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第8話 見知らぬ君を探して 

 盛り上がるクリスマスパーティーの中で俺は取り残されている様に感じている。


 待ち望んでいたはずなのに心がまったく弾まない。


 その原因には覚えはない。しかし何故か胸に引っ掛かる女の子の声が気になって仕方がなかった。


「ねぇ? 誠くん元気ないね。何時もの誠くんじゃないみたい」


 声を掛けて来たのは俺が片思いをしている遙ちゃんだった。


「そんな事ないよ。楽しんでるって」


 俺は精一杯の笑顔をうかべた。


「無理してる、誠くん」


「……はっはは、そんな事ねぇーって」


「私には分かるもん。ずっと誠くんの事を見てたから……」


 好きな女の子が赤らんだ顔で俺を見ている。


「遙ちゃん?」


「ねぇ? 誠くん。今好きな子居る?」


「えっ、まぁ……」


「誰かなぁ? ……私だと嬉しいな、私の事嫌い?」


 片思いの女の子からの言葉に俺は一瞬、自分の耳を疑った。


 それにその問い掛け方はずるい。


 ジでか? 本当なら嬉しい……はずなのになんで胸が躍んねぇんだ?


「いやまぁ居るにはいるけど……」


「誰? もし私じゃなくても私の気持ちは変わらないよ」


「遙ちゃん……俺、ずっと前から遙ちゃんの事が気になってた。いい子だなぁって思ってたんだ」


「それって私に好意を持っていてくれたって事?」


「まぁ、そう言う事になるかな」


「……じゃぁさ。付き合おっか……私達」


 俯いて遙ちゃんは、照れくさそうに辺りの会話に溶けてしまいそうな程に小さな声で呟いた。


「マジで! 遙ちゃんと両思いになれるなんて夢みたいだよ。最高のクリスマスプレ――」


(誠……)


 まただ。誰かは分からない、けど先日から胸の奥で気になる女の子の声が聞こえる。


 胸の奥で。


「ごめん、遙ちゃん。俺、本当に遙ちゃんの事、ほんとに好きだけど直ぐには付き合えない」


「何故?」


「分かんないけど、なんか大切な誰かを忘れてる様な気がするんだ。だから……ごめん」


 俺って馬鹿だ……。でもこんな気持ちで付き合えない。


(誠、忘れないで)


「本当にごめん。遙ちゃん。こんな気持ちのまま遙ちゃんと付け合えない。きっと遙ちゃんを傷つけてしまうと思うからさ」


「誠くん。やさしいんだね……モテるはずだよ。私、待ってるから……誠くんのもやもやした気持ちが、すっきりするまで……それまで待ってるから」


「待たなくてもいいよ。そんな都合のいい事なんて言えない。だから、ごめん」


 俺はパーティー会場を飛び出そうとした。ドアの取っ手に手を掛けた時、背中の方から声が聞こえた。


「誠くん……すっきり出来るといいね」


 遙ちゃんが目に涙を浮かべていた。後ろ髪を引かれる思いがする。


「探してくるよ。俺、何処を探せばいいのか皆目見当もつか無いけど」


 俺は苦笑いを浮かべ会場を後にした。


 探すって言ったって何処に向かえばいいのか分からない。


 俺は闇雲に街中を走った。




 そう言えば、サンタクロースの衣装を着ていた山田運送のアンケート、去年も書いた様な気がする。


 俺は先日アンケートを渡された場所に向かった。


 しかし、そこにはサンタクロースの衣装を着た女性の姿はなかった。


 忙しそうに足早に歩く人の流れ何組もの恋人達が腕を組み、光の実をつけた街路樹が並ぶ歩道を幸せそうに寄り添い歩いている。


「はぁはぁはぁ……」


 白い息が上がる。

 

 俺はなにをこんなにもやっきになってるんだ? なんでこんなにもあの声が気になるんだ。


 どれ位探したのだろう。冷える空気の中、額から汗が流れ落ちる。


 何時の間にか人の流れの減った歩道には色とりどりの街路樹が、一層目立って見えた。


 もうパ-ティーも終わってるだろう。ふとポケットから携帯を取り出し時間を確認すると、携帯には何件かの着信とメールが入っていた。


 時刻は十一時十七分と携帯の時計が示している後、四十八分で十二月二十五日を迎える。


 俺はそのまま家路についた。


 ベッドの上に崩れる様に倒れ込む。


 部屋の目覚まし時計の長針と短針が十二時を差し重なろうとしている。


 俺は何気に窓の外に目を向けた。


 夜空には星が輝いている中、ちらほらと雪が舞い始めていた。


 ――疲れた。ほんと俺って馬鹿かよ。


 疲れがどっと身体に押し寄せて来た。


 疲れた眠い。


 俺はそのまま眠りの世界へと船を漕ぎ出した。




 翌朝、何時もの朝を迎えた、何時もと何も変化の無い朝を。


 そしてなにも起こらないまま時間は過ぎ十二月二十五日の夜を迎えた。


 やっぱり何も起こらない。


 今年もクリスマスは過ぎて行き、

時計の針が重なれば、今年のクリスマスは終わる。そして俺一人だけのクリスマスは過ぎ去って行った。



 第9話(最終話) ハッピーメリークリスマス? につづく


ご拝読アリガタウ。


次回いよいよ最終回です。


お楽しみにっ!

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