ハンターはいつも現地調達
ロンは長い雄叫びをようやく止めるとまた空気を深く吸い出し、勢いよく自分の喉を指で掴んだ。
「ハァァ、ハァァやばい、喉いがいがしてきた....」
声は叫ぶ前よりも掠れていて、ロンはうめき声を上げる。そう、彼の喉は枯れている。
ロンはここで、自身がした行いを深く後悔しているようだ。
「ヤベェ…水飲まなきゃ…」
近くにあった小川に向かって手を伸ばし助けを求めるように駆け出す。川まで詰め寄ると、川岸に倒れ込むように四つん這いになり、手でじゃばっと掬い上げて清々しき玉水を渇ききった喉元に押し流す。
「ふぅーッ、生き返るぅ……」
喉のヒリヒリとした痛みが冷たい水の流れと共に癒えていく。ロンら口に付着した水を手の甲で拭い落とした。
「よし、喉の潤いを取り戻したとこだし、森丘を予めて周るか!」
本来一般ハンターが遠方へ出張する際は拠点地となる村や町にすぐに向かわなければならない。
だが冒険科所属のハンターの場合は拠点地に向かうに
しても大抵自由に地域全体のフィールドを周ることが
可能である。ただし限られた指定されている地域だけであり、指定対象外の地域に出向く事は原則禁止である。
「それじゃあこっち…」
グゥゥゥー。
目線より真下から鈍い低音が聞こえた。ロンは
それ聞いた瞬間、腹が自然とへこんでいき、胃に溜まった空気が吐き出されるように、口をあんぐり開けてあくびでもないのに、大きなため息を付いた。
これはいわゆる、空腹感というやつだ。
(うわ、そういえば俺、ここに来るまで水しか飲んでなかったなぁ.....)
「どうしたものか.....」
どうすればいいか?、と頭を抱えていると、ふと食料にするにはもってこいの良さげなモンスターが目に付く
「あっそうだ、コイツ喰えばいいじゃん」
ロンはもう一度小川の対面にいる、のんきに水を飲むアプトノスを一瞬にして、ただの生き物から食料へと脳で変換し、獲物を狙う獣のような瞳で凝視し続ける。
「グモォ!?」
アプトノスもロンの力強すぎる視線に気づいたようだ。
「…………………」
「…………………」
アプトノスとロンがお互いに見つめ合う。アプトノスの方も目をグッと細め睨んでいた。
静かな冷風が吹き、ロンの意志を煽ってくるような、アプトノスに逃走を促すような、静寂が長引いていく。好都合な事に、そのアプトノスは群れから一個体で離れているのだから、このチャンスを絶対に無駄にはできない。
「よし、喰っちまうか」
ロンはおどけた顔であっさりと即決した。その刹那、ロンは小川を速攻に跳躍し、川を飛び越える。
のだが、
「グモォ!」
「グヘェッ!!」
アプトノスの体を捉えようとした瞬間、アプトノスが野太い尻尾で応戦してきたおかげでロンはあっさり川をも越え、吹っ飛ばされてしまった。
「痛てて……」
「グモモ…」
「あっおい待てぇ!」
ロンが目を離している隙にアプトノスは、すぐさま
ロンを追いてって森へと逃げ去った。獲物を逃し、ロンはほぞを噛み締める。
「畜生……お…アレなら俺でも…」
悔やんでいた矢先、ロンは新たな標的が遠くの草むらで目に移った。それはケルビという偶蹄目、ケルビ科の
草食獣である。ケルビ自体はウェントマの商店街の肉屋でも頭部の剥製がカウンター前に飾らせてたり、何よりロンはケルビの肉を食した経験だってある。
(今度こそ…)
ケルビは呑気に草を食べていて、獲物としてなら断然狙いやすくロンは即座に剥ぎ取りナイフをポケットから取り出し、草むらの物陰に隠れて這うように潜伏していく。
「暴れんなよ……暴れんなよぉ……」
そう小声を発しながら、ケルビの背後にジワジワと寄って距離を縮める。獲物はもう目と鼻の先。そして遂に、
「もらったァッ!」
「クモッ!」
ケルビの喉元にナイフを突き立てる事に成功し、ケルビの視界は暗転する………。
午後1時14分
「上手に焼けましたっと!」
なんという事でしょう。ケルビは数時間にして
解体され、こんがりと持ち前の肉焼きセットで、鉄製の串に大きなブロック肉が刺されて、ムラなく焼かれているではないですか。ロンは久々の食事にご機嫌な
様子。
ロンは地面から突出している小岩に腰を掛けて、また焼けたケルビの肉に齧り付く。
「あぁぁむ……………ん!」
その味とはというと、
「うおお!なんか、町のレストランで食った、ケルビの肉の味に似てるな!」
うん、ごく当たり前であり、似てるもなにも、同じケルビの肉だ。尚、少しばかり違う点が
あるとするのなら肉の臭みと少しの苦味であろう。家畜化されている個体は、野生個体とは相対し牧草やサイレージ、そして人口飼料などの餌を食しているが、野生個体はそこら辺に生えている短い草や果実などを摂餌している。どういう事か言うと、家畜と野生とでは餌の違いによって差異が生まれるのだ。野生だと、苦味成分を含む植物などを食す事もある。そのため、肉にもその苦味を増進するような成分が吸収されてしており、多少の苦味や臭みが残るのである。だがロンは馬鹿舌なのか、そんな事お構いなしにケルビ肉に食らいついている。
「さすがは狩りたてだな!でも一度に食うにしちゃ量多いし………残りは干し肉にして持ち帰ろう!だけど
持ち帰るにもしやっぱり量多いし、いっぱい喰わなきゃな!あむ!」
ロンは久しぶりの食事に集中しながら、心ゆくまでに肉を口に運び続ける。
この時、ロンは気づいていなかったが、
森の茂みから眩く瞳孔を広げた何かがジッと、焼かれたケルビを狙っていた。
ちなみにロンがなぜギルドの承認を得ずにアプトノスを狩猟できたかと言うと、冒険者であるからであり、
一般とは違い何かしら理由があれば1日、3頭までなら狩猟可能なのです。