sakura ~想い出~
桜は貴方が好きだった花。
どんなに鮮やかで綺麗な花よりも、貴方は桜が好きだった。
「あと、どのくらいで春になるんだろうか・・・」
冬のあの日、彼は灰色の空から降りゆく無数の白い雪を見上げながら言った。
彼は、医者に決して治ることはないだろうと言われた感染性の重い病を抱えていた。
「気が早いです。春はまだ、ひと月以上先ですよ」
「そうか。当たり前だよな・・・」
私の答えに、彼は残念そうな表情を浮かべながらも微笑んだ。
彼が吐いた白い息が空へ消えていく。
何故彼がそう言ったのか、私には当然のように分かっていた。
きっと彼は桜が見たくなったんだろう、と。
庭にいる彼の隣に私が行くと、彼は言った。
「雪を見ると、どうしても桜が頭の中に浮かぶんだ。・・・それは、俺だけなんだろうかな」
「いえ・・・そんなことを仰るから、私までそう思えてきました」
ずっと庭にいた彼の大きくて冷たい手が、私の手をそっと優しく包んだ。その手が、私にはある意味温かく思えた。
そして彼は優しく微笑んで言った。
「春になったら、また二人で桜を見に行こう」
それから春になった。
彼の言葉通り、私達は桜を見に行くことになった。
「桜も他の花たちも儚いものだけれど、それでも凛と咲くところが好きなんだ。桜は・・・まるで人の生涯のように、咲いては散り、再び咲いていく。俺は桜に励まされ続けてきたんだ・・・」
一年ぶりの桜を見上げ、彼は言った。
彼のその目は、切なげにずっと桜を見つめていた。
「来年も・・・一緒に見れますかね?」
冗談で私は彼に言ってみた。
桜を見るのを止め、彼は私を見た。
何故だか彼の表情は、悲しさを押し殺してるように見えた。
「そうだな・・・。そうだと、良いな」
そう言った彼の手が、私の肩に置かれた。彼の顔が近づく。
私は目を閉じ、そして唇に温かさを感じた。
長くも短くも感じたその時間は経ち、温かさが離れ、私はそっと目を開いた。
「どれだけ一緒にいることが出来るか分からないが・・・最期まで傍にいてくれるか」
「もちろんです」
彼の言葉に、私は頷いた。
愛しい貴方となら・・・貴方が望むなら、どこまででも傍にいる。
たとえこの先が短くても、私は・・・。
「う・・・ぁ」
微笑んでいた彼の表情が、突然崩れた。
「!?」
私が目の前で起こっていることが理解できず呆然としている間に、彼の体がゆっくりと倒れていった。
本当に・・・突然だった。
・・・そしてその時、彼は亡き者となった。
彼が好きな桜の木の下で、命の終わりを迎えた。
私は倒れた彼の体に寄り添って声を上げて泣いた。ただただ泣き崩れた。
満開だった桜の一片が、目を閉じた彼の頬にひらりと舞い落ちた。
視界がくもる中で、私は彼を見た。そして思った。
貴方はまるで・・・私の好きな、儚い桜のような人。
切ないような悲しいような感じで作ってみました。。。
桜って季節外れですけど、気にしないでください 汗。
あまり慣れていないので、コメントなどいただけると嬉しいです。
ご閲覧ありがとうございました。