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転生者の青史~その者は青き異界で史実となる~  作者: 結月
第二章:エルリア王国編
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25話:生還

「おい……ラン!!」


 声が聞こえる。

 聞き馴染みのあるあのデカイ声だ。


「ンってば!!……起きろっ!!」

「ぐふっ!?」


 腹に重い一撃を食らい強制的に意識を取り戻す。


「あ、起きた」

「「起きたじゃないよ!!」」


 僕のお腹にチョップを食らわしたであろう男に怒鳴る。

 アルシアもまた同じ様に彼に怒鳴っていた。


「悪かったってでも起きねぇよりましだろ?」

「だからって酷いだろ!」

「そうだよ!トラン結構大変な状態だったんだからね!」


 全くこの男はどうしてこんなにも乱暴なんだ。

 と言うか周りを見渡した感じミナツの家のようだが…肝心のミナツは何処に居るのだろう。

 キョロキョロしている僕を見て少年は何を捜しているのか察する。


「ミナツのヤツならネフィの所に居るぜ」


 ネフィの所となるとあの地下室か。

 あれだけ悲惨な出来事があったのだから塞ぎ込んでいたとしても不思議じゃない。


「言ってももう二日も出てこねぇけどな」


 二日!?あれからそんなに…と言うか僕は丸二日寝っぱなしだったのか。

 でも最初はその間泊めてくれていたミナツや、看病をしてくれていた二人に感謝するほかあるまい。

 二人は少し照れくさそうにする。


「それよりも、お前あれから何か変わったことはないか?頭掴まれたって聞いたけど」

「変わったこと……」


 二人は不安そうな顔で僕をじっと見つめる。

 僕の記憶がどこか欠けたりしていることは無いのだが、むしろその逆の事が起きている。

 あの時目にしたものを思い出す。


「"記憶の魔女(メイガ・メイガ)"」

「メリヌ?メイガ?何だそりゃ」

「あの時見たものだよ小さな女の子と大人の女性を見たんだ。その時の女の子の名前が"記憶の魔女(メリヌ・メイガ)"だったんだ」


 一つずつ思い出す。

 魔女の幼少時代のような女の子、その子の前にいた女性、"記憶の魔女(メリヌ・メイガ)"と言う名前。

 名前を知れたのは良かったがそれ以外は寧ろ謎が増えたと言っても良い。

 て言うか何か妙な違和感がある。

 その違和感の源であるアルシアをじっと見つめる。


「な、何?どこかおかしいかな?」


 頬を少し赤らめる。

 何時ものアルシアに見えるが、一体どこが?右腕で頬を髪を弄る姿を見て確信する。


「そうだ腕!あの時噛まれてたじゃないか!!」

「あぁ~、沢山美味しいもの食べてぐっすり寝たら治ったよっ」


 嘘ぉ…結構深く噛まれてたような気もするんだけど、そんなに簡単に完治するものなのか。

 いや早く治るのは良いことなんだが、流石獣人と言うべきか。


「そうだ、なぁ俺の剣知らねぇ?」

「「あ、」」

「何だよその反応」


 そうだ、アデラの剣粉々になったんだった…それにこの反応アルシアも伝えていないな。

 まぁ元々弁償するのは前提で動いてたしきちんと謝ろう。


「あの~壊しちゃった」

「え?」

「緊急事態だったからって言うか…その命の危機だったからって言うか」


 ヤバい、謝ろうと思ってるのに真っ直ぐ言葉が出ない。

 ぶっちゃけると怒られるのが怖い!!!あの剣結構大事そうだったし!恐る恐る顔を見ると明らかにしょんぼりした見たことの無い顔になっていた。


「そうか命にゃ代えられないしな、そっかぁ・・・なら俺これから素手?」


 自分の両手をじっと見つめる。


「ごめん!本当にごめん!!ちゃんと弁償しますからぁ!」


 僕のせいなんだけど、あまりにも可哀想に見えて直ぐに謝罪の言葉が飛び出る。


「まぁちゃんと新しいのくれんなら何でも良いぜ。今回に関しちゃ生きるか死ぬかだったんだしな」


 アデラは自分を納得させるように言う。

 弁償すると言っても近場の武器屋なんて知らないから、ちょっと遅れるかも知れないと言うのは隠しておこう。


────────◆◆◆◆◆◆────────


 そんな会話を三人がしている頃ミナツは寝ているネフィの側で蹲っていた。

 三人の楽しげな会話はこの二人には聞こえていない。

 そんな静かな空間で一人自分の哀れさ、無力さを、そして何より自分の愚かさを呪い懺悔していた。


「アタシ…迷惑かける事しか出来なかったな」


 肩を掴む両手の力が強くなる。

 あの場で恐怖や焦りが一気にきて、まともな判断が出来なかった。

 結果的にあれだけ親身になってくれた人達を危険な目に遭わせ、言い出しっぺのアタシはただのお荷物でしかなかった。


「謝らないとな──」


 でもなんて?謝ればすむような事ではないのはアタシが一番よく解っているつもりだ。

 きっと許される事はない。

 それに合わせる顔ももう…そう考え込んでいると後ろから布が擦れる音がする。

 彼女が起きたのだろう。


「あ、おはようネフィ」

「おはよーミナツちゃん」


 少しの沈黙が流れる。


「あのね、アタシ何にも出来なかった。ネフィを戻すことも・・・」

「ミナツちゃんは昔っから一人で行って、一人で後悔するもんね。悪い癖だよ」


 そうだ、アタシは昔から何も変われていない。

 昔から・・昔から?今何て。


「皆に感謝だねっ私は勿論…ミナツちゃんにも」


 ここ最近のネフィでは絶対に口にしなかった昔何て言葉が、この一つの言葉がアタシをとても安心させ感情が一気に溢れ出す言葉だった。


「ネ"フ"ィ"…!」


 まともに言葉がです、その場で泣き叫ぶしか出来ないアタシを優しく抱きしめてくれる。


────────◆◆◆◆◆◆────────


「ねぇ、本当にこれ入っていいの?」

「それしかねぇだろ」


 地下室の扉の前で男女がこそこそと会話をしている。

 少し開いた扉の奥からは大きな泣き声が聞こえてきている。

 流石に今入るのは野暮と言うものだろう。


「やっぱ一回戻ろうよ」

「んなこと言っても、アイツこの二日間飯とか食ってねぇだろうし」


 そうか僕が寝ている間ずっとこの部屋にこもりっきりだったのか。

 確かにあの部屋に食料とか無さそうな感じだったけど。

 それでも今は…などと頭を悩ませていると奥からは声が聞こえる。


「入っていーよー」


 聞いたことのある声ではある筈なのに違和感を感じる。

 僕達三人はその違和感から顔を見合わせる。


「まぁ良いや。んじゃ入るぜ」

「あっ、ちょっと!」


 何食わぬ顔で扉を全開させやがった。


「み"、皆っ!?」


 さっきまで泣いていたのはミナツなのだろう。

 その証拠に目が少し腫れていた。


「ほら、ちゃんと言うんでしょ?」


 泣きじゃくっていた少女をベッドから下ろし、僕らに向かい合わせる。


「三人とも、本当にごめんなさい!アタシ何も出来なくってっ!それで危険な目に合わせちゃって。それで‥それで…」


 深々と頭を下げながら自分の非を連ねていく。

 そんな彼女はまた濁点がつくような言葉になっていく。


「頭上げろ、つか今更怒ってなんかねぇよ」

「今更って、アタシは!」

「解ってんならそれで充分だ」

「一つ怒るとこがあるとすれば、許されない事を前提で謝っているってことかな」


 アルシアは心を読んだかのように言う。

 実際これを言われた後のミナツの反応を見るに本当に図星なのだろう。


「でも…」

「それなら僕達の行動に意味はあった、それを見せてよ。それなら簡単でしょ?」


 僕はベッドに座る少女に目を移す。

 あの返事の仕方はこれまでのネフィでは考えられない。

 それにあのミナツの様子から見て恐らくは…そう考えていると、小さく頷いた少女はゆったりとベッドから立ち上がる。


「昔私は魔女に頭を掴まれ記憶を奪われていた。後はちゃんと皆の名前を言える…これじゃ足りないかな?」


 昔か…この単語が出るだけで充分とだろう。

 と言うか、何か口調から変わってるような気もするんだけど。


「兎に角、これで暗い話も終わりだ!こっからは何時も通りいこうぜ」


 掌をパンッと叩きこの話に一区切りつける。


「やっぱり皆に感謝しなきゃね」

「うん。ごめんだけじゃダメだもんね」


 柔らかい表情でミナツは三人に感謝の言葉を述べに行く。

 楽し気に話す皆の姿を見ながら"やっぱり騒がしい方が好きだな"と思い耽るネフィだった。


「よし!今日はネフィが戻った記念と、トランが起きた記念だー!!アタシが腕によりをかけた料理を振る舞ったる!」


 階段を上がりながら腕をまくり上げる。

 さっきまでの悄らしさがまるで嘘のようだ。


「おー!良いじゃねぇか。俺も何か手伝うぜ!」

「私もーー!」


 三人は早速料理の準備を始めるようで、駆け足で階段を上がっていく。


「ネフィのは分かるけど僕のは必要かな?」

「必要よ。祝い事は多い方が楽しいからね」


 此方に笑顔を向けた少女も三人に続くよう上がっていく。

 あのふんわりとした雰囲気からこうも変わるとは予想はしていなかった。

 そう思いながら僕も皆に続く。

 色々とあったけれど、正に文字通りな終わり良ければ全て良し、な結末となったことに僕は笑みを隠せずにいた。

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