勧誘-ルーランside
視察を終えた皇子の見送りを終え、所長と二人言葉を交わす。
「さて、皇子はうちへ来てくれるだろうか」
「がっつり勧誘してましたね。しかも俺の司書官の話まで出して。さすが所長!お見それしました」
「当たり前だろう。あんな逸材を逃したら悔いても悔やみきれん。まあこれから長くこの国で過ごすのだから、少しでも興味のあることに従事していて欲しいしな」
人手不足はどこも同じ。だが、この国ではやはり花形の魔導士団や騎士団へ所属することに憧れを持つ若者が多い。裏方仕事の多い研究所への所属を希望するものは年々減少傾向にある。
「だからってあそこまで露骨に勧誘しますかね」
「何もしないよりましだろう。それならお前がもっと働くか?」
「イーエ。何も文句はアリマセン」
「よろしい。ともあれ無事に終えてなによりだ。今日は上がっていいぞ」
「言われなくてもそうしますよー。ああ疲れた」
首まで留めていたボタンを外しながら温室を後にする。久しぶりの制服はやはり慣れない。普段は適当なシャツに白衣を着ているだけなので制服を着る機会が滅多にない。いや、俺以外の人間は皆きちんと着ているのだが。
あの皇子サマはこれからどうお過ごしになるのだろうか。植物園で俺が適当に放った言葉に反応した、あの表情が目に焼きついて離れない。何かを諦めたような、今にも消えそうでどこか儚げな...。
「や〜見間違えだろ」
俺は何も見てない見てない、と呟きながら帰路につく。