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26話:頼み事

 あの後一頻り盛り上がり、皆眠りに就く。

 翌日、僕達三人は別の国を目指すことにした事を話したら、丁度ミナツ達も旅立とうとしていたらしく一緒に家を出る。


「お前らも旅をするとは思ってなかったな」

「まぁ思い出したと言っても、殆ど家の中に居たのは変わらないし。何よりもアイツが気になるからね」

記憶の魔女(メリヌ・メイガ)──」


 "記憶の魔女(メリヌ・メイガ)"あの時僕達が対峙した魔女だ。

 正直に言ってしまえばもう戦いたくないと思う程強く、恐かった。


「それよりも三人にはちゃんとお礼を言ってなかったね。私を助けてくれて本当にありがとう。」


 ネフィは深々と頭を下げる。

 ここは素直に受け取っておこう。


「どういたしまして!」


 僕達は顔を見合わせ少し笑みを溢す。


「お前ら昨日から妙に仲良いよな」


 何だかニヤニヤと僕達を見てくるヤツが居る。

 その何かを期待するかのような眼差しをするのを止めて欲しい。


「お、恩人とはいえネフィは渡さないから!!」

「何もないってば!!」


 友人を守らんと抱きつき威嚇してくるミナツに全力で否定する。


「あら、あんなにも熱く愛し合っていたのに?」

「なっ…トラン!?」

「だから誤解だよ!!!」


 ネフィが少し邪悪な笑みを見せながら頬に手を添える。

 恐らく言っているのは昨晩皆が寝た後も部屋の本について語り合っていたことだろう。

 てかそれ以外していない。


「やっぱ焦るアイツ見んのおもしれぇ」

「アデラって色々と酷いよね」


 ケラケラと笑う男にため息混じりにツッコム姿を気にも止めず僕は二人のエルフに必死に弁解していた。


「ほら、もう行かないと日が暮れちゃうよー」

「あ、ごめん直ぐ行くよ」


 アルシアが制止してくれて良かった。

 さもなくばミナツに殺されてたかも知れない。


「それじゃあ、またいつか」

「ええ、また会いましょう」


 僕達は軽い別れの挨拶を終え別の道を歩む。

 二人とは色々と事が済んだ後またこうして話したいものだ。


◆◆◆◆◆◆


「疲れた」


 二人と別れ、どれ程の時間が経っただろう。

 あまり時間は経っていないように思えるが、この男は何度も同じ事を口にする。


「またそれ?第一アデラが疲れたのは変に動物追っかけてたせいでしょ」

「だって食料は必要だろ!」


 そう言いながらさっき獲ったウサギを見せてくる。

 正直複雑な気分になるから止めて欲しい。


「はいはい、食料が要る時は次から私が獲ってくるから喧嘩しないで」


 僕達は小さく頷くしかなかった。

 何だか最近アルシアが僕達の扱い方を分かってきていている様に感じる。


「そういや目的地とかあんのかよ?」

「あー…」

「お前考えてなかったな」


 図星だ。

 全く考えていなかった訳ではないのだが・・近くの街とか聞くのを完全に忘れていた。


「行く当て無しかよ」

「ごめん!」

「ならちょっと休憩するのもありかもね。ほらこの辺に川とかあるし」


 アルシアは"ほら"と指を指す。

 そこには流れる一本の川があった。

 僕達は一先ずそこで休息を得ることにした。


「あ~生き返る」

「だねぇ」


 二人の男女は川の水を飲み一息つく。

 僕はそんな二人を横目にさっきアデラが獲ってきたウサギを捌いている。

 前世で本で見た位の知識だったのだが、案外何とかなりそうでホッとする。

 自分の手先が器用で本当に良かった。

 そうして三人での食事を終えゆったりとした時間が流れていると、唐突にアルシアが目を細める。


「どうしたの?」

「いや、あれは木が揺れてるだけなのかなって」


 木?彼女の凝視する方向に目を向けるが確かに緑色の何かが縦に揺れている。


「木ってあんな激しく揺れるっけ?しかも縦に」

「「いいや。見たことない」」


 二人は息ぴったりに全く同じ事を口にする。

 それよりもあの木?は緑の所が飛んでいってしまうのではないかと思う程、猛烈に縦に揺れている。

 と言うか何だかさっきよりも鮮明に見えている様な気がする。

 僕は思わず目を擦りじっと揺れる緑を眺める。

 そうすると明らかにさっきより大きく、そして鮮明にその姿がくっきりと見えてきている。


「あの緑色の近づいてきてるぞ!!」

「えぇ!!?」


 得たいの知れない緑が此方に近づいてきていると言う事実に、何だか恐怖を感じ僕達は直ぐにこの場を離れることにした。

 全速力で走りヘトヘトになった僕達は、さっきの川から数キロメートル離れたであろう場所に座り込む。

 後ろを振り向くとさっきの異様な緑は無く胸を撫で下ろす。


「疲れたぁ」

「何とか撒けたっぽいな」


 二人は息を整えるとゆっくりと立ち上がる。

 対して僕は打ち上げられた魚の様にその場でピクピクとしながら倒れ込んでいた。


「大丈夫?トラン」

「お前ホント体力ねぇよな」


 それは認めるが、この男からも少しは心配の言葉をかけて欲しい。

 てかあんだけノンストップで走ってそれで済むなんて、あれだけ疲れたって言っていたお前は何処に行ったのやら。

 僕は震える脚を支えながら何とか立ち上がる。


「お、生きてた」

「勝手に殺すな」


 さっきまでのんびりした時間を返して欲しい。


「てか逃げずに戦えば良かったな」

「そうもいかないでしょ。魔女の一件もあるんだしあれがそうじゃないとも言い切れないでしょ?それにアデラ剣無いし」


 流石アルシア言いたいこと全部言ってくれた。

 だけどあの緑を一発殴りたいのも事実だ。


「あそっか、まぁ何とかなったんだし取り敢えず歩こうぜ」

「嘘でしょ・・・」


 何だこの鬼畜野郎。

 僕の脚は生まれたての小鹿同然だと言うのに本当に殺す気なのだろうか。


「良かったら肩貸すよ~」

「ありがとう助かるよ」


 何て良い子なのだろう。

 どっかの幼馴染みとは違うなと顔を上げると二人が顔を強張らせながら僕を見ていた。

 あれ?アルシアが肩を貸してくれている訳ではないのか?ならば今僕の右に居るのは。

 恐る恐る視線を右手を持つ方に向ける。

 そこには逃げ切った筈の得たいの知れない緑が居たのだった。


「さっきぶり~」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」


 僕は驚きと疲労により気絶してしまった。

 自分の体力の無さが本当に怨めしく思う今日この頃だった。



「うーん…緑が笑って──」


 その時ハッと目を覚ます。

 キョロキョロと辺りを見渡すが皆、そしてあの緑さえも居ない。

 さっき変な寝言を言っていた自覚はあるので、誰にも聞かれていないようで良かった。

 それにしても知らない場所だ。

 家…と言うよりも廃墟と言った方が適切な場所だろう。


「おーい、アデラー!!アルシアー!」


 聞こえてくるのは反響した自分の声のみ。

 僕が倒れた間に何があったのだろう。

 大方気絶した僕をあの緑がここに連れてきたのだろうが、だとすればあの二人はどうなったのだろう?アデラは剣こそ無いが、多分強化魔術と素手で何とかするだろうからあまり心配はいらない様に思える。


 アルシアは獣人ということもあり元々戦闘向きだ。

 そんな二人が簡単にやられるとは考えにくいのだが…それも相手が魔女ならば話しは変わってくるか。

 必ずしも魔女がアイツだけとは限らない。

 だがもしあの緑が魔女ならば僕を連れ去る動機はなんだ?同じ魔女ならメリヌと関係を持っていても不思議ではないが、もしやこの前の仕返しとしてとんでもない事をしようとしているのではないか。

 僕はそんな嫌な想像をしてしまい鳥肌が立つ。

 何はともあれあの二人が近くに居ないとも言い切れないし、あれが魔女だとも言い切れない。

 一先ず明かりのある方へ歩を進めよう。


カツン…カツン…


 自分の足音が反響を繰り返す。

 そこまで長くはない筈なのに不安からかとても長く感じる。


「ここが出口かな?」


 扉は無いが恐らく元々あったのだろうと感じさせる場所に急ぐ。

 そう遠くない場所から話し声が聞こえてくる。

 僕は眩い光に目を慣らしながら廃墟を抜けた。


「こんな鉄の棒が剣な訳あるか!」

「何さそれで壁が斬れたんだから立派な剣でしょうが!!」

「落ち着いての二人とも…」


 目の前には友人二人と緑の少女が何やら言い合いをしているようだ。


「何してんの」


 僕は状況をいまいち呑み込めずポロリと口から無意識に言葉が出ていた。


「あ、おはようトラッ──」

「なぁトラン!これが剣な訳がねぇよな!?」


 アルシアの言葉をさえぎりながらビュンッと僕の目の前に鉄の棒を近づける。

 先におはようくらいは言って欲しいものだ。


「違います!それで物が斬れたんだからちゃんと剣なんですよトランさん!!」


 アデラに続くように緑の髪を揺らす少女が僕の側に駆け寄る。


「あれは斬れた訳じゃねぇって!」

「何で!真っ二つだったじゃん!!」


 僕の事なんかまるで見えていないかの様に言い合いを続ける。


「あの!…取り敢えず君は誰?」

「「・・・あ」」


 あ、じゃないよ。

 この二人は忘れてたと言わんばかりに口を開いた。

 僕からすれば絶対紹介する気何て最初から無かったように見えたけどね。


◆◆◆◆◆◆


「いや~ごめんなさい!ちょっと諸事情で自己紹介がすっかり」

「まぁそれは良いけど君は誰なの?」

「わたしはマキナです!以後よろしくお願いします!!」


 目の前の少女は大きな声で、そして大きくお辞儀をする。

 物凄い勢いで呆気にとられてしまった。


「そ、そう。てか僕の名前知ってるみたいだったけど」

「あぁ、それはあの男に聞きました」

「あん?」


 そう言いながらアデラを指差す。

 アデラとマキナの間にバチバチと火花が散る。

 個人情報…まぁこの際それは良しとしよう。

 てかあの男って僕が寝ている間に何があったんだ・・・仲が悪いのだけは直ぐに見てとれたけども。

 一旦それは置いておくとしよう。


「そう言えば有耶無耶になってたけど頼み事って何なの?」

「そうだそれをさっさと言え」


 頼み事?僕が眠っている間にそんなことを話していたのか。

 この際また喧嘩を売るような態度のアデラは放っておこう。


「誰のせいで言えなかったとッ──まぁ良いです。頼み事って言うのはこの国の復興の手助けして欲しいんです」


 先程と打って変わって真剣な眼差しに変わる。

 国の復興…と言ってもスラム街を更に酷くしたようなここをか・・どう復興すれば良いんだこれ。

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