プロローグ:転生と本
誰もが一度は思ったことがあるのではないか?自分だけの物語が欲しいと。
僕は本が好きだ、幼い頃から色々な童話などの本をよく読んでいた。
そんな本に影響され誰かを助けるヒーローになりたいと思うこともあった。
勿論それだけの影響では無いのだが、兎に角僕は人助けをよくしていた。
と言っても出来たことと言えば、本当によく聞く人助けくらいで物語のような大それた活躍はなかったが…
ともあれ本を読んでいる時は辛かった事や、悲しいことを忘れさせてくれる。
そんな本を読み続けて早数年、僕は高校生になっていた。
今ではいずれ自分だけの物語を作ってみたくなっている。
僕が考えるヒーローの物語を。
「平行宇宙ね…」
学校帰り、道路で信号が青に変わるのを待っている間につい最近購入した本を読んでいる。
こう言ったほんの少しのスキマ時間にも、本を読む事は多い。
そんな時スマホに一通の通知が届く。
画面を開くとそこにはいつも通り僕と、僕の幼馴染が映る。
いつまでも昔の事を引きずっていることは自分でも情けないと感じているのだが、変えられないのだ。
何はともあれ、届いていたのは父からの連絡だった。
内容としては晩御飯の献立の質問だった。
よくある平凡な質問だ。
「晩御飯か…特にリクエストとかはないんだよな」
「こら、走らないの!」
後ろから女性の声が聞こえてくる。
僕が返信に悩んでいると一つの人影が横目を過ぎていく。
それは一人の少年だ。
その少年は人形を空を飛んでいるように掲げ、道路に向かい走っていく。
「おい、危ねぇぞ!」
その声を聞き、急いで目の前を見る。
少年が車に轢かれそうになっているのが目に映った瞬間、身体は少年に向かって走っていた。
キキィィィィィィィィ!!!
車のブレーキ音が聞こえる。
それと同時に人の悲鳴や混乱の声も同時に聞こえてくる。
目の前は赤く染まり、身体の体温がどんどん下がっていくのを感じる。
微かに漂う鉄臭い匂いから、目の前が赤いのは恐らく自身の血液のせいだろうと思われる。
不幸中の幸いか感覚が麻痺しているせいなのか痛みはそれ程感じてはいない。
掠れた視界で辺りを見渡すと泣いてる子供を母親らしき人が抱き締めている。
どうやら助かったようで一安心だ。
結局したいと思うだけで出来ていないことだらけの人生になってしまった。
思い返せばこの人生、父には迷惑を掛けてばかりだったと思う、と言うよりこの後取り返しのつかない迷惑を掛けることになるのは明白だ。
いつかしようと思っていた恩返しも、憧れのヒーローにもなることも出来なかった人生だ。
いや、誰かの命を助けたのだから少なくともヒーローにはなれたのかも知れないな。
そんなことを考えながら僕は両親に感謝と、謝罪をしながら目を閉じた……
こうして山崎大翔としての物語は幕を閉じた。
…
……
………
「よく頑張ったな!!」
「えぇ、見て私たちの子よ」
声が聞こえてくる…目を開けると知らない男性と女性が映る。
女性は涙を流しながら優しい笑顔で僕を抱き抱えている。
対して男性の方は滝のような涙を流しながら天を仰いでいた。
私たちの子(?)ってどういう事だ?そう思いながら近くの鏡で自分の姿を確認すると、見知らぬ赤子が映っていた。
(この赤子が僕!?)
話すことが出来ないため心の中で思うことしか出来ない。だが僕は今確かに死んだ筈なのに山崎大翔としての記憶も意識もある。
その事実から僕のなかで一つの答えが出た。
(これが転生ってものなのか…)
これまで本でしか見たことのなかった転生、これが今自分の身に起きているのだ、驚かない訳がない。
これはきっとこの先二度と訪れる事のないチャンスだろう。
(決めたぞ、僕はこの世界でもう何かを手放すことなんてしない)
僕は話すことも出来ないこの小さな身体で固く決意した。