第3話 買い物DEート
こんにちは
雛仲 まひるです。
さて、真夏のサンタの第三話です。
はいどうぞっ!><b
「誠ぉー、お腹空いたよぉー」
蒸し暑さと空腹に溶けてしまいそうな、か細い声で真夏が呟いた。
俺と真夏は昼前に家を出て電車で一時間程、離れた大型ショッピングモールのある隣街までやって来た。
出掛ける間際まで、浮かれていた真夏は、はしゃぎ過ぎたのか電車の中では眠りこけていた。
真夏が目を覚ましジュルルと涎を拭ったあとの開口一番、腹が減ったと来たもんだ。
空調の聞いた電車から外に出れば、くそ暑いというのに真夏は、俺の肩口に小首をもたげて小さな頭を置き、腕に絡みついて来る。
時折、吹く生暖かい空気が髪の毛から香る甘い香りを運んで、俺の鼻腔を刺激する。
「いい香りがする」
俺は無意識に呟いた。
「ほんとだぁー甘い匂いがするねっ。誠」
なんだか話が噛み合っていない気がするのは気のせいだろうか。
今の今まで暑さと空腹に溶けてしまいそうだった真夏の目が爛々と輝いている。
「ほら見て誠ぉ。あれ」
真夏が指差した方向を見るとケーキ食べ放題と書かれた立て看板が目に入た。
「早くぅー。まーこ・ーと、行こ」
真夏の顔に笑顔が戻った。
「しかたねぇな……買い物前に腹拵えと行くか」
真夏に手を引かれ店のドアを潜った。
「お前……よくそんなに食えるな。太――」
真夏が俺の言葉を遮った。
「はい。あーん」
フォークに突き刺したケーキを俺の口にねじ込んだ。
「年頃の女の子に太るなんて言うもんじゃないよ誠? デリカシーがないんだねぇ? だから誠は女子に人気があっても振られるんだよぉ」
真夏にねじ込まれたケーキをアイスティーで一気に流し込む。
なんで知ってんだよ! 俺が振られてばかりいる事を。
「だーって誠。去年のクリスマスに振られてお願いしたでしょ? だから真夏が来たんだよ。そして誠が真夏のダーリンになる抽選に当選したんだよね。このラッキースケベ」
そんなスケベと言われるようなイベントは発生してないが、なんかのボランティアですかそれ?
「あの小箱か」
「そうだよ」
「ボランティア……かよ?」
胸が痛んだ。
まだ会って間もない真夏の言葉に傷ついているのか? 俺は。
自慢じゃないが振られ慣れている、この俺が?
「サンタクロースってのは出会い斡旋や出会いサイトみたいな事もしてんのか? お前は毎年こんな事をしていたのかよ!」
「あのね、真夏はね。誠が初めての恋人なんだよ。私は、まだサンタクロースになって二年目の新米だけど、新人だし昨年は忙しくプレゼントを配っているだけだったけど、今年は真夏が恋のプレゼンターになったんだよね。これも二年目から無作為に抽選で決められちゃうんだけどね」
真夏はそう言って俯いた。
「ごめんね誠。デリカシーがなかったのは私の方だったね?」
真夏は微笑むと俺の手を引いてレジに向かった。
「さぁ、ショッピング行こ」
俺達は店を出てショッピングモールに向かい歩き出した。
女の買い物をなめていたぜぃ。
「ねぇー! 誠。右と左どっちがいい? 真夏に似合ってる?」
「どっちもいいんじゃねぇか?」
長い買い物に疲れていた俺は、ぶっきらぼうに言葉を返した。
「誠はどうでもいいんだね? 真夏の事なんか……」
「お前の買い物だろ? 自分が気に入った服に決めろよ」
真夏の言葉が引っ掛かっているのか?
「そっか……うぅーん。前のお店の方が良かったかなぁ? どう思う? 誠」
「お前が着る服だぞ? 俺が気に入った服より自分が気に入った服を選べと言ったろ!」
「誠……怒ってるの? 真夏が決められないから?」
「そんなんじゃねぇーよ……」
本当は良く分からない。
あっちこっちの店を行ったり来たりして疲れた事もある。
真夏が選んだ服は、どれも似合っていて可愛いと思ったのも本当だ。
「あのね? 誠……真夏はね。誠が一番いいと、真夏に似合ってる、可愛いと思ってもらえる服を着たいんだよ?」
さらりと流れ落ちる髪の毛を二本の指で耳の後ろに掻き揚げながら、俯いた俺を覗き込み真夏は微笑んだ。
いい香りがした。
やわらかくて、やさしい甘い香りがした。
「真夏はね。誠が大好きなんだよ?」
「嘘つけ! 俺は抽選で選ばれただけなんだろ? 出会って間もない俺の何処が好きなんだよ」
「なんでかな? 確かに誠の言う通りプレゼンターとして誠の彼女になったのにね。きっとその内に分かるよ……。今は真夏にも、まだよく分からないんだ。なんだろうね? この気持ち。……誠は真夏が嫌い?」
分かんねぇよそんな事。
……なんで俺はこんなにも怒ってるんだろう? 分かんねぇーんだよ。
「あのね? 誠、真夏はね。セール・ヴォランの事で真剣に怒ってくれたり、文句言いながら聞いてくれたりしてくれるやさしい誠が大好きだよ。ほんとはねセール・ヴォランはサンタクロースの仕事以外に使用する事は禁止事項なんだよぉ。もし通学に使う事を誠が喜んで承諾してくれていたら、真夏は誠の傍にはいられなかったんだよね。それに……後は内緒ねっ! きゃはぁ」
頬を赤らめ微笑を浮かべている真夏を不覚にも可愛いと思った。
「誠? このワンピース似合ってる?」
真夏は白い布地をレースが覆う、花柄のひらひらしたワンピースを自分の身体の前で合わせて見せた。
「ああ、似合ってる」
「試着してみるね」
真夏は試着室のカーテンを閉めた。
衣擦れの音だけが俺の耳に届く。
間もなくして真夏がカーテンを勢いよく開いた。
「誠……可愛い、かな?」
肩口にレースのリボンが幼さの残る真夏に良く似合っていた。
「ああ、可愛いよ」
俺は素直に感想を述べた。
「嬉しい……これに決めるよぉ」
真夏は試着室で着替え終わると、店員さんを呼んで値札を切り取って貰いレジを済ませた。
真夏と俺はそのまま店を出て次の買い物へと向かった。
洋服に合わせヒールの高いサンダルを買い店外に出た頃には、もう薄っすら夜の戸張が降り始め、辺りのネオンや高層ビルに灯りが目立ち始めていた。
空に星が目立ち始め、ショッピングモールの片隅に聳える観覧車の電飾が色とりどりに存在をアピールしている。
「誠! あれ乗りたいよぉー」
真夏に手を引かれ観覧車へと向かった。
長蛇の列にはカップルが大半を占めている。
台風の影響か風が強まる中を一時間程並んで俺達の順番が回って来た。
雲の流れは早いけど夜空の星達を雲はまだ覆ってはいない。綺麗に夜空を彩っている。
俺と真夏を乗せた観覧車のゴンドラが、ゆっくりと頂点を目指し始め、四分の一程、上がったところで夜の街並みが見え始めた。
「うわっ! 綺麗だね誠。ほら見て見て」
目を輝かせ真夏はアクリル板の窓に、へばりついている。
「真夏。お前サンタクロースだろ? 上空からの夜景なんて見慣れているんじゃないか?」
「そりゃねセール・ヴォランで飛ぶのは夜だし見慣れてるよ。でもね……傍にいる瞬間、瞬間に好きになって行く人と一緒に見る夜景は格別だよぉー、真夏こんな気持ち初めて」
「そ、そうか?」
「誠は慣れてるのかなぁ? 結構、学校の女子に人気あるしデートなんかいっぱい、いっーぱい体験してるよね」
そう言った真夏の顔は少しだけ寂しそうに見えた。
「そんな事ねぇーよ」
「ほんとにほんと?」
「ああほんとにほんとだ……それに俺はそんなに女子に人気があるのか分かんねぇ。いい感じだと思って告っても、毎回振られるし」
「部活にも入ってないくせに誠はスポーツ万能で、勉強してる様に見えないのに成績は上の中、男子女子分隔てなく振舞われる微笑み、見た目より繊細に見えるところや飾らない態度と時折見せる何気にやさしいところなんかじゃないのかなぁ? ねぇ誠、真夏もそっちに行ってもいい?」
恥かしそうに真夏が語尾を弱めた。
移動の途中、ゴンドラのモーメントがバランスを変え、多少傾きを増した中を恐る恐る、こっちに近付く真夏に俺は手を差し伸べた。
第4話 ハプニングナイトにつづく
ご拝読ありがとうございました、
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