1話:運命の本
この世界に転生してから八年の時が過ぎた。
この世界で僕は"トラン・メロニコス"と言う名で生きている。
僕の家は代々魔術師の家系で様々な王国で魔術師として名を残していたらしい。
そして、この家の地下には大きな書物庫があるのだが、基本的に僕はここで過ごしている。
ここは本が大量にあり何時間いても飽きない、正に俺にとっての天国だ。
「トラン、そろそろご飯だから上がってきなさい」
母がそう僕を呼ぶ、本を読んでいるといくら時間があっても足りない。
「分かった!」
そう返事をすると立ち上がろうとする。
そうしたらバランスを崩し本棚に頭をぶつけてしまった。
ドサドサッ
上から大量の本が雪崩のように降ってくる。
「ぶはっ!死ぬかと思った」
大量の本の中から顔を出す。
正直、本に埋もれて死ぬなら良いなと少し思ってしまった。
ブォン…ブォン…
後ろから音が聞こえてくる。
振り返ると表紙についている宝石がゆっくりと光り、点滅しいてる本が目に入る。
「なんだこの本、一体何処に眠ってたんだ?」
八年間で全ての本を読んだ訳ではないが、こんないかにも特別な感じの本をこんなに長い期間気づかないことがあるだろうか?そう考えながら本を手に取る。
「この本、埃もついてないし随分と綺麗な本だな。それに、タイトルが何処にも書いてない」
不思議な本だ。
そう考えながら本を開く。
「この本ページ分けもないし真っ白じゃないか!?」
ビックリだ、本の中身は板のようになっておりページ分けなどはされていない、中身は一文字も書かれておらず真っ白だ。
「なんだこれ?表紙はしっかりした作りだけど、てか本なのかこれは?」
そう考えていると本が輝きはじめ頭の中に無数の文字が流れ込んでくる。
意識が戻りハッとする。
「何だ…今の」
頭に流れてきたのはとてつもない情報量、炎の玉を飛ばすことや、ゲートのようなものを使った魔法など。
初めてのことが一気に頭に流れ込んでくる。
「今見えたのが魔法、まさか魔法を見ることがこんな形で見ることになるとは」
実際に目の前で見た訳ではないが、魔法を使う映像をしっかりと見たのは今のが初めてだった。
自然とニヤリと口角が上がり小さく呟いていた。
「最高じゃないか…!」
前の世界では必ず味わえなかった感覚、心がとても踊る。
そんなことを考えていると母の声が聞こえてくる。
「こんなに散らかしていつまでいるの?」
「ごめんお母さん。本棚にぶつかっちゃって」
「大丈夫?怪我がないならいいけど」
そう母は心配する。
「すぐに行くよ」
そう答えると僕は本を棚に直し階段を昇る。
家族でご飯を済ませる、そうしてまた書物庫に戻ろうとすると父に声をかけられる。
「トラン、話があるんだがちょっといいか?」
どうしたんだろう?もしかして本を落としたことを怒っているのかな?
「トランその本は一体何処にあったんだ?」
どうやら父は怒っているのではないようだ。
それに本って何の事を言っているのだろう?本は全てここに来る前に直したはず。
「!?」
横を見るとあの時の不思議な本が置いてある。
どういう事だ?確かに本棚に直した筈なのに。
「懐かしいじゃない」
母が顔を覗かせてくる。
懐かしい?母はこの本を見たことがあるのだろうか。
その答え合わせをするかのように父が答える。
「だろう!俺も見たのはもう十年も前だ」
二人の会話を聞き僕は不思議そうな顔をする。
中が良いのは良いことだが、僕を置いてきぼりにしないでほしい。
「悪いトラン、その本はな昔俺が見つけた魔術書なんだ。結局使えなかったんだけどな」
お父さんの…でも魔術書って言ったってページは真っ白だし、と言うかこれを本と言って良いかも微妙だし。
てか使えなかったのに何で魔術書だと思ったんだ?
疑問が減るどころか増えたことでまた不思議そうな顔をする。
「まぁ確かにそれは普通の魔術書とは違う、それに今の時代は魔術書自体を持ち歩く人が少ないしな」
父は笑いながら言う。
普通と違うって違いすぎるでしょ!本についてる宝石も何なのか分かんないし。
でもこの魔術書が特別な本だと言うことは何となく分かる。
「その宝石はいわゆる魔石と言うものだ。それがついているお陰で特別な魔術書だって思ったわけだ」
宝石を凝視していると父が説明をくれる。
"魔石"、この言葉自体は前世でも聞いたことがあるため知っている、それにこの世界でも本で載っていたが文字通り"魔力の籠った石"そして自分でも作ることは可能なようだがとてつもない魔力を消費するようだ。
また、魔石は天然物と人工的に作られ物の二種類が存在する。
そんな魔石がついている本、確かに魔に関係する本なら魔術書と思うのも無理無いかも。
と言うよりこの魔術書、十年も前の物ときたもんだ、きっととんでもないお宝なのだろう。
でも・・・・
「こんな本何処で手に入れたの?」
「昔、俺がまだ冒険者だった時に見つけたある崩れた洞窟の瓦礫の中に埋まっていたんだ」
瓦礫の中…いかにもお宝が眠ってそうではあるけども。
「そうなんだ、その洞窟ってどこにあったの?」
「それは……すまん忘れてしまった」
父が頭をかきながら苦笑いをする。
なんだそりゃ、思わずため息をつきそうになるが、案外適当な父さんの事だ覚えていなくても仕方がない。
ともあれ僕はこの本を手放したくなく、本を手にする許可を父に得ようとする。
「ねぇ、この本僕が使ってもいい?」
「お前が見つけたんだ、そいつはもうお前のものだ」
この本がしっかりと持ち出して良いと言ってもらい僕は笑顔になる。
「もぉ今日トランを呼んだ目的忘れてない?」
母がそう父に言う。
「そうだった!忘れていた」
父は笑いながら答える。
僕を呼んだ理由はこの本じゃないのか?
「トラン、一緒に"ソルム王国"に行かないか」
ソルム王国、それはここ数年襲撃を受けることもなく高い戦力を誇る国だ。
僕はこの国にしかない本が読めるかもしれない、そう思うとワクワクが止まらなかった。
「行く!一緒に行きたい!!」
僕は勢いよくそう答えた。
この国に行くことが僕の人生を変える一歩になることをこの時はまだ想像すら出来なかった。