9話:魔女の子
「それじゃあアルシアが人を殺したと言うのか?」
静かに老婆に問いかける。
「ええ、勿論ですとも」
この老婆は恐らくあの大災害を経験したのだろう。
そうでなきゃどこの本にも載っていなかった、大災害を起こした犯人を知っている筈がないからだ。
「それと一つお願いをしたいのです」
お願い?一体何を頼もうと言うのだろう。
「あの子を・・・魔女の子を殺してくれませんか?」
アルシアを殺す…そう聞いた瞬間、僕は気持ちがごちゃごちゃになり、どうにかなってしまいそうだった。
「嫌だと言ったら、お前はどうする?」
アデラは静かに答える。
しかしそう答える瞳には確かに迷いのようなものが感じとれた。
「どうも致しません、私はただお願いをしただけですから」
老婆は不敵な笑みを崩すこと無く答える。
それにしてもこの老婆は本当に不気味だ。
「これでお互い知りたいことはもう知ったな、行くぞトラン」
「行くって言っても何処に?」
アデラは老婆に背を向かせ歩いていく。
大体予想はついているが、行ってどうなるのかが僕には分からなかった。
「アルシアん所に行って全部聞きだす!」
アルシアに大災害の真相を全て聞きだす気のようだ。
でもそんなこんな事をしてしまって良いのか?僕は少し疑問に思う。
「会いに行っても素直に話してくれるかな?」
「その辺はーー行けば分かる!」
行けば分かるって、どんだけ適当なんだよ!?でもアデラがそんな風に前向きに考えていてくれて良かった、そうじゃなければ僕はショックを受け続け、どうすれば良いか分からず道に迷っていただろうから。
「ありがとうアデラ」
「何だよ、またそんな畏まって」
不思議そうでいて気味悪そうな顔をする。
きっとこいつは僕が何に感謝したのか分かってないんだろうな、まぁ僕はそれでもこいつに感謝をしない訳にはいかないからな。
「何でもない早く行こう、アルシアの所に」
「あぁ!絶対に全部吐き出させてやる!」
そうして僕達はあの家に向かうことにした。
あの明るいアルシアが大災害を起こすなんて、絶対に何かそれ相応の理由がある筈だ。
ドンドンッ
アデラが家の扉をノックする。
と言ってもノックにしては強すぎる気がするから扉を叩くと言った方が正しいのかも知れないがでも今はそんなこと構っている場合じゃない、今はとにかくアルシアと話をつけなければ。
「おいアルシア!居るんだろ開けてくれ!」
乱雑に叫ぶ。
正直こうなるような気はしていた、自分が魔女の子であると知られている以上、僕達の前にそう易々と出てくるとは考えにくい。
それ以外の理由があるとすれば…
「開けろよ!アルシア!!!おいってば!!」
こいつのせいだろう…
ドンガンッバン!!ダンダンダン!!!
と言うかさっきより勢い強くなってない?それ扉壊れない?さすがにここまで強いとこんな状況でも構うよ。
「チッ、こんだけやってんのに物音一つも聞こえてこねぇ」
「キミが扉を強く叩きすぎてるせいなんじゃない?」
「嫌そんなことは…まぁうん」
否定しきれないのかよ!あそこまで強くしたのなら否定して欲しかったが、アデラも焦り速く話を聞くと言う気持ちが前に出すぎていたのだろう。
僕は"そんなに焦る事はないよ"と心の中で言いながら少し笑みを浮かべアデラを見守る。
「なんだよ悪かったって」
謝られてしまった、どうやら逆効果だったようだ。
「にしても本当に帰ってんだろうな?アイツら嘘ついてねぇか?」
「その可能性はあるにしても、まずは動かないと何も変わらないしさ」
「まぁそうだけどよ~」
居場所を知るべく、色々な人に聞いて回ったが全員口を揃えて"帰っていった"と口にしていたのだ。
こうも揃っていると逆に怪しいが、その情報しか得られなかったのだから動かない訳にはいかない。
「もう扉壊しちまってもいいか?」
マズい、もうアデラが限界のようだ。
少し扉から距離を取り家の中に突っ込む準備をする。
そのままタックルで壊そうって言うのかよ!いくらなんでも無理があると思うけど……
「待ってアデラ!もしかしたら鍵が開いてるかも知れないし」
「それで鍵開いてなかったら意味ねぇだろ!だったら壊した方が楽だ!!」
止まる気は一切無いようだし、こうなりゃヤケだ頼む開いていてくれ!
そう願いながら俺は扉を開こうとするとガチャリと音を立て扉が開いた。
「あ、開いた」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ドンガラガッシャーーン!
止まるための壁が無くなったことでアデラは勢いよく家の中に入っていってしまった。
こうなるなら扉を開けない方が良かったかも。
「いてて…あ、居るじゃねぇかアルシア!」
彼は立ち上がるとポツリと座っている彼女に向かって行く。
でも様子がおかしい、アデラが飛び入って来たのに反応は無いし、まるで人形のように座ったまま微動だにしないのだ。
「大丈夫アルシア、具合でも悪い?」
そう言いながらアルシアの肩に触れようとすると、僕達の知っているあの少女とは違う妙な違和感を感じる。
「なんだどうした?」
困惑をしながらこっちに近づいてくる。
ダメだ、何かが違う、コイツをアデラに近づかせるわけにはいかないと、本来ならこんな不安な気持ちになる筈もないのにこんな気持ちになってしまう。
僕は気がついた時には彼に叫んでいた。
「コイツに近づくなアデラ!コレはアルシアじゃない!!」
目の前にある獣人の少女の形をした物は、グキッと嫌な音を立てながら首を勢いよく上に向ける。
それはキュィィィィンと音を立てながら目や口から光を漏れだしてきていた。
その行動は、明らかにここにいてはとんでもないことに巻き込まれてしまう、と分かる行動だった。
「ヤバい!アデラ!!」
僕は勢いよく腕を掴み、家を飛び出すように外に出る。
ドゴォォォォォン!!!
次の瞬間、途轍もない爆発音と共に目の前の家が木っ端微塵に吹っ飛んだ。
僕の嫌な予感は、起こした行動は間違っていなかった、きっとあのままあそこに居たのなら俺達爆発に巻き込まれて死んでしまっていただろう。
「おいどうなってんだ!アイツ爆発しちまったぞ!!」
恐怖や混乱が混じった顔をしながら隣で混乱している。
正直そうなるのも無理はない、目の前で友人が爆発してしまったのだ。
僕としてはあそこまで高度な人形の爆弾を作り出すなんて、相当な魔力が必要な筈なのにそれが出来てしまっている事が不可解なのだが。
一先ずあれはただの人形爆弾だと説明をしなければ。
「あれは魔術で作り出した自分そっくりの人形爆弾だよ。まぁ人形って言っても魔力の塊みたいなものだけどね」
「魔術で作り出したってそもそも獣人は魔法がッ──」
アデラも気づいたようだ。
そう、アルシアは獣人で唯一魔力を持っている存在と言うことになるのだが、あんだけあの老婆が察しやすいことを言ってたのに気づいてなかったのか……
「でもよ何で自分家巻き込んでまで爆発させんだよ?」
それもそうだ、僕達を殺したいのならもっと効率の良い方法が他にある筈なのに……
いや待てよ…僕がアルシアにあげた魔石が机の上に無かった、それにもしも本命が僕達ではないとして話を進めるとしたら、僕はこう考えていく内に一つの答えに辿り着いた。
「しまったやられた!」
「やられたって何がだ?」
冷静を装いながらも焦りを隠せていない様子で僕に質問を投げかけてくる。
この考えが当たっていたのならアルシアはとんでもない事をしでかそうとしているぞ!
「アデラ!僕達をここに呼んだのは只の時間稼ぎだ、アルシアはきっと今頃……」
・・・
・・・・・
・・・・・・・
フードで顔を隠しながら歩くアルシアはコツッコツッと足音を立て街を歩く。
目指しているのはこの国の中央部だ。
「今こそこの国の者へ、この国そのものへ……復讐してやる」
瞳に憎悪を宿す少女はフードを取りそう呟いた……