27話:出来る事を
「復興言ってもなぁ」
渋い顔をした少年は頭を掻きながら辺りを見渡す。
やはり考えることは僕と同じな様だ。
「勿論それがどれだけ大変か何て解っているつもりです。それでもここはわたしにとってとても大切な所なんです」
少女は必死に頭を下げる。
「取り敢えずここの王様…まとめ役とかは居ないの?」
「えっと・・・それが一応わたしなんです」
申し訳なさそうな顔で応える。
「君が!?他に住民とかは居ないの?」
「五人ほど。でも皆歩いたりするだけで」
そんなことって…そう思っていると動く影に目をやる。
のそのそと動くそれは確かに人の形をしていた。
「あれがもしかして住民」
「あぁ!ダメですよ一人で動いちゃ」
そう焦った様子で彼に駆け寄っていく。
緑の少女は手を引きながらその男が出てきたであろう家に帰らせる。
「あの人は何か病気とかなの?もし怪我なら私は治せるけど」
「お気遣いありがとう御座います。でもそう言うのじゃないんです・・」
曇った笑顔を此方に向ける。
病気でも何か怪我をしている訳でもない。
この子はそんな状態の人達をずっと一人で看てきたのだろうか。
これはきっと国の復興の前にこちらをどうにかするべきだと考える。
「ねぇマキナちゃん、国の復興は難しいかもだけどここの人をどうにかは出来るかもしれない」
「本当ですか!?」
先程とは打って変わって瞳に光が戻る。
「どうにかって…どうすんだよ」
「簡単だよ。病気でもないとすれば魔力関連だろうし、そうなればその魔力の出所を叩けば良い」
勿論それ以外の原因があるかも知れない。
だが今は一先ず最も可能性が高いものから潰していくのが確実だろう。
「なるほどな、でもその出所はどう見つけんだよ」
「それは───」
僕は言葉を詰まらせ首をかしげる。
「考えてなかったんだね」
「うっ…ごめん」
アルシアに痛いところを突かれてしまった。
結構思い付きで言ってしまったことを反省する他無い。
「でもそれなら整地とかしながら探すとしようよ」
「整地ですか?」
「そう。復興とまではいかないけれどちょっとは綺麗にしたいからね」
その言葉を聞いた少女は"おぉ!"と目を輝かせる。
「そんならさっさと始めちまうか」
取り敢えず、辺り一面に散らばる瓦礫や木などの回収を行ったりしている内に一日が終わってしまった。
元々遅い時間に始めたとはいえこのペースだとまだまだ時間が掛かりそうだ。
「あ"ーつっかれた!」
あの廃墟のような家に戻りアデラは直ぐにゴロンと横になる。
僕が目覚めた時には真っ暗だったが一応電気は通ってるようだ。
「すみませんお茶菓子も出せず」
「いやいや気にしないで、むしろ住まわせてくれるだけでありがたいよ」
最初ここで起きた時は人体実験でもされるんじゃないかとヒヤヒヤしたがそれは黙っておこう。
「そう言えばマキナちゃんってお母さんとか居ないの?」
「あぁ、マキナで大丈夫ですよ。お母さんですか・・」
母を思う少女はうつむき少しの沈黙が流れる。
何やら言い出しにくい事情があるように思えるし、無理に聞く訳にもいかない。
それを察したアルシアは咄嗟にさっきの言葉を撤回しようとしたが、顔を上げた少女が口を開き遮られる。
「わたしのママはある日何処かに行っちゃったんです」
「何処かに?」
少女は僕の問いに"はい"と小さく頷き深呼吸をする。
そうして僕達に昔の事を話し始めてくれた。
「わたしは元々ここで生まれた訳ではないんです。」
話によると生まれた場所は何処かあまり覚えてはいないが、数年経ってからここに引っ越したようだ。
そうしてしばらくした後に母は忽然とその姿を消したらしい。
「勿論最初は探しました。でも一向に見つからなくてその時ふと思ったんです。ママは何時も誰かを導きなさいって言ってたのを・・だからわたしはそう解釈してここに居ます」
誰かを導きなさい…それは良いと思うがこの子を一人にする意味があるのだろうか?僕にはその動機が全く思い浮かばなかった。
「そうなんだ…色々と一人で頑張ったんだね」
「はい!でも結局何も出来なくてママと住んでたこの家もこの有り様で」
暗い顔をする彼女を励まそうとフォローをするがかえって落ち込ませる結果になってしまった。
何とか次の言葉を探す少女を横目にさっきまで寝っ転がっていた男が口を開く。
「にしてもソイツ酷ぇヤツだな」
「ママがですか」
「だってそうだろ。見知らぬ所に連れてきた挙げ句書き置きすら無しに居なくなるなんてよ」
「ちょっとアデラ!」
正直その気持ちは理解できるがマキナ本人の前で言うべき事ではないだろう。
流石にあの剣の事をまだ怒っている訳ではないだろうしそうなればきっと・・・しかしそれはそれとして何か少し言ってやろうとした時、肩を震わせる少女が大きな声を発する。
「ふざけないでください!!ママの事を何も知らないのにそんなこと言わないで!やっぱり貴方とは気が合いません」
そう言い捨てたマキナは外に向かって走って行ってしまう。
そんな少女の背中を一歩遅れながらも追い掛ける事にした。
・・・・・・・
「はぁはぁ…何処に行っちゃったんだ」
家の周辺を探すが見つからない。
もしかしたらもっと遠くへ言ってしまったのかも知れない、そう考え足を一歩踏み出したその時夜空に靡く緑色の髪を見る。
僕はその場に急いで向かった。
「ここに居たんだ」
身体を丸め涙ぐむ少女に声を掛ける。
「ほっといてください」
一度振り向いた彼女はプイッとまたそっぽを向いてしまう。
だがここまで来て何もせずに帰る訳にはいかない。
そう思い座り込んでいる少女の隣に僕は一言も発すること無く座る。
「・・・どうして隣にいて喋らないんですか」
「喋ってほしかったの?」
「違いますよ!」
少しからかってみると風船のように頬を膨らませて怒ってくる。
軽く謝ると"もうっ"とまた顔を逸らされる。
こうしてお互い夜空を見上げゆったりとした沈黙の時間が流れる。
「アデラの件は本当にごめんね」
「良いですよべつに、わたしも最初はママの事をちょっと恨みましから」
彼女にも母親に対して多少は思う所があったようだ。
まぁあの状況に置かれて思うところが無いと言う方が無理な話か。
「それに欲しいのは貴方からの謝罪じゃなくアイツからです」
「それはごもっともの意見だね」
ぐうの音も出ない。
それを言われてしまったらおしまいだ。
「そういえばあの人はトランさんって…」
「トランで良いよ」
「分かりました。コホンッ、トランはいつあの人と知り合ったんですか?」
あの人と言うとこの流れ的にアデラの事で間違いないだろう。
「アイツとは六歳頃に会ったんだ」
「六歳!?結構前なんですね」
「そうそうあの頃から何にも変わってなくってさ」
しばらくあのデリカシー無し男に関しての事で会話を弾ませる。
思った以上にイメージ等が同じで笑い合う。
「そんなアイツだけど僕達の中じゃ一番誰かを想える奴なんだよ」
「ほんとですかそれ?」
疑いの眼差しを向けてくる。
実際問題、信じて貰えないことは当然だろう。
「本当だよ。アイツには秘密にして欲しいんだけどアデラの奴も母親がいないんだよ」
「あの人も──」
僕は昔彼から聞いた話をする。
それは物心ついた時から自分の母を見たことがないこと、父に聞いても何も答えてくれなかった事。
けど今となってはあまり気にしていないとの事だ。
「強いんですね彼。それともお父さんがいたからかな?」
「それもあると思う。でもそんなアイツだからあの時あんな事言ったんじゃないかな」
納得いってなさそうに首を傾げる。
「簡単な話だよ。アイツ自身母親がいないからこそ子供を置いていった事実が許せなかったんじゃないかな」
話を聞いた少女は"なるほど"と小さく頷く。
「まぁ最初からいなかったりとか、状況は色々違うからそれで納得しろ何て言わないけどね」
「もう良いですよ。彼がわたしの事を想ってくれて言ってくれたのは充分に分かりましたから」
まるで天ノ川を創るように満足した様子で立ち上がるキラキラと輝く髪を靡かせながら打って変わって満足そうな表情に変わる。
その顔を見て一先ず安心する。
「それじゃ冷えてきたし戻ろうか」
「はい!」
話を終え僕達は家の中へと戻る。
そこには正座をさせられている少年とその姿を厳しく見据える少女の姿が見えた。
「あれ、二人とも起きてたんだ」
「あ、お帰り」
先程の厳しい目からにこやかな表情に一瞬にして変わる。
その切り替えの速さから若干の恐怖を覚える。
「ほら」
そう正座をしている少年は小突かれると静かに立ち上がり、隣の少女の前まで足を運ぶ。
「さっきは何も知らねぇでお前の母親に酷い事言って悪かった」
そう頭を下げる少年を前にし、少し狼狽えながらも直ぐに体制を立て直す。
「わ、分かれば良いですよ!」
すんなり許すとは言わないんだね。
この子も意地っ張りと言うか不器用と言うか。
「本当か!本当に許してくれるのか!?」
「──ッそうですよ!」
その言葉を聞いた男はぱぁっと笑顔になり、少女の手を握り優しく微笑む。
「ありがとうな」
「はいはい、全く調子狂います」
「マキナちゃーん。一緒に寝よ!」
そんなアルシアの言葉を聞いた少女は少年の手を振りほどきベッドに座っている少女の元へと駆け寄る。
振りほどかれ行き場を無くした手をポケットにしまい溜め息をつく。
「仲直り出来て良かったね」
「あぁ。アルシアの奴にこっぴどく叱られたしな」
だろうね。
あの状況を見てそう思わないヤツはいないだろう。
「何はともあれ一件落着。僕達も寝るとしよう」
「だな…にしても何処で寝りゃ」
「二人は向こうのベッドを使ってください」
僕達がキョロキョロと辺りを見渡していると、少女は一つのベッドを指差す。
「「嘘でしょ/だろ」」
目の前には立った一つのベッド。
これを男二人で入って寝るにはあまりにも小さい。
てか一緒に入りたくない。
僕達は顔を見合せ頷く。
考えることはどうやら同じのようだ。
「「じゃんけんぽん!!」」
こうして勝負に敗北した僕は床で寝ることになったのだった。




