第37話 獣人の双子との出会い
私はヴィルとリュビアと別行動をすることにした。彼らはとても不満そうにしていたが、理由はちゃんとある。私達が薬草採取をしている間、彼らには魔物討伐をしてもらいたかったのだ。
ヴィルとリュビアは実践経験が積みたそうにしていたので、それならなるべく多くの魔物を相手にするべきだろう。もし怪我を負ったり魔物が強すぎたりした時には、多量の魔力を放出するように伝えておいた。そうしたら、私は気づくことができる。
私は、ディアと薬草採取をしている。彼女にも実践経験を積んでもらいたいが、魔力が不安定でまだ慣れていないようなのだ。私が彼女の吸血衝動を抑えるために私の魔力を彼女に与えたのが主な原因である。彼にするのと同じような感覚でやったら、彼女には適さない魔力の量を与えてしまったのだ。魔力探知など簡単なことは行えるらしいが、魔法などはまだ以前のような感覚で使えないらしい。
少しずつ練習を重ねて魔法を発動できるようになっているのだが、魔物討伐が行えるほどではない。なので、彼女は私の傍にいてもらうことにしている。
「ディア。採取具合はどう?」
「たくさん採れています! 見てください、ラーシェリアさま!」
「わあ。たくさん採ってくれたね。ありがとう」
ディアが目を覆う黒い布を外すのは、宿屋の部屋だけである。今も彼女の瞳は見ることができないが、それでも彼女の感情は伝わってくる。
彼女とリュビアは仲良くしているが、彼女とヴィルが話しているところをあまり見ない。ヴィルはどうやら彼女を避けているようにも見えるのだ。ディアが可愛いから恥ずかしいのだろうか。
「ラーシェ!」
もっと皆が仲良くなるためにはどうすればいいだろう、と考えていると、リュビアの声が聞こえた。私は顔を上げて彼女の姿を探す。
「ラーシェ、この子達を治療してあげて!」
水色の小竜の姿と同時に、ヴィルの姿も見えた。彼は二人の子どもを抱えている。ヴィルも子どもなのに、彼は力持ちだ。
彼の傍に駆け寄って、二人の子の様子を見る。獣人の双子だ。この症状は、まさか……。
「悪性魔物がいたの?」
「うん。でも、わたしとヴィルで倒せたよ! この子達は、悪性魔物に襲われていたんだ」
リュビアの言葉に、私は驚いた。彼らに悪性魔物の倒し方をしっかりと説明したことはないのに、倒せるだなんて。リュビアが倒し方を覚えていたのだろうか。それにしても、二人の力は素晴らしいものだ。
二人を褒める前に、この子達の治療を行わないと。二人とも悪性魔力のせいで体の魔力が蝕まれている。そして、片方の子が負っている脇腹の傷が深い。早急に治療をしよう。
私はヴィルから傷が深い子を受け取って、地面に横たえる。そして傷に右手をかざして治療魔法を発動させた。魔法が傷口を再生させ、白い煙が立ち昇る。
「……っ!」
少年は喉から苦痛の声を漏らす。痛いだろうけど必要なことだ。彼の手を空いている方の手で握りしめ、勇気づけるために力を込める。
「偉いね。よく頑張った。ほら、もう大丈夫だよ」
彼の頭をゆっくりと撫でながら囁くと、彼はゆっくりと目を開けた。新緑の瞳が私の視線と交差し、彼はばっと勢いよく体を起こす。
「そんなに急に動いたら危ないよ。まだ完全に傷が治ったわけじゃないのだから」
「ルフトは? ルフトは、どこ?」
「ルフト?」
彼が言う子は、もう一人の子のことだろう。私は後ろを見て、ヴィルが抱き上げたままの子に目を向ける。彼にも光魔法をかけて悪性魔力を浄化してあげないと。ヴィルに手招きをして、少年を抱き上げる。彼は周囲を見渡して、先程治療した少年を見てほっと息を吐いた。
「スミラ、良かった……」
「あなた達は、ルフト君とスミラ君と言うんだね。あなたが、ルフト君? 体の調子が悪いでしょう。今魔法をかけるから、楽になると思うよ」
彼を抱き上げたまま、光魔法を発動させる。彼は体を硬くしていたが、徐々に落ち着いたのか彼は私の服の裾を小さな手で握りながら、私の魔力に身を委ねてくれた。彼の顔色が良くなったのを確認して、地面に下ろす。すると、彼はすぐに双子の片割れに寄り添った。
「あなた達はどうしてこんなところにいるの? いるのは二人だけ?」
私が問いかけると、彼らはびくりと体を震わせた。狼の耳が、緊張からか忙しなく動いている。
「……おれ、たちは……」
「ごめんね。怖がらせるつもりはないよ。私はラーシェリア。あなた達を傷つけることはしないから、安心してね」
彼らと視線を合わせて微笑みかけると、彼らは落ち着いたのかエメラルドの瞳を和らげた。
「……おれは、ルフト。こっちはスミラ。おれたちは、父さんと母さんにつれられてここにきた。けど、二人はおれたちをおいて先にかえった」
「おれたち、すてられた。だから、おれとルフトと二人だけ」
話を聞いて、悲しみと怒りを覚える。ヴィルの時も同じだが、なんて無責任で最低な親なのだろう。しかも危険なフェロスに置いていくだなんて、子どもを殺しているのと同等である。
「ラーシェ。この子達は……」
「分かっているよ、ヴィル」
ヴィルが私の手を掴んで私を見上げたので、私は微笑んで彼の青い瞳を見返した。ヴィルは似た境遇の双子を放っておけないのだろう。それは、私も同じだ。この子達をフェロスに放置していたら、確実に死を迎えてしまう。
「ルフト君、スミラ君。もし帰るところがないのなら、私達と一緒に来る?」
エメラルドの瞳を見つめて問いかける。彼らは顔を見合わせて、同時に顔を正面に向けた。
「いいの?」「いいのか?」
「もちろん。あなた達が良ければ、歓迎するよ」
そう言って手を差し伸べると、二人は恐る恐る小さな手を重ねた。これでまた、私の仲間が増えた。最初はこんなにも旅の同行者が増えるとは思っていなかったけど……人数が多い方が賑やかで、寂しさは感じないことだろう。




