第7話 違和感
今年もまた例の如く楽しくもあり、空しいクリスマスを野郎どもと過ごす事になるのか、と俺は溜め息を吐いた。
「はぁっ……」
しかぁーし! これまでの失敗を繰り返す俺ではない。
今年のクリスマスは勇気を出してクラスの女子を呼んであるのだ。
クリスマスパーティーに参加すると言った女子には当然! クリスマスを共に過ごす特定の相手が居ないであろう。
参加する女子の大半はフリーだと思われ、これはまたとないチャンスでもあるのです。
そりゃまぁ? 中には恋人と参加する奴等もいるが、それはそれで好ましい事だ。
参加した恋人同士を目の当たりにすれば、新たな恋が高確率で生まれるることであろう。と踏んでいる。
クリスマスという特別な雰囲気に流され、仲睦まじい恋人同士を見ていると自分にもと、気持ちが生れる可能性は非常に高い。
例え成り行きだとしても今年こそ、彼女を作ってやる。
――よっしゃ! 気合を入れろ俺。
しかし何故か心の中にはポツリと空いた様な寂しさに気付く。
張り切れば張り切るほどに……。
空しさが俺の心を覆い尽くして行った。
なにか大切な事を忘れている気がして、胸の何処かに引っ掛かる違和感を感じるが思い出せない。
「おい! 誠元気ねぇーな? 今年最後の大イベントだぞ気合入れてこうぜ」
悪友が俺の背中を叩いた。
「あ、ああそうだな……来年に向け彼女作るんだったな」
「なぁ? 誠。お前って結構モテるのになんで彼女できねぇんだ?」
そんな事は俺が知りてぇーよ。
「さぁな何故だ?」
「お前は競争率が高過ぎるんだよ。お前を彼氏にでもした日にゃ、お前を好きな女子からのやっかみが怖いのさ」
「そんなもんか?」
「そんなもんなんだよ。まっ、お互い来年こそハッピーライフを過ごせる様に頑張ろうぜ」
「ああ、そうだな」
(誠……)
――女の子の声?
心の中に僅かに感じる違和感に俺は辺りを見渡した。しかし、女の子の姿は見当たらなかった。
空耳か? こりゃ末期だな俺の彼女欲しい病も……。
パーティーの打ち合わせも終わって悪友と別れ、自宅に向かう帰り道にサンタクロースの衣装を着た女性が街頭でチラシを道行く人に手渡している。
――無視、無視っと。あっ! ポケットティシュは貰って帰ろう。
女性の前を通り過ぎ様とした時、案の定と言うか狙われていたというかティシュが欲しかったと言うか声を掛けられた。
「山田運送でーす。そこの君! 良かったらアンケートに応じて欲しいんだけど、いいかな?」
アンケート? お歳暮の注文書の間違いじゃねぇの?
「はい。これに住所と名前を記名して空欄にクリスマスに欲しいものを書いてね。抽選券も付いてるから当選者には、山田運送から素敵なプレゼントが届くかも」
クリスマスに欲しいものねぇ……。
俺は空欄に『彼女』と書いて回収ボックスに入れた。そう言えば去年も同じ様な事があった様な気もする。
「あっ! お姉ぇさん。ポケットティシュ貰ってくよ」
「どうぞ。どいぞ。君くらいの年頃だといっぱいいるもんね。ほらもっと持っていきなよ」
……なんだか悪意を感じる科白だな? クリスマスにぼっちだし、家に帰ってやることと言えば、まぁーな? お前らもそうだろ?
籠に無造作に入るれられているポケットティシュを掴み取り家路に着いた。
その夜、ベッドに寝そべり貰ったポケットティシュを、ぼんやり見ていた。
「あれ?」
運送会社が配っているポケットティシュなのに社名も電話番号も書いてない。
アンケートといいポケットティシュといい宣伝効果があるのか? これで……。
まぁ、いいか。
……しかし今日は変な違和感を感じる日だったなぁ、と思いつつ部屋の電気を消し眠りに就いた。
翌朝、何時と変わらず当たり前の様に学校に向かう途中、やはりなにかが足りない気がする。
忘れ物でもしたのか? まぁ、いいかっとお気楽に考えてみるが、妙な違和感を感じる。
足りないのは物なんかじゃない。
分からない思い出せないけど、確かに感じる胸の中の違和感が気になるが、どうしても思い出せない。
なんだか、すっきりしないまま俺は学校に向かった。
学校に着いても授業中も今朝感じた違和感が消えない。
なにか大切な……大事な事を忘れている気がしてならなかった。
――俺は、なにか大切なことを忘れてる……。
なんだか無性にもやもやする。
もう直ぐクリスマス。
もやもやはクリスマスパーティーで解消しよう。そう決めて俺はずっと感じて止まない違和感を振り払った。
そして時間は経ってクリスマスパーティーの日を迎えた。
楽しんでやる今年こそ彼女ゲットだぜ。
高ぶる気持ちとは裏腹に、胸の奥に感じる違和感が俺の胸に広がるばかりだった。
第8話 見知らぬ君を探してにつづく