつぶれといわれたので開けるわけにもいかない。
「いーよ。あけて」
ジャーン! と生き生きしながら積み上げられたキレイに包装された箱を紗雪は一つ一つはこの中身を説明していく。
まずはマグカップサイズの赤い箱かららしい。
「これはね、チョコフレーバーの紅茶。郁人紅茶わりと凝ってるよね。試飲させてもらって美味しかったから買ってきた。それでこっちはハーブティ。これ飲むと風邪ひきにくいんだって。
あと、これはシューティングゲーム。キャラクターが可愛いし、ステージも面白そうだったから買ってきた。一緒にやろーね。それからそれから……。あ、これ帽子。これは蘭迩くんが一緒に考えてくれて、身につけるものは今回やめにしようと思ったんだけどやっぱり似合いそうで……」
物が増えすぎても困るかなと思って、と続けるが。気になるのはそこじゃない。
「……ありがとう。でもこんなに買ってきて帰り大変じゃなかったか?」
「あー。最初は1個だけにするつもりだったんだけど。何か足りないなーって思ってね、つい」
「嬉しいよ。ありがとう。じゃあ早速紅茶いれようか? 外寒かっただろ」
「あ。今日は私が入れるよ。座ってて」
にこにこと紅茶を紗雪が目の前で飲んでいる。紅茶はチョコの味はしないものの匂いだけで十分チョコであった。甘いものとは一緒に飲めそうにないな、と苦笑した。
「あ、苦手な味だった?」
「いや、そんなことない。でも蘭迩くんだっけ。一緒にこれ選んだの?」
「全部じゃないけどね。男の子の意見が欲しかったの。まぁ結局自分が郁人と一緒に食べたいなーとか遊びたいなーで選んじゃったんだけどね」
「へー」
男の子と二人だけでいるのは感心しない。男は基本的にバカなんだから危ないと注意しようか、と思うも。その言葉はブーメランのように自分に戻ってくる。
”じゃあ俺は、と”
今までなら俺は兄だからいーんだよで貫けただろうが、今は男として意識してもらいたいのでそれを自分で言うと余計に範囲外に押しやられる。
「……あーっと。苦手じゃなかったっけ?」
「あぁ、うーん。仕事だったらきっぱり断りにくいんだけど。プライベートならカンタンに避けられるから気が楽だったみたい。仕事の顔だとそこまで容赦なく言えないし」
「…………。」
………なんか紅茶が苦くなった気がする。とはいえそのままにしておくのもなんだか悔しかったので
「……俺は、えと」
とはいえすぐに何を言うべきか思いつかず言葉が行き詰る。
「なぁに?」
「あ、あんまり仲良くすんなよ。
何か紗雪が俺から離れるみたいで淋しいし……」
と予想以上になんだか情けない感じになって、そんな自分に落ち込んだ。
「……大丈夫。大好きだからずっと一緒に居るよ」
と満面の笑みで言う。ドキリと胸が音を立てる。俺の表情は崩れていないだろうか。
その言葉に呆れの色はなくて、ほっとした。
そしてずっと居られたらいいな、と俺は願った。
何もかも変わらないことなんてことはない、ともちろんわかってはいたけれど。