17話:ご招待
「にしても魔獣に出くわすとは災難だったな」
ミナツはハハハッと笑いながら僕達に語りかけてくる。
実際魔獣と出会うことは想定外だったから焦ったのは事実だ。
「それもあるけど、何より遭難しちゃってて大変だったんだよ~」
アルシアがくたびれた様子で応える。
「だから悪かったって…」
アデラが不貞腐れたような、それでいてしっかりと反省したような声で呟く。
こんなに元気がないアデラ絶対レアだな。
僕は自分をひどい奴だと思いながらもアデラを見て少し笑ってしまう。
「あははっそりゃ災難だったな!」
ミナツがそう応える隣でネフィがポヤポヤと眠そうな様子でミナツに体を寄せる。
「ミナツ大丈夫なの?なんだか凄く眠そうだけど」
「あー…実はいつもこんな感じなんだ」
僕の質問に対しミナツは少し思い詰めたような表情で僕に応える。
その表情に少し違和感を感じつつも僕達は前に進んで行く。
「さぁ、見えてきたぞ!!」
ミナツが声を上げる。
どうやらもうそろそろ目的地に到着するようだ。
僕は目の前の葉を手で避け、明るい太陽が目に映り視界が霞む。
ぼやけた視界が徐々に鮮明に見えてくる、そうして目に映ったのは大自然の中に確かに生活感を感じ、それでいてどこか神秘的な正に絵に描いたようなエルフが住まう国が目の前に広がっていた。
「ようこそエルリア王国へ!」
「へ~」
ミナツに続きネフィが遅れて歓迎の言葉を言う。
といってもネフィに関してはほぼ言えていないのだが、歓迎してくれるのには変わりないんだし嬉しいことだ。
「まさに自然の国だね」
アデラの説明通りの自然に溢れる国と言うかもはや自然である、なんとも神秘的な国を目の当たりにし、呆気に取られてしまう。
「凄いでしょ此処は!」
ミナツは得意気に言う。
「わぁ…実家みたい~」
「実家!?」
ミナツはそんな応えを想定していなかったのか驚きの声を上げる。
そんな中アルシアが自然に見とれつつ安心しきっているようだ。
実際アルシアは町の外れにあるほぼ森みたいな所に家があったからそう感じるのだろう。
そんな二人を横目にアデラを見ると早く見て回りたいのか、ソワソワしている。
さっきの落ち込みようどこに行ったんだ!なんて思う。
「ところで三人はこれから予定とかってあるの?」
ミナツが質問を投げ掛けてくる。
予定か…この国に来るってこと以外は特に決めていなかったからな、僕としては答えは一つだろう。
「僕は特に無いよ」
「私も!/俺も!」
僕に続き二人が同時に応える。
真横で結構大きな声で言われせいか、耳がキーンっとなってしまう。
鼓膜が破れるかと思うほどだ。
「あははっ二人とも元気が良いな!」
「ありすぎる程だよ…」
僕は少し着かれたような声を出す。
横で二人が少しはにかむような、それでいて申し訳なさそうな顔をする。
全く、二人といると疲れている暇もないな。
そんなことを思いながら僕は少し笑顔になる。
「よし、そう言うことならアタシに着いてきて!ほらネフィも寝てないで行くよ」
「んぁ、は~い」
立ったまま寝ていたネフィを起こしミナツは歩いて行く。
立ったまま、しかも微動だにせず直立で寝るとは一体どれだけ疲れればそうなるのだろう。
そんなことを考えながら僕達もミナツの後を続く。
着いていくのは良いとしても一体どこに向かっているのだろう?そう思っているとアデラも同じことを考えていたようで、その質問を投げ掛ける。
「なぁなぁ、着いてきてっつっても何処に向かうんだよ?」
「あー、そういや言ってなかったね」
そう言いながら振り返り、しかし歩くを足を止めることはなく話す。
「アタシ達の家に招待しようと思って!」
「家!?」
出会って直ぐに家に呼ばれるとは思っていなかったため大声で反応してしまった。
「ごめん、流石に急かな?」
「いやまぁ、予定はないって言ったけど、まさか家に呼ばれるとは思っていなくて」
予定はないと言ってもいきなり家に行くのもどうかと思うし、でも相手が許可してくれてる…と言うか誘ってきてるんだから行っても問題は何もないのかも知れないけど……
とこんな考えが僕の頭の中でよぎるが、そんな僕の迷いを一刀両断するようにアルシアが口を開く。
「私行きたい!」
後ろにいたアルシアが身をのりだし顔を出す。
今日一と言っていい程キラキラとした期待を抱いたような眼差しをしている。
「おぉ!そんなに来たいと思ってくれてるとは嬉しいね~でもアタシん家は結構普通だよ?」
「あ、えっと私今まで友達の家に行くとかしたことなかったからつい…でもミナツの家に行ってみたいのは本当だよ!」
確かにアルシアはこれまで友達の家に行く、ましてや友達を作ることもこれまで出来ていなかったのだろう。
「アルシアもこう言ってんだしありがたくお邪魔させて貰おうぜ」
「そうだね、改めてお邪魔させて貰うよ」
そう言われると僕は軽く会釈をする。
そうして軽い談笑をしながら歩き始めること数十分僕達はミナツの家の前まで来ていた。
その家の姿は他の家のように木にごく一般的な家が埋め込まれているよな感じであり、その家と繋がるような形で隣に一回り小さな家がある。
その外装を見てミナツの言っていた普通はやはりエルフ基準なのだなと改めて実感する。
「さぁ入って入って~」
ミナツが扉を開けるとネフィが僕達の背中を押し半ば強引に家の中に入れる。
バラバラながらにお邪魔しますと言うと内装を確認する、確かに内装だけで言うと意外と普通の家だと思い、さっきの考えを自分の中で少し訂正した。
「わぁ…っ」
隣でアルシアが耳をピコピコと動かし、まるでおもちゃを買って貰った子供のようにわくわくしている。
「随分と可愛い子だね~」
「わわっ!?」
ミナツがわしゃわしゃとアルシアの頭を撫でる。
恥ずかしそうな顔をしながらも尻尾を左右に振り、顔を赤らめる。
ますます犬っぽくなったな…アルシアのやつ。
そんなことをしていると後ろからネフィが眠たそうに歩いて行きそのままベッドに倒れる。
「コイツすぐ寝るなぁ」
アデラ少し驚き気味に呟く。
ミナツはこの行動を分かっていたようにネフィに布団を掛けてあげる。
「ネフィっていつもああなの?」
「そそ、まぁ昔にちょっと色々あってね…」
今日見せた笑顔の中でも引きつっているような、含みのあるような笑みを見せる。
「さて、アタシが家に招いたのはちょっとした相談…と言うか聞きたいことがあるんだけど…」
パンッと手を鳴らすと今までとは違い、落ち着き真面目なトーンで話し始める。
「ん、なんだ?」
彼が問い掛けると想像をしていなかった一言がミナツの口から出る。
「魔女って知ってる?」
その言葉に対して僕はポカンとしてしまい直ぐに言葉を返せなかった。