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第38話 魔女達、お風呂に入る


 フェロスを出て、ルフトとスミラの怪我の具合を診てもらうために教会を訪れた。後遺症も残ることなく問題はないと言われ、安心した。獣人族である二人は体が丈夫でありそのお陰で大丈夫だったようだ。


 教会を出て、二人と手を繋ぎながら歩く。ヴィルがむすっと不機嫌そうにしているが、私の手は二つしかない。また後で甘やかして機嫌を直してもらおう。


『ラーシェ、どこ行くの?』

「一つ、行きたい場所があって。ルフトとスミラも汚れているし、洗浄魔法で落とすのもいいけど、一度くらいさっぱりしておきたいよね」


 リュビアに問いかけられ、私は答える。目的地は、風呂場だ。宿屋の近くには浴場があり、個別に分かれているのでそれぞれ貸切ることができる。何回かヴィルを連れて訪れているが、一回貸切るのに銀貨七枚がかかるので行くことは控えているのだ。




「ひゃっほー! お風呂だお風呂だー!」


 浴場の扉を開けると、リュビアが我先にと飛び込んでいった。浴場には湯気が立ち込め、石造りの浴槽には熱い湯が満たされている。ヴィル、ディア、ルフトとスミラにも入るように促してから、私も中に入る。私は長い髪を高い位置で結いあげて、体にタオルを一枚巻いている状態だ。


「ラーシェはいつも綺麗だね。これ、ヴィルが大きくなったら、絶対にラーシェと一緒にお風呂にはいるのはダメだよ。今だけ、だからね!」


 リュビアが浴場を飛び回りながらそう言うと、ヴィルが鋭い目で彼女を見てから私に視線を向けた。


「ラーシェ。僕、今だけしかラーシェと一緒にお風呂に入れないの?」

「別に、これからも入ったらいいよ」

「やった!」


 ヴィルは嬉しそうに笑みを浮かべたのが可愛らしくて思わず彼の頭を撫でた。彼が目を細めているのを見てから、他の子達の様子を見る。リュビアとディアは軽く汚れを流してから先にお湯につかるようで、ルフトはきょろきょろと周りを見渡している。スミラは元気に走り回っており、その彼が転びそうになった。


 私は風魔法で彼を抱きとめて、傍に近づく。ルフトとスミラは、顔では区別がつかない。行動が大きく元気な方がスミラで、大人しく冷静な方がルフトだ。ちなみにルフトの方が先に生まれたらしく、お兄ちゃんであるらしい。


「スミラ、走ったら危ないよ。ほら、ルフトも一緒にこっちにおいで。私が洗ってあげるよ」


 スミラとルフトの手を取って、洗い場に腰かける。魔導具で水の出力と温度を調整できるので、適度な温かさと強さに調整してから、スミラの頭からお湯をかけた。彼は体を強張らせ、耳をぺたりと閉じた。


 彼を安心させるように声をかけながら、彼の灰色の髪に指を梳かせる。備え付けの髪洗い用石鹸を泡立たせ、スミラの髪を撫でるように洗う。獣人族の毛皮はデリケートであるから、耳を傷つけないように優しく洗わないといけない。耳の先や髪の根元を指の腹で丁寧にマッサージしていると、彼は徐々に私に身を預けてくれた。


「うぅ……きもちいい」


 スミラはエメラルドの瞳を細め、喉の奥で「クゥー」と鳴き声を漏らした。完全に気を許してくれたのか、頭を私に擦り寄せて尾をぶんぶんと振っている。体の汚れも落としていき、ルフトにも同様に行った。彼は落ち着かないようにそわそわしていたが、抵抗することなく洗い終えるまで静かに私の目をじっと見ていた。


「はい。これで、綺麗になった」

「……ありがとう」「ありがとう!」


 二人の言葉に微笑み、彼らに浴槽に入ることを勧める。スミラが元気よく駆けだしてルフトが注意しているのを見ていると、ディアが漆黒の髪を洗おうとしているところだった。


「ディア、手伝おうか?」

「いいのですか? ぜひ、ラーシェリアさまに洗っていただきたいです!」


 彼女は紅い瞳を私に向けてそう言った。私は彼女の後ろに移動し、彼女の髪に指を通す。濡れた漆黒の長い髪は背中で滝のように流れていて、美しい。この子は成長したらさぞかし美人に育つだろう。


 スミラ達の髪を洗った時と同じ要領で彼女の髪を洗う。途中でリュビアが私の頭の上に乗ってきた。


「ディアの髪、とても綺麗。水も滴る美少女だね。もしわたしが人化できた時は、髪は何色になるんだろう。やっぱ、水色かな」

「そうかもしれないね。何にせよ、リュビアには何でも似合うと思うよ」

「ラーシェ、嬉しいこと言ってくれるね! わたしはラーシェの髪も大好き。白髪の美少女、最高!」

「わたくしもリュビア姉さまと同じです。ラーシェリアさまは、とてもお綺麗で美しいです! まるで、月の女神かと思うほどに……」


 そこまで褒めても何も出て来やしないのに。笑みを零しながらディアの髪の泡を流していると、ヴィルがじっと私を見つめていることに気が付いた。彼は既に髪と体を洗ったようだが、湯船には浸かろうとしていない。


「ヴィル、どうしたの?」

「……僕も、ラーシェに洗ってもらいたい」


 彼は俯いて、小さな声で呟いた。私は納得して頷き、彼の傍に向かう。彼の体は幼いながらも引き締まっており、成長したらもっと筋肉がつくのだろうと予想がつく。


「じゃあ、ヴィルのどこを洗おうかな?」

「翼! 翼を、一緒に洗ってほしい」


 ヴィルの言葉に、視線を彼の背中に向ける。純白の翼が広がっており、一枚一枚の羽根がはっきりと見える。洗う必要もなさそうなほど綺麗に見えるが、彼が望むのであればもっと綺麗にしよう。


 私は氷魔法で櫛を創り出し、それを使って彼の羽根を整えながら石鹸で洗う。彼の分の櫛も創って手渡し、一緒に彼の翼を綺麗にした。


「お兄ちゃんのはね、きらきらしてる!」


 湯船に浸かっていたスミラが、飛び跳ねながら目を輝かせた。そして、彼は湯船から飛び出してヴィルの元へ駆け寄る。


「さわってもいい?」

「だ、だめ! 僕の羽根は繊細だから……」


 ヴィルは慌てて翼を動かすが、好奇心旺盛なスミラはすでに彼の背中に飛びついた。


「やめろ! ちょっ、くすぐったい! ラーシェ、助けて!」

「スミラ。悪戯はほどほどにね」


 ヴィルに助けを求められたのでスミラの体を抱き上げて彼から離したが、ヴィルの冷静さを失った慌てた声が面白くて、思わず笑い声を零してしまう。ヴィルが不満そうに私を見上げたので、誤魔化すように喉を鳴らしてスミラをルフトの傍に連れ戻し、ヴィルの頭を撫でる。


「翼、綺麗になったでしょう。ヴィルも湯船に浸かるといいよ」

「……うん」


 彼は未だ不満そうだが頷いた。そして、湯船でスミラから離れた隅に座る。ルフトとスミラは水遊びをしており、とても楽しそうだ。彼らが心に深い傷を負っていないことに安心する。


 皆の手伝いをしているばかりで私自身に手を付けられていなかったので、手早く髪と体を洗う。洗い終えたら湯船に浸かって、大きく息を吐いた。遠くにいたヴィルはすぐに近くに寄ってくる。ディアも同じだ。


「ヴィーテルさま。少し、ラーシェリアさまとの距離が近いのではありませんか? あなたさまは子どもであっても男性です。ラーシェリアさまはお綺麗な女性なのですよ」

「それがどうしたの? 僕とラーシェは家族なんだから、そんなこと関係ないんだ」


 ディアとヴィルは私を挟んで睨み合う。リュビアが仲裁に入ろうとしたが、ヴィルが彼女にめがけて湯を投げかけた。


「よくもやってくれたなぁヴィル君よぅ。お返しじゃ、くらえ!」


 リュビアはドスの効いた声を出し、全身を使って湯をヴィルに浴びせかける。その湯は彼の隣にいる私にも当然かかってきた。


「わ、ラーシェ、ごめんぶへっ」

「変な声」

「な、ななな、なによ! これをくらいなさい!」


 ヴィルとリュビアは水をかけ合い始めた。リュビアは器用に魔法を使ってお湯を操り、ヴィルは的確に彼女の顔にお湯を浴びせている。やはりこの二人はとても仲がいい。


「お兄ちゃんたち、あそんでいるの? おれもまぜて!」


 遊びだと思ったスミラが途中で彼らに参戦し、それを止めようとしたルフトが頭からお湯を被る。ディアはくすくすと笑っていたが、調整を誤ったのかヴィルが跳ね上げたお湯が彼女の顔に思い切りかかった。彼女の笑みが固まり、代わりにヴィルがしてやったりと笑みを浮かべる。


 その後は、皆がお湯をかけ合い始めた。皆が年相応の笑みを浮かべながら、楽しく遊んでいる。種族も、血統も、育った場所も違う、悲しい過去を持った彼らが共に遊んでいる姿を見て、私は心が温かくなった。子ども達の無邪気な笑顔を、守らないといけないという気持ちになる。


 ちなみに、私は巻き込まれないように軽く防御壁を張って避けていた。

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