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第2話 出会い

 ――三年前。

 神父は屋根の修理をする際、ハシゴから足を滑らせ大怪我をした。


 動けなくなった神父を手伝うため、村人が毎日代わる代わる世話をしにくる。幼いギルもまた、多くの村人のお世話になっていた。


「ギルも早く神父様のお手伝いが出来るといいね」


 手伝いに来ていたとある村人に笑顔で声をかけられた。何でもない言葉ではあったが、その言葉はギルの心臓を飛び跳ねさせた。


 物心つく頃から両親のことを聞いていたギルは、神父が引き取って面倒を見てくれていることも知っている。だからこそ急に不安になった。



 役に立たなければここにいてはいけないのだろうか?



 神父は家族だと言っていたが、「お父さん」ではなく「神父様」と呼ばせていた。そのことにギルの中で小さな違和感があった。


 ギルの胸の中に靄が広がる。




 ◇


 ある日、男の子を連れた女の人が手伝いをしに来た。


「おはよう、ギル。ほら、ショーンも」

「……おはよう」


 ショーンは、不機嫌そうに挨拶をする。


「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

「ショーンより小さいのにこんなに立派に挨拶ができて。さすが神父様の教育がいいんだわ。ほら、ショーンも見習いなさい」


 挨拶をしたにも関わらず怒られたショーンは不服そうな顔をした。


「じゃあ、二人で遊んでいて。お母さん、今からお掃除とお昼ご飯の準備をするから」


 女の人が神父の部屋へ向かうと、ギルとショーンは顔を見合わせる。ショーンとは何度か会ったことはあるが、こんな風に二人で遊ぶのは初めてだった。




「もうそろそろご飯かな? お母さんの料理は凄くおいしいんだぜ」


 教会の外で遊んでいると、いい匂いが漂ってくる。そこにショーンが自慢げに伝えた。ショーンは遊んでいる時も、「お父さんが~」とか「お母さんが~」とか楽しそうに今まで起きた出来事などを伝えてくる。ギルはただそれを静かに聞いているだけだった。


「ご飯よ~!!」


 女の人が教会の裏口から大声で呼んだので、二人は遊びをやめた。

 教会の居住スペースである部屋に入るとテーブルの上に三人分の食事が並んでいた。


「さ、食べましょう。神父様の分はお部屋に運んでおいてあるから安心してね。まずは手を洗っておいで。こら、ショーン、まだよ! みんなが揃ってから!」

「ありがとうございます……洗ってきます」


 手を洗い、みんなが席に着くと簡単な祈りを捧げてから食べ始めた。


「ほら~、もう、こぼれるでしょ? あとちゃんと噛んでいるの?」

「もぅ~わかってる。かんでるっ。あ、お母さん。さっきね――――」


 女の人とショーンはうるさいくらい楽しそうに食事をしている。ギルはそれを視界に入れないようにただ黙々と食べた。声もどこかくぐもって聞こえる。



 早くこの時間が終わればいいのに……。




 ◇


 女の人とショーンが帰り、やっと静かになった。これを求めていたはずなのに、ギルの心には何故か寂しさが残った。外の明るさと部屋の中の暗さの差が余計にそうさせたのかもしれない。


 ギルは重たい足取りで外に出てみた。太陽はまだ上にあり、眩しさに目が眩む。


「……お父さんとお母さんに会いに行こう」


 自分にだっていたのだ。裏の墓地へと歩みを進める。


「確かずっと向こうだったような……」


 ギルの両親の墓は一番奥のあまり日が入らないような森の中にあった。記憶を辿りながら前へと進む。たくさんの墓の前を横切り、ただ前だけを見て歩く。


「あった……」


 それは小さな小さなお墓。それを見たら余計に悲しくなった。


「……お父さん……お母さん……。なんでぼくを一人に……」


 滲む視界に気付き、ギルは慌てて目を擦る。


「そ、そうだ、お花……」


 他のお墓は沢山の花が飾られていた。みんなと同じようにしたいと思ったギルは森の奥へと入っていく。以前神父と花を摘んだことがあるその場所を目指した。


 しかし思っていた場所へはなかなか辿り着かない。何故ならそれは、花が咲いている季節が違っていたからだった。それに気付かずギルはどんどん奥へと進む。


 薄暗くじめじめとした森に変わり、流石にここではないのかもと思い始めた時だった。ガサガサと葉が擦れる音が聞こえてきた。急に怖くなり、体を反転させその場から走り出す。ギルは何かから逃げるために無我夢中だった。


 怖い怖い怖い……。

 お父さん……!

 お母さん……!


「あっ!」


 飛び出した木の根に足をとられ豪快に転んだ。腕や足、顎までも痛い。その痛みでその場を動くことが出来なかった。そして寂しさと悲しみが一度に襲ってくる。うつ伏せた状態でギルは咽び泣いた。


 このままここにいればお父さんとお母さんのところに行けるかもしれない。


 気力を失ったまま随分と時間がすぎた。日が落ち始めた薄暗い森の中、大の字になって森の木々を見つめていた。


 その木々のどこからかひらりと木の葉が舞い落ちてくる。ギルはそれを何気なくじっと見つめていると木の葉だと思っていたものがどんどん大きくなり一人の女の子に変わった。


 木の妖精……。

 それともぼくを迎えにきた天使?


 驚くこともなく単純にそう思った。それでもギルは起き上がる気にもなれず、そのままでいると女の子はギルの傍に立ち手を伸ばしてきた。起き上がれと言っているようだ。


「ぼくを迎えにきたの?」


 手を取ろうとした時だった。女の子は顔を反らし、森の奥をじっと見つめる。その様子に気がついたギルも同じ方へと目を向けた。


「え? あ……あれは何?」

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