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第5話 新しい道

 大熊に壊された家や、畑、小屋など大人たちは手を取り合って修繕に当たっていた。

 風がさやさやとそよぎ、教会の辺りは先ほどまでの騒ぎがなかったかのように穏やかな時が流れている。


 ギルの部屋はこじんまりとしており、物はほとんどない。窓から優しい光が差し込み、眠るギルを優しく包んでいた。ギルが身じろぎ、うっすらと目を開ける。


「ん……」

「目覚めたか……」


 神父はギルの髪を優しく撫でた。


「神父様……お怪我は……」


 まだ意識ばぼうっとしているような目をしている。


「ありがとう。ギルのおかげで何ともない」

「そうですか……よかった……」


 ほっと胸を撫でおろし、また目を閉じた。


「ギル……回復魔法が使えたんだね……」


 神父が話しかけるとギルはまた神父を見つめた。神父は少し複雑そうな顔をしている。これからギルに起こることを案じているようだった。


「いえ、ぼくじゃありません。こだま様です……」


 この国では魔法が使える者は稀だった。それに加えて回復魔法を使える者はほぼいない。

 しかしギルは手に残る違和感を感じていた。


「そうか、こだま様が……。あとでちゃーんとお礼を言いに行かなきゃなぁ」


 神父様はギルを優しくなでた。


「はい、一緒に行きましょう……。それで、あの……他の怪我をしたみんなは……?」

「あぁ……まぁ、無事のものもいれば……」


 神父は口を濁した。

 ギルは神父の悲しそうな顔を見て心を痛めた。きっと自分だけ助かったことに引け目を感じているのだとギルは思った。


「ぼ、ぼく、あとで試してみていいですか……魔法……」

「そうだね、ギルが回復したら……。今は休みなさい」




 ◇


 翌日、ギルは神父様に向けて魔法がかけられるかどうか試してみた。ギルの手からまた温かい優しい光が溢れ、神父の体を包んでいく。


「これって……」


 ギルの心臓がどくどくと胸を打っている。頬は赤く熱を帯びていた。


「ギル、これは間違いなく君の魔法だ。そうか……魔法を……」

「神父様、この力は役に……役に立ちますよね?」


 ギルの瞳が輝いている。


「あぁ、もちろんだとも」

「そっか……役に……」


 自分の手を見つめてから、神父の目を真っすぐ見た。


「ぼく、怪我をしている方々を治したいです!」

「そうだね、そうしなさい」


 神父とギルは施療室へ赴き、一番重症な人に魔法をかける。同じように優しい光が男の体を包み、ゆっくりと傷を癒していった。


「おぉ……凄い……痛くねえ! 痛くねえぞ!!」


 男はぶんぶんと腕を回すと、周りが拍手を送る。


「まさかギルが魔法使いだったとは! それも回復の!」

「この村にそんな凄いやつがいたなんてな!」

「やはりギルは奇跡の子だ!」

「そうだ、凄い! 奇跡の子だ!」


 村中がギルを褒めたたえた。

 しかし、ギルの心は複雑だった。

 嬉しいようなそうでもないような。


「……役に立てて嬉しいです」


 ギルは笑顔を作り、怪我人たちの回復をしていった。手は震え、視界は白く滲んでいく。それでもギルは立ち止まらなかった。

 帰りは神父におぶってもらわなければいけないほど、力を使い果たしていた。


「すみません、神父様……」

「なに、いいんだよ。ギルはみんなを救ったのだ。ありがとう」


 赤く染まった世界の中、温かな背中を感じ、ギルは眠った。




 ◇


 数か月後、神父から大事な話があると呼び出された。


「ギル、君の魔法は多くの命を助けることが出来る。より困った人たちを助けるのが我々協会の務め。君をシルバドールのファラン教会に行ってもらうことにしたよ」


 ギルの心がひゅっと冷たく冷える。


「し、神父様……。ぼくは、もういらないのですか……?」

「違う、違うんだ。私もいつまでもギルと一緒にいたい。だがギルの父として……第二の父として君をもっとちゃんとしたところに行かせてあげたいのだ」

「父として……?でも……だって……神父様は……お父さんと呼ばせてくれなかった……」


 ギルの瞳からたくさんの涙がこぼれた。

 ギルが神父の前で感情をあらわにしたのは初めてだった。


 神父はギルをぎゅっと抱きしめる。


「そうか……そうだったか……すまない。こんな老いぼれた男なんかが君の父になってはいけないと思ってしまったのだ……。でも、それは間違いだったんだね。君はわたしの唯一の息子だ。そう思っていいのかい?」


 ギルは胸の中で何度も頷いた。


「そうか……そうか……」


 神父の目からも涙が溢れた。


「だが、君の力をこんな小さな村でくすぶらせるわけにはいかない。大丈夫、少し遠いが、休みもいただけるだろう。私もたまに会いに行く。ファラン教会の神父様は私がお世話になったお優しい方だ。きっとギルを守ってくださる」

「……わかりました。ぼく……ファラン教会へ行きます……」


 こうしてギルはファラン教会へ向かうことに決めた。

 数日後、ギルは神父と一緒に木霊様がいる神木に挨拶をしに行った。


「こだま様、必ずまた会いに来ます。それまでぼくのこと忘れないでくださいね」


 するとどこかで鈴が鳴った気がした。

 ギルは笑顔で神父を振り返る。


「それでは、お父さん、行ってきます」

「ああ、行ってらっしゃい」





――数十年後。


「ありました! ここです! ここです!」


 アトラス城の制服をまとったギルが嬉しそうに走り出した。


「セイン様、こちらです!」


 遠くで手を振るギルに呼ばれたセインという名の男もうれしそうに微笑んでいる。

 セインが隣に立つとギルは神木を見上げた。


「こだま様! お久しぶりです!」

「俺がいたら出てこないんじゃないか? でも、不思議な気配は感じるね」


 セインも見上げている。


「会ってくれますよ。光の神にだって認められた方ですよ」


 ギルは誇らしげにセインを見た。


「そうだといいな。ギルの一番の友達に会いたいからね」

「僕も会ってほしいです」


 木々がざわめき、遠くからカランカランという音が鳴る。

 すると上からふわりと緑の葉が落ちてきた。


「こだま様!」





最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

少しでもみなさんの心に残るものがあれば嬉しいです。


この物語は「ヴェイルズ」に登場するギルの少年時代のお話でした。もし興味を持っていただけましたら、そちらも覗いていただけたら幸いです。

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