アルコリスの大地を踏む
リトルブレイブは
平地に一揺れもせず、着陸は難なく成功を収める。
「冒険者君!着陸したよ!」
操縦士の男性はアナウンスでわざと耳につんざく程の大声でロンに着陸を告げた。
「.……………」
「冒険者君?大丈夫?」
ロンはそれでもなぜか先程まで気楽な態度で操縦士に接していたのに、顔を下にずらして黙りこんで、うんとすんと喋り出そうともしない。
「冒険者く」
「はい!ここまで送っていただきありがとうございました!!」
「え、えぇ?」
(なんでいきなり?…)
だが何も喋らなかったのは緊張のあまり、喉が
張り詰めていただけのよう。それでも操縦士には感謝の意を示されなければと思い、言葉を溜め込んでこれまた操縦士の心臓の鼓動が一瞬止まる程の大声量を絞り出し上げた。
「お、おう、頑張ってきてね!」
操縦士は咄嗟の事にドン引きして、動揺を隠せずにいたが、ロンに一言奨励の言葉を返した。
「それでは!」
ロンは機体の階段から勢いよく降り、森丘の地を踏みしめてから、颯爽と森林へと駆け出し、森林の暗い影のせいでだんだん姿が見えなくなってしまった。
「ふう、僕も次の職務先に向かうとするか」
ロンを見送るとそう言い、深くため息を付く。操縦士はまた他地域の飛行船へとまたレバーを押して、舵を切る。また遥かなる上空に向かって急上昇、他の空港に目指して飛行を続けたのだった。
「ハァッ!ハァッ!俺もやっとハンターダァッ!」
歓喜のあまりロンはデカい奇声を上げて、先が見えない鬱蒼とした森林を両腕を大きく広げて走り抜ける。
しかしすぐ脇を締め、腕を前に張り上げる体勢を取るった。
「ていうか、この森いつ抜けるんだ!?」
森を駆け上がりながら、ロンは森の抜け口を模索
していた。背高い植物が生えた草叢を掻き分け迂回していると、
(開けた場所が見えてきた!このまままっすぐ...)
光が差し込む所目指してロンは地面をつま先で蹴り上げ、突っ走った。
「うおお!広っれぇ!」
ロンは森を抜けた事を悟り、辺りを見渡した。眼前に広がるは山のように地層が剥き出す盛り上がる丘と、ところどころに点在する深緑の森、そして川音が流れ鳴る湖のような河川。絶景が当たり一面、ロンの目に映る。
あまりの景色に、ロンはゴクりと唾液を呑み込む。
そして目前には緑の草原と空の色を吸収する澄んだ碧色の小川が。そこで
「グモォォォ」
野太い鳴き声を発するモンスターが、川に口元を付けて水を飲んでいた。
ロンは"モンスター図鑑ををハンターバッグから取り出す。
「えーっと、アプトノスだな!町ではよく見かけてたけど、野生のやつは初めて見たなぁ。やっぱり野生の方が断然図体がデケェ!」
アプトノス。鳥盤目、トノス科に分類される全長10メートル程度の草食竜だ。頭の後方に伸びるトサカは発声器官であり、天敵を威嚇するためや仲間とコミュニケーションするためのものだと言う。
本来アプトノスは大規模な群れを成す生態を持つのだが、稀な事にこの個体は群れから離れていた。
「やっぱりハンターになると野生のモンスターも
こんな間近で見れるなんてなぁ…」
ロンは今一度ハンターになれた事を心の底から
口で言い表す程に喜悦に浸っていた。
ロンのアルコリスの調査はここから、始まったのだった。ロンは異国の風を浴びながら、草原から斜め上にある丘の上まで走り掛け、走り苔むす地に手を当てて周囲を俯瞰する。
そしてロンはスクッと立ち上がり、もう一度辺りを見渡す。
(人も大型モンスターも…いないな。機は熟した!。
よぉし!)
そうして息を深く吸い上げ、声と共に咆哮の如く吐く。
「ウオォァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!」
夢を叶えられた喜びと長き葛藤の道を潜り抜けた自分を労うかのように、熱き嬉し涙がブワッと涙腺から、顔から溢れ出る汗と混じり合いながら顎まで滴り溢れ落ちる。ロンの万感の思いを込めたその慶びは森丘全体に響き、轟き、拡がっていく。
もとい言おう。
これは1人の少年が英雄になるまでの長く遠い物語だ。
しかし、叫ぶロンの目に見えない森林の奥深くで、誰もが恐れるそれは叫ぶロンの姿を遠方から捕捉し、密かにロンのいる方向に歩みを進めていた。
アルコリス地方は広大である