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転生者の青史~その者は青き異界で史実となる~  作者: 結月
第二章:エルリア王国編
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23話:夜の蝶

紺藍(こんあい)色の髪を(なび)かせながら黒いドレスを見に(まと)う女性は不適に微笑んでいる。

 間違いないアイツが魔女だ。

 しかしそれよりも僕は大きな違和感を感じる。

 威圧感だとでも言うのか?

 身体を強張らせながら固唾を飲んだ僕達を通り抜けミナツが前に出る。

 何時でも戦闘に以降出来るようにしようにも、あからさまなのはいけない。

 あくまでも僕達に敵対の意思は無いと思わせなければならないのだ。


「あっあの!アタシの事を覚えてますか?」


 震えた声で問い掛ける。

 今にも逃げ出したい気持ちを押し殺し、震える足に力を入れ額に汗が流れる。


「貴女は……」


 頭を捻らせながら、ゆっくりと瞳を動かし全身を舐めるかのように見る。

 実際に経過した時間で言えばそこまで長くは無いだろう、しかしミナツにとってはとても息苦しく、長い時間だった。

 ハッと思い出したかのように女が指を立てる。


「貴女あの時の子ね!」

「覚えていてくれたんですか」

「覚えてる!覚えてる!あの子、貴女のこと随分と大切にしてたもの」


 沈黙が訪れる。

 聞き取れていなかっただけでネフィはミナツの事を話していたのだろうか?


「アタシの事について何か言っていたんですか?」

「言ってたって言うより…見たの」

「え?」


 僕は耳を疑った。

 "見た"…あの女は確かにそう言ったが、"聞いた"の言い間違えではないのかと思うがあの様子からしてそうではないようだ。


「子供なのにあの精神力の強さにはちょっと驚かされたもの」

「あっあの!あの子に何かしたのならどうかネフィを元のあの子に戻して下れませんか!」


 ミナツの願いが響き渡る。

 その光景に対し、目の前の女は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。


「ふっ、あははははははははっ」


 女は腹を抱えて嗤う。

 その女に少女はとてもショックを受けた顔をしており、あの明るさは欠片も感じられなかった。


「テメェ!」

「待って、アデラ」


 今にも飛びかかりそうな男を止める。

 正直その気持ちは同じだ。

 僕だってあの女に一言文句を…いやそれだけじゃ収まらない程の気持ちが煮えたぎっている。


「ごめん、ごめんっあまりにも予想道りすぎる事を言われちゃったもんだから」


 女は涙を拭う。


「それで戻して下さいだっけ?答えは勿論いいえ。だってあの子は自分で魔女じゃないって言ったんだから」

「その魔女って言うのは?」


 勇気を踏みにじられた少女を下げ、僕が問い掛ける。


「知らなくて大丈夫だよ、全てを忘れさせてあげるから」


 僕の頭に女の手が触れそうになる。

 見えなかった…女との距離は四十メートル程あったはずだ、それにあまり深くはないとはいえ音もなく此処まで距離を詰めるなんて…‥距離を‥


「触るなァ!!!」


 僕の鼻先を鋭い爪が掠めそうになる。

 女は髪を(なび)かせながらその場を翔び下がり横からの攻撃を避ける。

 爪の先を見ると鋭い剣幕でゆったりと着地する女を睨み付けている獣の少女が居た。

 アルシアがこんな目を向けるなんて思ってもいなかった。


「怖いなぁ‥そんなに睨むことないでしょう?魔女の子さん」


 魔女の子?コイツはアルシアの事を知って、いやそれよりもあの違和感の正体に気づいた。

 考えてみれば、あんなにも距離が離れていてアイツは叫ぶ事など一切していないにも関わらず、鮮明に声が聞こえてきていた。

 対してこっちは声を届かせようと必死だった。

 アイツは何か魔法を使っていたのか?しかし目の前に現れてから使うような素振りは一切見せなかった。


 ならば使ったとするならば僕達と会う前だろう。

 しかし常時発動何てしていれば、直ぐに魔力は底をつき動けなくなってしまう…それ程まで魔力が多いと言うのか?相手が本当に魔女だと言うのならあり得なくはない。


「やっぱテメェあん時の婆ぁさんだろ?アルシアを殺せとかぬかしてきた」


 そう言えばあの時アデラは老婆が黒髪ロングに、と言っていた。

 しかし姿を全くの別人に変える魔法なんてのは聞いたことがない。


「おや、君はもっと早く気づくと思っていたよ」

「色々あって反応が遅れちまっただけだ」

「そうかい…まぁその気づきに遅いも速いも無いけどねぇ」


 女は近くにある木に触れる。

 その瞬間ゴキャゴキャと嫌な音を立てながら牙を生やす竜のような触手に姿を変える。

 ゆらりと僕達の方に手を伸ばすととんでもない速度で触手が此方に突撃してきた。


「ミナツ!!」


 放心状態のミナツを急いでアデラに向かい突き飛ばす。


バキャ!!


 ミナツがもと居た所の木が一瞬にして抉り取られ、大きな音を立てて倒れる。

 人間が食らえば半身いやそれ以上余裕で持っていかれているだろう。


「こ、これ…」

「バカ!今は動かねぇと死ぬぞ!!」


 ショックと恐怖で足が竦みまともに動かない少女をアデラは何とか立ち上がらせる。

 ペキペキと木の破片を噛み砕いている竜が此方を睨む。

 その頭に瞳等は無いのだがとんでもない威圧感と異物感だ。


「──ッ!?」


 勢いよく飛び掛かってくる頭をアルシアは切り裂き、バラバラと竜は崩れていく。


「あら、やられちゃった。なら──」


 女はキョロキョロと辺りを見渡す。

 そこに居た一匹のウサギの頭を掴む。

 女の瞳は怪しく銀色に輝き、ウサギは鳴き声を上げながら悶え苦しむ。

 ぐったりとしたウサギを解放しドサリとその場に落ちる。

 何だ…ただ殺した訳じゃないと思うけど。


「行ってらっしゃい」


 そうウサギに耳打ちをした瞬間一気にアルシアの方へと飛んでくる。


《"|燃え盛る短剣"(フローガー・スティレント)》


 ウサギの首を切り落とし、飛び掛かってくる勢いのまま近くに落ちる。

 そのウサギの顔を見るとその目は黒に近い紫色だった。

 あの時と一緒だ。

 初めてアデラと戦ったあの魔獣と。


「アイツだ!ここ十年で活発になった魔獣を造り出した元凶だ!!」

「正解、お見事だよ」


 女は焦りなどはしない、むしろ喜んでいるように見えた。


「はぁぁぁぁっ!!」


 鋭い爪を突き立てながら一気に距離を詰める。

 しかし近くの木から二本の触手を造り、アルシアの攻撃を止める。


「くっ!!」

「貴女は魔法を使えるでしょうに使わないの?…それとも使えない理由があるのかしら」


 そう言いながら黒い霧のようなものを纏い顔を変える。


ズズズズ……


「アルシアさんっ」


 その顔は幼い頃話したことがあるメイドと同じ顔だった。

 その顔を見て右手にキラリと光る物に気づく。

 今になった気づいたーーあのメイドも確かに指輪をつけていた。

 コイツはあの時から知っていたのだ。


「邪魔ァ!!!」


 触手を一本砕くが二本目を砕こうとして新しい触手に腕を噛まれる。


「ガァァア!!!??」

「アルシア!!」


 アデラが剣を力一杯握り締め女に斬りかかる。

 その剣を涼しい顔をしながら二本の指で受け止める。


「なっ!?」

「何か君・・ムカつく」

「ガハッ!!!」


 攻撃の手段を止められ動揺する少年の腹を蹴り飛ばす。

 数本の木を巻き込みながら飛んでいきダンッと背中を強く打つ。


「アデラ!!」


 僕は直ぐに本から魔術を選び発動しようとする。


「ア、アタシがやらなきゃアタシのせいなんだから…」


 ミナツは二本の剣を握り、震える足を何とか一歩ずつ前へ進める。


「うぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!!」

「ちょっとミナツ!?」


 勢いよく走り出しアルシアを救いだそうと触手に剣を振りかざす。


「おっと、この子は返さないよ!」


 女のドレスがゴキゴキと音を立てながら骨のような鞭に変化する

 その鞭はミナツの横腹に刺し、腹を抉ろうとする。


「あ""っ…ゔが」

「貴女は後で、ゆっくりと」


《"光の散弾銃(パイロボルム)"!!!》


 僕は急いで魔術を発動させ触手を破壊しながら魔女に何発か当てる。


《"拘束する蔓(ヅルクハイト)"!》


 二人の身体を掴み此方に急いで引き寄せる。

 僕の直ぐ後ろにまで持ってこれたが、光弾の方は…

 目を凝らし薄れゆく砂ぼこりの中から見える影をを見つめる。

 そこには掠り傷一つすらもついていない女がけほけほと咳き込んでいた。

 他に変わったことと言えば、何かがパラパラと床に落ちる音が聞こえるくらいだ。

 それもやけに軽い音が。

 予想は出来ていたが願わくば痛い素振りくらいはしていてほしかったな。

 とりあえず二人をアイツから引き離すことは成功した。

 問題はこれからあの女をどう対処するかだが。


「あら、取られちゃった」


 少し埃を払い少し残念そうな声を出しながら僕を見つめる。

 二人は怪我を負い恐らくアデラは気絶しているのだろう。

 アルシアは腕を負傷しており戦闘には参加できない、ミナツは一刻を争う状況だ。

 戦況は圧倒的に此方が不利。

 何とかこの状況を脱しなければ。


「アルシア、魔法は使える?」

「魔力の消費は殆どしてないけど…」

「なら今すぐにミナツの傷を治してほしい」


 僕は腕に一時的な処置を行いながら説明する。


「分かった。トランはどうするの?」

「僕は何とかあの魔女を食い止めて見せるよ‥少しでも隙が生まれたら逃げてほしい」

「そんな!?無茶すぎるよ!!!」


 無茶でもやるしかない。

 このまま全滅と言うのならそうじゃない方が何百倍もマシだ。


「アイツを何とか回収してそっちに投げるから、頼むよ」

「──ッ、分かった…」


 少し言い淀みながらも了承をしてもらえた。

 アルシアもそうするしかないのだと感じたのだろう。


「治癒魔術の発動と同時に僕は動くからタイミングは任せる」

「了解。なら直ぐに始めるね」


 アルシアの手から放たれる優しい光が腹部を押さえる少女を照らす。

 まともに動けるのは僕だけなんだから…何とかして見せる。

 そう心で強く決意し、魔術書を開いた。

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