10話:大災害再び
「急げアデラ!間に合わなくなるかもだぞ!」
「分ァってるってこっちも全力で走ってんだよ!」
僕達は恐らくアルシアがいるであろう国の中心部に向かって全速力で走っていた。
僕の読みが正しいのなら、またあの大災害を起こそうとしている。
「なぁ、大災害を起こすにしても何で今なんだよ」
アデラが僕に問いかけてくる。
置いて行っていた筈の魔石が無かった所を見るに、僕の予想はこうだ。
「アルシアはきっと莫大な魔力を必要としてたんだ、だから大量の魔力が入っている僕の魔石を手に入れた今だからこそ、大災害を起こそうとしているんだよ」
「マジかよ、でもよ昔はアイツ一人だけで起こしたんじゃねぇのか?」
また別の質問をする。
その通りだ、アルシアが過去に起こした大災害は恐らく彼女一人の力でだろう、何故そう言えるのかは、あの本には魔力が検知されていたと書かれていたからだ。
もし魔石を使っていたのなら、小さい魔石の欠片が見つかる筈だ、そもそも魔石だけで魔法を発動したのなら、魔力が検知される事はないのだから。
「その通りだよ、つまり魔石を使ったと言うことは…」
「ここが完全に壊滅するかもってことじゃねぇか!!」
気づく事実に驚愕の声を挙げる。
「声がデカイよ」
「あ、悪ィ」
全く、それで人々の混乱を招いたらどうするんだ。
でもアデラの言っていることは恐らく当たっている。
何故そうするのかは分からないけど、アルシアがこの国を壊滅させようとしているのは確かだ。
「理由が分からない今はとにかくアルシアと話をするしかない」
「ああ、さっさとアイツに会わねぇとな」
僕達は全速力で走り、アルシアの元に辿り着いた。
虚ろな瞳をした少女はまるで僕達を待っていたかのように、静かに佇んでいる。
「説明しろアルシア!大災害の事や、お前が今何をしようとしているかもだ!」
「遅かったね二人とも……」
ゆらりと振り向き、言葉を返すことはなく僕達をじっくりと見つめる。
「アルシア、君は一体何をしようとしているの?」
「焦らないでよちゃんと答えるからさ」
ひどく落ち着いた声でゆっくりと話し始める。
その瞳はまるで生気がないような僕達と話をしていた時とはまるで違う、曇った瞳をしていた。
「まず大災害の事だけど、あれは確かに私がやった。と言ってもこれは二人共もう知ってるのかな?」
「ああ、俺達が聞きてェのは何で起こしたかなんだよ」
少し焦りを見せる。
気持ちは分かる、僕だってアルシアと争いたくはない。
どうにか穏便にすむ方法を模索しなければ。
「何でかって…それって本当に言う必要あるかな?だってもう何年も前の事だよ」
そう話すアルシアの顔は何だかとても落ち込んでいるように見えた。
どうしてそんな顔をするのだろう、自主的に起こしたのならそんな顔をするだろうか?あの大災害を彼女が自分の意思で起こしたとはやはり思えない。
「ねぇ、僕達は君と争いたくはないんだ、だから真実を話してくれないか?」
「話したところで過去の行いがチャラになる訳じゃないでしょ?」
穏やかな力の無い返事。
どうやら大災害を起こした事について、罪の意識は持っているようだ。
そんな彼女を見ていると頭では分かっていても、彼女は大災害を起こしていないのではないか?と言う考えが頭をよぎる。
「さて、本題なんだけど私と一緒にこの国を作り替える気はない?」
アルシアは僕達に質問を仕掛けてくる。
国を作り替える?この国の破壊ではないのか?
「作り替えるってどう言うこと?」
「そのままの意味だよ、私はこの腐った国を壊して新しい国に造り替えるの」
壊して作り替えるだって!?何でそんなことをしようって言うんだ、それに腐ったってどう言う……
この話をするアルシアの声こそは楽しげに聞こえるが、どうしてそんなに曇った瞳で言うんだ……
「どう?これが今私がしようとしてる事だけど」
「ハッんなことお断りだ!」
力強く答える。
そうだ、どんな理由があろうと国を壊すなんて絶対に許されない、それにそれではアルシアはきっと処刑されてしまうそれだけは絶対にさせない!
「そう、交渉は決裂か…二人となら楽しい国を造れたと思うのに」
壊れた笑みが消える、変わりにまた寂しそうな声が帰ってくる。
どうにか止める方法がないかと必死に考える。
「ねぇアルシア!本当にこれが君のしたいことなの?こんな破壊を君は望むの?」
今の僕にはそう叫び続けるしか出来ない、アルシアを傷つけることは出来ない。
「ただの破壊じゃないって、私がするのは創造のための破壊だって言ってるでしょ!」
アルシアが強風を起こし宙に浮く。
不味いこれではまたあの大災害が始まってしまう。
「なんだあれ浮いてるぞ!」
「あれってあの魔女の子じゃないの?」
「何かヤバいって!」
「だから処刑しといた方が良かったんだよ!!」
周りの人々が混乱の声を上げはじめる。
そんな中一人の男が声に出した処刑と言う言葉が妙に耳に残った。
「トラン!まずは住民の避難だ!」
アデラの言葉でハッと我に返る。
そうだ今は考え事をしている場合ではない、人に危害が及ばないように、何よりもアルシアを人殺しにしてしまわないようにしなければ。
「そうだね、僕は魔法で安全な所に移動させるよ」
本を開き魔法を発動する。
しかしこれは敵を縛るのではなく避難をさせるため縛り移動させるのだ、これまでの使い方とは違い、少し不安になる。
《"拘束する蔓"》
近くにいる人々を掴み移動させる。
アルシアの使用魔術の範囲が分からない以上、出来るだけ遠くに運ばなければ。
「安心してください!この魔法は避難のために使用しております!」
「近くにいる人は早く遠くに逃げてくれ!」
僕達は出来るだけ多くの人に伝えられるよう、これ以上でないくらいの大きな声で伝える。
「とことん邪魔するんだね二人共……」
そう呟くと僕達に向かって大きな火球を飛ばしてくる。
マズい避難に魔法を使っているから別の魔術を使用できない、このままじゃ火球が当たって焼け死ぬ!
「危ねぇ!!」
アデラが目の前に立ち、火球を跳ね返す。
強化魔術無しでそんなこと出来るなんて、こいつもう何でも出来るんじゃないかな?
「無事か!トラン」
「うんありがとう」
僕は最後の人を避難させ魔術の発動を解除する。
「よし今のが最後の一人だな」
彼は住民の避難を確認するとアルシアに向かい剣を構える。
僕も有効な魔術を判別し、迎え撃つ準備をする。
「言っとくけど、あくまでも目標はアルシアの気絶だからね」
「んなこたァ分かってるよ!」
そう、悪魔でも今回の目標は気絶させることだ。
せっかく友達になれたのに殺すなんて事は絶対にしたくはない、それにしっかりと話し合えば分かり合える筈だと言う願いも込めて、気絶という形にした。
「何処に逃がしても無駄だよ!」
空気ぐピリッと張り積める。
アルシアの魔力がどんどんと強くなっているのが分かる、恐らく崩壊とはいかなくても此処等一帯が吹き飛ぶまではいくかもしれない。
「おいあれどう止めるんだよ!!」
冷や汗を流しながら隣で叫ぶ。
あの魔力の増加を止めるには何とかアルシアの意識を散らさなければいけないけど、一体どうすれば……そうだ!奇襲を仕掛ける事が出来れば。
僕は作戦を伝える。
「マジかよそれ本当に大丈夫何だよな?」
少し不安そうにする。
正直僕もかなり不安だ、だが今はこの方法しか思い付かない。
「何をしようとしてるか分からないけど、全部無駄だよ!」
そう叫ぶ彼女を横目に僕は魔術を発動する。
《"拘束する蔓"!!》
魔術で発生させた何本もの蔓をアルシアに向けて伸ばす。
「そんなもの何本あっても無駄だよ」
彼女に触れる蔓は彼女の魔力の強さに負け、燃えて消えてしまう。
やはりアルシアは魔力で作り出したバリアを張っており、その中にいることで自身の魔力を増やしているのだろう。
でもそうなる事は最初から予測できていたことだ、僕の本当の狙いはこれじゃない。
魔術を解除する。
「それが無駄じゃないんだよ!!」
いける、これなら魔力の増加を止められる!!
「ごめんね…」
アルシアは勢いよく振り向き、後ろにいるアデラを滅多刺しにする。
「もっと友達でいたかったなぁ……」
後悔混じりに寂しそうに呟く。
アデラが死んだ?そんなわけないだろ、この状況こそが僕達が狙っていたものだ!!
「勝手に友達止めてんじゃねェよ!!」
真下からアデラは魔力のバリアを破壊する。
やったぞ!作戦は成功だ!!
「何で、確かに当たった筈なのに…」
そう確かに当たっていた、しかしそれはアデラではない別のものにだ。
あの時に伝えていた作戦はこうだ、まず僕が蔓の魔術を発動しアデラをアルシアの真下に投げ飛ばす。
そうして次に幻影魔術でアデラに見せかけた物を真後ろに投げる。
そうする事で奇襲を仕掛ける作戦だったのだ。
後は魔力で出来た壁には必ずどこか破壊できる点があるのだ。
この点は魔力の発生源と思ってくれれば良いだろう、そこを攻撃してもらい破壊するって訳だ。
「そんな魔法も使えてたなんてね」
「ちょっと調べ物をした時にね!」
《"幻影の映し"》
この魔術はアルシアの事を調べる際、図書館で発見した魔術書に書いてあった魔術だ。
いつか役に立つと思っていたけど、こんな早くに使うことになるとは、覚えておいて正解だった。
「本当に二人は凄いね…でも負けないから」
アルシアが自身の魔力を手のひらに集中させる。
今自分の持っている魔力で出来るだけデカイ魔術を発動する気だ。
「アデラ離れろ!」
「分かってるよ!」
アデラは空を蹴り、僕の側に来る。
《"黒の囲い"ッ!!》
僕は咄嗟に防御魔術を発動する。
この黒い壁は覆い被さり二人を守るが、外が見えないため、どうなっているのか分からないのが欠点だ。
ゴゴゴゴゴゴ……
物音が激しい…アルシアが魔術を発動し、どんどんと建物を破壊していっているのだろう。
徐々に物音が小さくなっていきいずれ音は聞こえなくなり、シーン…と静かになった。
「もう大丈夫かな?」
僕は恐る恐る魔術を解除し、外を確認した。
「なんだ、これ……」
絶句した。
ついさっきまで壊れているところはあったものの、そこにはしっかりと建物が並んでいたのに今はその逆、どの建物もバラバラに崩れており正しく災害後の姿になっていた。