勧誘
「いや〜我が研究所の薬草園はいかがでしたか?」
視察を終え、休憩がてら植物園内でハーブティーをいただきながら、王立総合魔法研究所所長アバン・ブルーベルが尋ねる。
「こちらの植物園には我が国では見慣れないものが多く勉強になります」
「そうなのです。我がルラシオン王国では温暖な気候と潤沢な資源のおかげもあり植物の栽培に適しております。そのため魔術で使用する希少な植物も育てやすい環境にあるのですよ」
「それは大変興味深い。大学院では植物の研究に勤しんでおりましたのでとても勉強になります」
そうでしょうそうでしょう、うんうんとアバン所長は大袈裟な態度で接する。
「この後も色々と王都の様々な場所を見学をなさるとお聞きしておりますが、もしご興味がありましたらお暇な時にでも我が研究所へ遊びにいらしてください。もし、ご興味がおありでしたら研究員への道もご用意できますのでぜひともご検討ください。ああそうだ、ユーリアス殿は読書家だともお聞きしております。こちらのグランディアは王立図書室の司書官も兼任してます故、ご興味がございましたら彼に案内させますのでどうぞいつでもお気軽にお声掛けください」
丸い円卓の机に座る所長の後ろに控えるように立つ副所長、ルーラン・グランディアには驚かされることばかりだ。
「司書官も兼任なさっていらっしゃるのですね。そちらも興味深いお話です。王都を一巡させていただいて、またお声がけさせてください」
「もちろんですとも!...おや随分と話し込んでしまいましたね。今日はお開きにしましょう。ハーブティーはお口に合いましたでしょうか?少しでもユーリアス殿の緊張を解く手助けができたのならよいのですが」
「ええ。とても香りもよくよい息抜きができました」
視察を終え、特使として用意された宿舎へと帰る。この国は平和だ。ここ連日の視察で嫌というほど思い知った。
貿易国家ヘレン共和国、自分のいた国は次期国王争いで国内が大きく揺れていた。そんな折、数十年に一度訪れるルラシオン王国との調和を図る為の特使奉迎式典が訪れる。互いの王室から特使という形でそれぞれ一人を差し出すという昔からの習わしであり、言わば戦争を起こさないための人質制度である。今回、ルラシオン王国からは第二王女を、自国からは末の第三皇子である自分を特使として差し出している。男女の交換ならもういっそ輿入れという形にすればいいとの意見もあるが、輿入れではどちらかの国にしか益がないとの批判もあるらしい。次期国王争いから一人第三王子が降りたことは国にとっては大きな出来事だったのだろう。兄達は大層喜んだという。最初から自分は国王になるつもりはないのに馬鹿な奴らだ、なんて表の顔では絶対に見せることはないけれど。
さて、これからこの国でどう過ごそうか。この人質制度は次の式典まで継続される。いつまで自分はこの国で過ごして何をして生きるのか。何一つ決まらぬまま夜は更けていく。