最終話 ハッピーメリークリスマス?
こんばんは
雛仲 まひるです。
夏のサンタの最終話となります。
ここまでお付き合いくださった読者さま、ありがとうございます。
ではお楽しみください。
「寒むっっ!」
十二月二十六日、朝。
窓の外は街を雪化粧で真っ白になっていた。
俺の頭の中も真っ白になっているけど、時間が経つにつれ、昨夜の事をちょっぴり後悔している自分に気付く。
遙ちゃん……。
格好つけて、あんな事言わなければ良かった。本当に俺って馬鹿だ。
妄想に駆られ現実を否定した様なものだ。片思いだと思っていた子から告白されて、それでもなにか心の奥で引っ掛かっている非現実的な女の子のことで、好きな子を振ってしまったんだから。
「腹……減った」
ベットから起き上がりリビングに向かった。
両親は既に仕事に出ている時間だテーブルの上には、見慣れた光景が広がっている。
ラップを被せた朝食と紙切れが置かれていて『チンして食べてね』母親の文で書かれたメッセージが添えられている。
レンジで朝食を温め、数分後チーン! と空しく響くレンジからのお知らせがあり、レンジの中から朝食を取り出そうとした、その時、玄関のチャイムが鳴った。
ピングポング。
まぁこの時期だから遅めのお歳暮あたりの宅配だろう。
俺は玄関に向かい鍵を開け、チェーンロックを掛けたままドアを開いた。
「山田運送でーす。サインお願いしまーす」
「はいはい。今、開けるから」
チェーンロックを外してドアを開けた。
……。
サンタクロースの衣装の赤い服を着た俺と同じ年頃の女の子が立っている。
ファンタスティック! ってクリスマス終わってるし……これはなにかの嫌がらせですか? でも夏にも似た様な事があったような気が……。
曖昧な記憶が一瞬、甦る。夏にサンタ? 直ぐに俺は気のせいだと思い直す。
「ここにサインをください」
「はいはい。ここでいいの?」
小さなスペースの空欄に春井日と書き込んだ。
「……君さ。私と何処かで会ったことあったっけ? 記憶にはないんだけど、なんだか覚えてるんだよぉー、君の事」
そんなことを言われ、俺は女の子の顔を良く見てみた。
「そう言われれば……、俺も君を何処かで見た様な気がする……。同じく記憶にないけど」
俺は彼女が差し出している伝票の控えを受け取った。
「サイン確かに確認しましたっ! おめでとう! 君が今年の当選者だよぉ」
「はっ?」
「君さ。クリスマスにうちの山田運送の街頭アンケートに答えてくれたでしょ?」
「そう言えば、書いたな……」
街角で書いたアンケートを思い出す。
確かプレゼントに当るかも、とか言ってた。
「君が今年の当選なんだよぉ。おめでとう! 君の願った欲しいものを届けに来たんだよぉ私」
女の子は、にんまりと微笑んでいる。
「ラッキーだねっ。君って奴はまったく幸せ者なんだからっ」
痛い! 痛過ぎる人だ。こんなに若いのに可哀相に……、クリスマスは終わったのにサンタの衣装だし、訳の分からないこと言い出すし……。
「私はね、桜井真夏って言うんだよぉ。よろしくねダーリン♡」
「はっ? これって……いったいなんの嫌がらせだ」
「君さぁー。アンケートの欄になんて書いたか覚えてるよね?」
俺は暫らく考えた。
「思い出した! 確か『彼女』って書いた様な気がする」
「そうだよぉ。だから真夏が君の彼女になるんだよぉ、なんでもいいから家の中に入れてくんないかなぁ? 雪降ってるし寒くてたまんないよぉー」
桜井真夏? 俺はこいつを覚えてる。
記憶じゃない、心の中で覚えてる。
「ねぇ? ダーリン? 私、君の事覚えてるよぉ? 記憶でじゃないんだけど……心の中に君が何時も居たんだよぉ。なんか不思議だよね。あはっ♡」
時折、俺に呼び掛けて来たのは、こいつだったんだ。
「俺も! ……何時も、どんな時も心の中に君が居た……様な気がする。!? そうだ、もしかしてあるかも」
「んん? なにが?」
「君との想い出」
俺は慌てて部屋に戻り、机の引き出しを開いて捜した。
真夏とか言う女の子の顔に見覚えがあった、あるのは……確かそうプリクラで見た覚えがあったんだ。
その時は誰か思い出せずに、机の引き出しに無造作に放り込んだ。
「あった」
引き出しから何枚ものプリクラシートを見付けた。
「あっ! 真夏だ」
俺の肩口から、ひょっこり顔を覗かせてプリクラに写った自分に驚いている様子だ。
プリクラに書いたらくがきには、ラブラブ♡誠&真夏♡だの、絶対に忘れない。大好きだよぉ誠。大好きだ真夏、何時までも離れてやらん! 覚悟しとけ、など様々な文字が書かれていた。
「出会ってたんだ……俺達……」
驚いた。
まさかサンタクロースが居た事に、いやいやこの子と真夏とか言うサンタクロースに出会い、恋して居た事に。
「奇跡かもぉ……。続けて同じ人の所に来るなんて、もしかして運命の赤い服ってやつ?」
「なんてっか、それを言うなら運命の赤い糸だろ?」
「愛し合ってたんだね、私達」
プリクラを見た真夏が呟いた。
「また離れちゃうのかなぁ」
暖房の効いた部屋の空気に溶けてしまう様な小さな真夏の声が俺の肩口で聞こえた。
「……離すかよ。もう二度と」
俺の目からは温かい液体が流れ出し、口から無意識に言葉が飛び出した。
心が覚えているんだ。そしてそれは次第に鮮明になって行く。
それは記憶じゃない、心が憶えている真夏との想い出。
「もう……離さないでね? 誠」
真夏も同じ事を思い出していた様子だった。真夏の腕が俺の腰を抱き締めている。
――強く、強く……。
「でも時期が来れば、また……」
「それでも、もう放さないでっ」
気付くと向き合い抱き合っていた。
真夏がサンタである限り、同じ事を繰り返すのかも知れない。
でも俺は真夏と何十回、何百回、何万回、離れ離れになったって何度でも巡り会って見せる。
いや出会えると確信した。根拠はないけど……。
だって俺と真夏は運命の赤い服? で結ばれているのだから。
真夏との再会から一年が経つ。
幸せな時間が流れるのは早いもんで木々は枯れた葉を落とし始める季節になっていた。
真夏と再会してから、もう直ぐまた冬を迎えようとしていた。
「真夏? クリスマスのプレゼントなにがいい」
「誠の愛、かな」
「あほか」
「じゃあさぁ! 誠はなにが欲しいの?」
「真夏――」
言葉を言い終える前に真夏の声に遮られた。
「誠のえっちぃー」
真夏の小さな拳が俺の頭を小突いた。
「ばぁーか。そんなのとっくに……痛ってぇな! グーで殴るなグーで」
「そ、それはそう、だけど……誠にはデリカシィーてもんがないんだよぉー! もふぅ……ホント、えっちなんだから! ふぅんとうに、もう……」
「人の話を最後まで聞けよ」
「じゃぁ誠は真夏のなにが欲しいんだよぉー」
「真夏……真夏が傍に居てくれれば、それでいい」
「……ばぁーか、そんなの言わなくても分かってるよぉ」
真夏が何者なのかは分からない。
サンタクロースって宇宙人? それとも異世界人?
幸か不幸か分からないけど、俺にとって真夏は真夏の何者でもないのだ。
この先、どうなるのかなんて俺には分からないし、また突然、真夏は姿を消してしまうかも知れない。
でも今、真夏は俺の傍に居る。
俺の大切な人。今はそれでいい。
もしも今年のクリスマス、真夏とまた離れても……また来年も出会ってやる。
そして……。
時は流れ。
この冬のクリスマス、真夏は俺の傍に居て飾り付けたツリーとケーキのある部屋で二人で過ごしている。
真夏がサンタクロースを廃業したのか山田運送とかを辞めたのかは定かでない。
てか、そんなのどうでもいい事だ。
真夏が俺の傍に居て二人だけのクリスマスを迎える事が出来た現実は、何事にも代える事の出来ない幸せなのだから。
おわり。
ご拝読アリガタウ。
次回作品または連載中の「狐の嫁入りっ ちょっと? 九尾な女の子」も宜しくお願い致します。
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ではでは