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都市伝説のあの怪異が人気復活を目指すようです

作者: イトー
掲載日:2026/02/07

「なんか私って最近、すっかり話題にならなくなったわよねえ」

 街灯がチラつく、深夜の路地裏。

 マスクをした長髪でコート姿の女性が、犬に話しかけていた。

 犬の頭部は人間の男性、都市伝説の人面犬だ。


「まあ、ねえさん、時代っすよ。俺らは古いですし。というか、姐さんはもうレジェンドクラスじゃないっすか」


「でもさびしいもんでしょ。近ごろはネットの書き込みとか、あっちの噂が主流じゃない」

「ああ、いわゆるネットロアっすね。あそこから色んな後輩が出てきましたよねえ」


「そうよ。ほら、あのハトみたいな声の子とか」

「ハトって、ポポ⋯⋯ああ、八尺様っすか」

「そう、小生意気に様なんて付けられて。私なんて女よ、ただの女」


「いろいろと云われがあって、様付けらしいっすよ」

「ふーん、あっそう。やたら人気よね。もしかして世の中、高身長の女が好まれるのかしら。私もため込んだ霊力を使えば姿形や質量くらい変えられるのよ、全長57メートルとか、重量550トンとか」


「それだと霊力っていうか、電磁力って感じっすね。いっそ武器も刃物からヨーヨーに持ち替えますか。えーと、なんの話でしたっけ?」

「人気の後輩の話よ。あとはなんて言ったっけ、ガラガランダ? とかいう、体が半分蛇の」


「蛇はあってますけど、そっちは昭和仮面ライダーの怪人っすね。姦姦蛇螺かんかんだらじゃないっすか」

「それよそれ、アナグラムみたいで紛らわしいわね。なに、最近は半分が蛇になってるとか、そういうのが好きな層がいるわけ?」


「なんでも、結構いるみたいっすよ。なんなら一大ジャンルっていうか。まあ、俺も体が犬なのに人気はいまいちっすけど」

「そう自虐的にならないで。私はね、今から人気の復活を狙ってるの。どんな手を使っても、話題になって広まれば力が上がる、それが都市伝説なんだから」


「タイパだなんだって、情報の消費期限が早い今は、大きな話題作りはむずかしいっすよ。具体的にどうするんすか?」


「手段は選んでられないわ。まず人気の要素やシチュエーションをどんどん取り入れる、先輩後輩を問わずね」

「温故知新の精神と時代に歩み寄るアップデート、いやあ、さすがっすね」


「で、重要なのは自分らしさをオーバーなくらい、これでもかとアピールしまくること、これよ! この手で怪異のナンバーワンに返り咲いてやるわっ!」




 数日後、深夜。

 ロードサイドにコンビニはおろか、民家もまばらな田舎道に1台の乗用車が走っていた。

 乗っているのは若い男が2人。


「ん、さっき道ばたに女がいたな」

 黒髪のドライバー山田が言うと、

「僕には見えなかったが。見間違えじゃあないか」

 助手席に座る茶髪の鈴木が疑う。


「いや、髪の長い、白い帽子にワンピースの女だ」

「こんな時間にいるのは幽霊くらいなもんだよ」


 山田は何気なくバックミラーを見た。

「?」

 闇のなかに白い点を見つけた。

 それが少しずつ、大きくなってくる。

 60キロちょっとで走るこの車に接近してきているのだ。


 遠目には、サイズ的にバイクほど。

 バイクならライトが見えるはず。

 だが、灯りのたぐいが一切見当たらない。


 そこで山田は気付いた。

(待て、ライトがないのに、なんであんなにはっきりと見えてるんだ)


「おい、サイドミラーで後ろを見てみろ」

「? なんだ、白っぽいものがどんどん近づいてくる。なんだか、人のようにも見えるぞ」


 そこで白いモノが急加速した。

 距離は縮まり、車の後方50メートルほどに付く。

 その姿は、帽子と服を身に着けた女だった。

 しかし、スカートから出ているものがおかしい。


 どう見ても脚ではない。

 木の幹のような太いものがグネグネと動いている。


「あれは俺が見た女だ。なんで車に追いつける!? それにあの下半身と、後ろでのたうつように動いてるものはなんだ!?」


「あれは服の一部とかじゃあないぞ。⋯⋯尻尾だ。腹は蛇腹だ、あの女、腰から下が蛇になっている!」


「おい、冗談じゃあないぜ」

 山田は70キロまでアクセルを踏み込む。

「下半身が蛇だと!? そんな漫画かゲームに出てくるようなモノが現実にいるわけがねえ!」


「そうは言っても、あいつは確かにあそこにいる。そしてあの走力、尋常じゃあない! 車より速く走る動物はいるが、それは短距離だから可能なんだ。あの速度を維持しながら、これだけの距離をずっと走ってくる。あんなもの、断じて生き物とは呼べない!」


「なら機械かなにか? 乗り物かドローンにでもガワをかぶせて、妙なモノが追いかけてくるような仕掛けをしてる奴でもいるのか。たとえば、ふざけた配信者が動画作成のためにとかよぉ」


「あの重量感と迫力を兼ね備えたモノをあれだけの速さで動かすには、かなり大掛かりな仕掛けが必要だ。それこそ個人がネタやいたずら目的でやれるレベルじゃあない。だからあれは、生き物、機械、どちらでもないんだ」


「じゃあ、あれはいったい」


「日本中の心霊スポットをめぐった、高い霊感を持つ僕には分かる。さっきから感じる、この独特の怖気おぞけ⋯⋯あいつは何らかの怪異だ!」


「怪異だと? そんなものは単なる怪談や噂じゃあねえのか」


「現に今、僕らはそれを体験している。山田、速度を上げろ! きっと、追いつかれたら何かまずいことになるタイプだ!」


 車は80キロに達した。

 白い女の姿がやや小さくなる。

 だが依然として追跡は止まらない。


「まいったな。鈴木、よく効くまじないとか坊さんの知り合いとかいねえのか」

「この道をずっと行けば、名のある神社がある。そこまでたどり着ければ、あるいは。しばらくは信号や大きな交差点はないはずだ、まっすぐに、はっ!」


「どうした、なにかあるのか」


「しまった、この先すぐにヘアピンカーブがあるんだった。減速しなければ事故る、だが大きく減速したら必ずやつに追いつかれてしまう!」


 車のハイビームが急カーブの標識、そして注意を促す看板や多くの誘導標を照らす。


「大きく減速したら追いつかれる? なら大丈夫だ、減速は少しで済むんだからな」

「なに、山田、間もなくカーブに突入してしまうぞ」


「忘れてもらっちゃあ困るぜ、この俺がちったぁ名の知れた走り屋だってことをな」


 速度を保ったまま車がカーブへと差しかかる。

 そのとき、山田が神技的なペダル操作を見せた。

 タイヤが高いうなりを上げる。


 完璧なタイミングでのドリフト走行。

 計算し尽くし、デザインされたかのような美しいコーナリング。

 最小限の減速でクリアすると、道は直線にもどる。


 山田はバックミラーを確認する。

 白い女らしきモノは見えない。


「よし、振り切ったようだぜ」


「い、いや違うぞ、山田!」

「ちがう? やつはもうミラーに映っていない」


「バックミラーでは確認できない、なぜかってそれは、もう後ろにはいないからだ」


 鈴木は山田のほうを指さし、

「山田、右だ、右を見ろ!」

「なに、うおおおお!」

 振り向いた彼は絶叫した。

 なぜなら、


「や、やつが、すぐ真横を走っていやがる!?」

「90キロに迫る速度にぴったりと並走している。その速さは高速で走る老婆の怪異、だが服装は帽子にマスクにワンピースで下半身が蛇だと!? まるで怪異のキメラじゃあないか!」


 女の怪異は運転席側の窓を、

 コンコン

 と律儀にノックした、すると、


「ま、窓が勝手に開いていく! 閉まらねえ!」

「山田、近づいてくるぞ!」


 会話できる至近距離にまで寄ってくると、女は何かをしゃべった。


「なにかしゃべってるようだが、風の音でなにも聞こえねえ!」

「マスクをしているからよけい聞き取れない!」


 2人は恐れながらも、帽子とマスクの間にある目鼻立ちに美貌を感じた。


 声が聞こえなくとも、それで返答とみなせる。

 綺麗か、綺麗ではないか。

 質問に対する回答で、行動を変える。

 そういう都市伝説だからだ。


 女は演技がかった動作でマスクを外した。

 あらわになる、耳まで裂けた口。

 ただそれだけでは終わらない。


 上唇の中央から鼻、ひたいの上へと亀裂が入っていく。

 同時に下唇からアゴの下まで赤い線が引かれていき、

「んばあ、ごででぼぎれい?」

 女の顔が十字に割れて四方に広がった。

 中には鋭い牙がひしめいている。


「うおおおおおお!?」

「うわあああああ!」


 それでも山田はしっかりハンドルを握ると、

「化け物め! ぶつけてブチ殺してやる!」

「よせ、怪異にそんな物理攻撃は無謀すぎる! とにかく逃げろ! 人間にできるのは逃げるだけだ!」


 鈴木の説得に冷静さを取り戻した山田は、アクセルをベタ踏みして車を一気に加速させる。

 その場にとどまる怪異から、2人はからくも逃走に成功した。


 この強烈すぎる体験を、オカルトマニアの鈴木はすぐネットに書き込んだのだった。






「姐さんが各地でやってきた活動が、ネットに広まってるらしいっすよ。書き込みだけじゃなく、再現動画も作られてるとか」

 くわえてきたスマホを置き、人面犬が言った。


「ふふふ、どれどれー」

 口裂け女は上機嫌でスマホを手に取るが、動画のタイトルを見て固まった。


【新都市伝説 十文字マッハラミア】


「え、ちょ、なにこれ」

「なんか、新しい都市伝説、として認識されたみたいっすね。姐さん、いくらなんでもやりすぎっすよ。変身能力でいろいろ混ぜて、顔面なんてSFホラーのクリーチャーみたいにしちゃうんっすから」


「え、でも派手にアピールしようと思って」

「いやぁ、顔のインパクトでマスクがおまけ程度に扱われてるし、口っていうか頭全体が裂けてるから、誰も口裂け女とは思ってないようっす」


「うそっ、私のアイデンティティ、弱すぎ」

 口裂け女は口元を両手で押さえて、少しなつかしいポーズを取ったりする。


「あー、あと大変申し上げにくいんすけど」

「な、なによ」

「十文字マッハラミア、一部では完全に口裂け女の上位互換みたいに思われてるようで、口裂け女自体の評価は大きく下がったっぽいっす」


「え、ええ!?」

「それと噂や話題性の大きさが力となり、形となるのが都市伝説っすから、そろそろ【十文字マッハラミア】っていう怪異が姐さんとは別に現れて、行動し始めるかもしれないっすねえ」


「そんな、自分で自分のライバルを作ることになるなんて。わざわざ日本各地に出張して回った私の苦労は、いったいなんだったのよおー!!」


 口裂け女や人面犬に、再びスポットライトが当たる日は来るのだろうか。

 それは世間の噂次第かもしれない。

 深夜の思いつきで一気書き。

 なんだかんだで怪異界の伝説的存在。

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