28話:調査開始
外からコンコンッと叩かれる音がする。
目を開くがまだ真っ暗だ。
もう一度寝ようとしたら叩かれる音がもっと強くなる。
お陰ですっかり目が覚めてしまった。
「はいはい、直ぐ起きるから・・・うわっ!?」
黒い壁が消えていくその瞬間目の前に拳が飛んでくる。
僕はその拳を何とか回避する事は出来たが、その場に尻もちをつく。
「いってて…何すんだよアデラ!」
「お前が起きねぇからだろ」
起きないと言ったってまだ外は真っ暗で…あれ?僕は疑問に思い外を見ると真っ青な空が広がっていた。
急いで後ろを振り向くと黒い何かがパラパラと中を舞っていく。
それを見て思い出す。
昨夜じゃんけんに負けた僕は寒さを凌ごうと"黒の囲い"を発動して眠っていたのだった。
通りで朝にも関わらず視界が真っ暗だった訳だ。
そんな僕は一人この事実に納得して頷く。
「何してんだよ、置いてくぞ!」
「あぁごめん直ぐに行くよ」
どうやらアルシア達は先に外で待っていてくれてるらしい。
僕は体の節々が痛く腰を回したり等していると意地悪な笑みを浮かべた男が"お爺さんかよ"と言ってきた。
一体誰のせいだと…まぁ勝負に負けたのは僕なんだし自業自得か。
そう肩を落としながらトボトボと歩くとそこには大きく手を振る少女達の姿があった。
「さて、全員揃ったことだし早速始めるか」
「始めるったってどうするのさ?」
「そうだな…それなら俺とトランは整地と魔力の出所を探す。そんでもってお前ら二人は整地と住民の介護とかでどうだ?」
僕達は皆その意見に賛成する。
「アデラさんにしては良い考えですね」
「だろ!」
心做しか少し二人の距離が縮まった様に思える。
これが気のせいじゃない事を願うばかりだ。
「それじゃ始めるか」
こうして僕達は二人とら間反対の方向に別れ調査を開始する。
と言っても殆ど整地で終わってしまっているのだが。
「ある程度瓦礫とかは何とかしたけど、目当ての物は一向に見つからないね」
「こっちも手掛かり無しだ」
顔を見合せ小さく溜め息をつく。
あれからどれ程の時間が経過したのかは分からないが、かなりの経ったように思える。
「なぁトラン~あん時みたいに魔力追ったりとか出来ねぇのかよ」
「あれはあくまでも僕の魔力だから追えただけで、他のだったら無理だよ」
この答えを聞いた男は小さな声で"チッ"と舌打ちをする。
聞ないようにしたつもりなのか知らないけどガッツリ聞こえてるからね。
「一先ず戻るとするか」
「だね」
二人の元へ戻ろうとすると遠くで人影を見る。
カカシのように一人で突っ立っているところを見るとここの住民だろうと考える。
「近場に家なんてあったか?」
「分かんないけど…取り敢えず行ってくるよ」
何かあってからでは遅いと思い一人の女性に近寄る。
「すみませんここに何か用でも?」
女は答えない。
ぼーっと空を見上げたままこちらを見向きもしない。
まるで僕の存在自体が無くなったような気分だ。
「えっと…聞こえてますか?」
色々と言葉を投げ掛けたり、行動を起こしてみるが何一つ反応は返ってこない。
なんだか悲しくなってきた。
「何してんだよ」
「あ、僕は今心が折れそうだよ」
呆れた様子の男は何とかフォローをしようとするが、諦め女性の方を見る。
「あー…あんたの家は何処なんだ?」
するとさっきまで一切反応を示さなかったのにゆっくりと腕を上げ、ある方向に指を指す。
僕の時は何にも応えてくれなかったのに…次は何だか虚しくなってきた。
「あっちか」
落ち込む僕の事なんか気にも留めず女性の指差す方角を見る。
「ほら行くぞ」
「・・・うん」
女性の手を引くアデラの後ろ姿をトボトボとついていく他なかった。
確かにその人が無事ならそれで良いんだけど、良いんだけど…もう考えないようにしよう。
そうして少しばかり歩き一軒の家の前につく。
かなり老朽化が進んだ様子で今にも崩れないか少し心配になるような家だ。
「ここか?」
彼の問いに答えることはなく腕をだらりと下ろし家の中に入って行く。
「何だよアイツ」
「まぁ無事に家に帰せたんだし、一応良しとしておこう」
苛ついた様子の彼を宥め元来た場所を引き返そうとした時ガタンッと何かが倒れたような音が聞こえてきた。
「なんだッ!?」
急いで僕達は家の中に入る。
そこには先程家に入って行った女性がうつ伏せで倒れていた。
「大丈夫ですか!」
直ぐに抱え近くのベッドに横たわらせる。
見た感じどこかに怪我を負ったような様子もなく一先ず安堵した。
「にしても痛がる素振り一つもないとはな」
先程の衝撃で倒れたであろう本手に取った少年は小さな声で耳打ちをしてくる。
確かにその様な素振りも一切無く表情も変わらない。
正直言って失礼かもだが不気味に感じてしまう。
そう思いながらもその場を立ち去ろうとすると
少し震えながらさっきの本を見ている。
何を勝手に人の見てんだコイツ。
「何してんのさっさと行くよ」
「待ってくれ、なぁこれどう思う」
そう言いながら見せてきた本はどうやら日記帳のようだ。
どうやらこの人はここの外から来た人の様で、ここに来てからの日々が書かれている。
内容としてはよくある日常日記と言った感じなのだが、それに綴られる言葉は徐々に恐怖に支配されてゆく。
そして日記帳の最後には書かれていた。
"ここは小さな化物の巣の中だ"
「小さな化物──」
「ちったぁ手掛かりになるかと思ったが、結局よくわかんねぇな」
日記帳を元の位置に戻した僕達は今度こそこの家を出ようとする。
その瞬間、手首がキラリと光るのが見えた。
この女性は腕輪等のアクセサリーは一つもしていなかった筈…なのに何故?その事が気になり彼女の手首を確認する。
「失礼します・・・これは糸?」
手首にはまるでぬいぐるみのように細い糸が縫い付けられている。
何か大きな怪我をして手術でも受けたのだろうか?そんな考えが頭をよぎった時アデラの声で意識が現実に帰る。
「おいコイツ息してないぞ!」
息をしていない?言われてみれば初めてその姿を見た時から呼吸をしている様子もなかった。
これは生きている人間ならば明らかにおかしいことである。
僕はもしやと思い寝転がっている女性の脈を測る。
「やっぱり脈がない」
予感は的中していた。
しかし、何故既に死んでいる人間があの様に身動きを取れるのかその理由が分からない。
この人が人間の姿をした魔物だとでも言うのだろうか?魔女が実在したくらいだそれくらいはいても可笑しくないのかも知れない。
けどもこの線は薄いだろう。
もし本当に魔物ならばあの時に襲われている筈だからだ。
ならばこの人は何者なんだ?いくら考えたところでその答えには辿り着かない。
僕は人として非常識な事をするのを承知の上で手首の糸をほどいてみようと試みる。
「──ッ!!!?」
糸は簡単にほどけそれと同時にボトッと何かが落ちる。
落ちた先に目にしたものは目の前に置かれた女性の手だった。
これだけで恐怖するには充分すぎる光景なのだが、今だけはそれを上回るモノを目にしてしまう。
女性の腕先はまるでマネキンのように鉄の棒が飛び出ていたのだ。




