24話:生きる術
《"部位治療"》
ミナツの傷から血が止まり、少しずつ塞がり始める。
その様子を横目に僕は魔術を発動させながら一気に走り出す。
《"光の散弾銃"!!》
「またそれなの?意味無いって学ばなかったのかな」
魔女は体にいくつもの光弾を受けながら此方に向かって歩いてくる。
立ち込める煙により僕の正確な位置は分かっていない様子だ。
効かない事なんて百も承知。
少しで良い、アイツが僕の所にくる時間を稼げればそれで。
そろそろ一つ目の目標が完遂する。
「おや、お得意の乱れ撃ちは終わりかい?」
魔術が止まった事を察した女は僕に問う。
そんな時薄れゆく煙の中から何かが飛んでいくのを見る。
「あれは、なるほどね」
「第一目標…完遂!!」
僕は彼女達と同じ様にアデラの身体をアルシアの元に投げ飛ばす。
着地する際には"飛び上がる体"により落下の衝撃を和らげれるようにしてある。
魔女は飛んでいく少年を貫こうと鞭を伸ばすがそうはさせない。
《"燃え盛る短剣"》
少し綻んでいる場所を狙い定め骨のような鞭を斬り落とし、無事にアデラは治療に専念している少女の元に着地する。
「そんなっ!!!?」
自慢の武器が破壊された女は酷く驚いた様子でいる。
予想が当たった、と言うよりは賭けに勝てた。
あの時パラパラと何かが落ちる音あれはヤツの武器の破損した部分が落ちる音だったのだ。
「貴女、周りをあんまり気にしないでしょ」
「何ですって?」
「気にしているなら武器の破損くらい気づく筈だ。でもその驚き様…さては自分がしたいこと以外考えてないね?」
少し感情を逆撫でするように言葉を投げる。
このまま乗ってきてくれれば良いんだけど。
「随分と口が達者ね貴方…良いわ初めに殺すのは貴方にしてあげるッ!!」
鞭を再生させながら一気に突っ込んでくる。
挑発に乗ってきた!後は避けるタイミングが一秒でもずれたら即座に死ぬ。
再生した鞭が僕の顔を目掛けて伸びてくる。
今だ!!!
《"黒の囲い"!!》
防御を発動するがそんなのは通用しない。
バリンッと穴が空き、止まることなく貫こうとしてくる。
そんな鞭を見た僕は手に持っていた一本の剣をその場に投げる。
《"幻影の映し"》
魔女は宙に浮く剣を何度も、何度も、その原型が無くなるまで攻撃を続ける。
何故ならその剣は今僕の姿に見えているのだから。
その隙に出来るだけ魔女から遠ざかる。
アデラには今度ちゃんと弁償しないとな。
後はこの場から何とか逃げ去る事が出来れば。
その時メキャッと嫌な音が下から鳴った。
「え?」
僕はその場に倒れる。
何だ?どうして足が動かない?なん…で…ゆっくりと自分の足を確認する。
そこにはバラバラの木屑と、通常じゃ絶対に曲がることの無い方向に曲がった僕の片足がそこにはあった。
「あっ…あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ッ!!!」
足が折られた事を知ったとたんに急激な痛みが襲いかかってくる。
ただ其処で悶え苦しむしか出来ない中何とか魔女に視線を向ける。
そこにはうつ向きながら木に触れ、ニヤリと僕を見下している絶対的な勝者がいた。
僕の作戦は失敗していた。
コイツは挑発に乗ってきたんじゃない、あくまでそう見せていただけだったんだ。
「トランッ!!」
僕の悲痛な叫びを聞いたアルシアが僕の所に向かおうとするが遅かった。
僕が頭を掴まれ持ち上げられている光景を目にする。
「動いても良いけど…その瞬間にこの子は終わりよ」
ギラリとした眼光でアルシアを睨む。
青白い顔をしたままその場に座り込むしかなかった。
この時ミナツの容態が回復していたのが不幸中の幸いだろう。
「それじゃ、これだけ手こずらされちゃったお礼をしてあげるわね」
頭を掴む力が強くなる。
必死に体を動かし抵抗するがその行動に意味なんてものはない。
意味を持たせることが出来ない。
「御礼は頂いていくわね」
瞳が光る。
ネフィと同じことを僕にもするつもりだろう。
もう…抵抗する気力は微塵も残っていなかった。
指の隙間から横を見る。
そこには自分の無力さを呪い涙を流している少女の姿があった。
あぁ…皆の事を任せっきりにして悪いことをしてしまったな。
「おやすみなさい」
記憶を除き見る。
全てを奪おうとした女が目にしたのは目の前に居る姿とは別の男。
しかしその中身は同じであり意味が分からず思考が停止する。
それだけじゃない、見た目からの年齢とは思えないほどの膨大な記憶量、見たことの無い世界が広がり高速で頭を駆け巡る。
しかしそれはトランもまた同じことであった。
見た光景は違えど目の前の存在についての事であるのは直ぐに理解出来た。
トランは恐らく同一人物であろう少女を目にする。
その少女の前には見たことの無い女性が一人。
「貴女は人より先を行くもの…魔女だよ」
知らない女性は頭を撫でながら優しく語る。
「魔女?それが私の名前なの?」
「魔女はあくまで種族名、貴女はそうね…メリヌ、"記憶の魔女"と言うのはどう?魔女をちょっとカッコよく言ってみた」
その名に少女は瞳を輝かせるピョンピョンと跳び跳ねている。
自分に名が与えられたのが余程嬉しかったのだろうか?目の間の光景が霞む。
意識が現実に戻ると、先程の光景とは違い僕を掴んだまま虚ろな瞳で棒立ちしている魔女を前にする。
意識が無いように見えるがそれでも力は緩まない。
その時だった女の瞳に光が戻ろうとした時、遠くから一本の矢が飛んでくる。
「───ッ今のは」
意識を取り戻した瞬間につぷりと女の右目に矢が刺さる。
その痛みがくるのは一瞬だった。
「ぎっ‥がゔぅ"ぅ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!!」
痛みからか、驚きからなのか僕を放り投げた女は酷く苦しみながら矢を抜き捨てる。
投げ捨てられた矢を見ても特に特殊な魔法がかかっている訳でもない。
なのに何故ダメージを与えられたんだ?嫌、今は考えるのは後だ。
せっかくのこのチャンス直ぐにこの場を離れなければ。
「がぁぅ‥私の目がぁ大切な目が、目がぁぁ!」
悶え苦しむ魔女を横目にアルシアの元に何とか辿り着こうと地面を這う。
放心状態である少女に何とか気付いてくれと心から思う。
「目…治さなきゃわだじのメ"」
ボソボソと何かを呟きながら歩き出す。
振り返る時間など無い。
此方に近付いているのかもと恐怖心を抱きながら必死に動く。
だが足音がどんどんと遠くなり、草村に入っていくのが音で感じ取れた。
「え?」
思わず振り返ってしまう。
また罠かもと少し焦ったがそこにはさっきまで苦しんでいた女の姿は何処にもなかった。
あるとすればあの時噴き出した血液だけだ。
「助かったのか…?」
緊張が解けたのか意識を手放す。
目の前が真っ暗になり、最後にはドサッと自分がその場に倒れた音が聞こえた。




