いざ新天地へ!
何時経っただろうか?
目を開くと先日よりも更に目を突き刺す、照り燃える太陽が昇っていた。とてもじゃないが眩しすぎてずっと見てられない。ロンは瞼をしばたたかせ上半身をムクッと起き上がらせてから首をもたげ、左右に首を振る。するとジャク、ゴリという関節が擦れ合うような音が耳元で鳴った。ロンは目を半開きにしたまま辺りを見渡すと操縦室外側、後方に設置されている時計を視認できた。今は……朝9時頃。
(挨拶しに行くか...)
ロンは目をすがめ、徐に立ち上がり操縦室まで歩いて行った。
(あんなに長かったのに、もう朝なんてな、時って言うのは早いんだなぁ)
「あっ、おはよォう!いい夢は見れたかい?」
操縦士の男性が眠気すら気取らせない程に、溌剌とした笑顔で挨拶を返してくれた。彼の舵を器用に廻す姿に疲れの色など、全く見れない。昨日から長い間ずっと操縦しているのに、なぜこうも元気そうなのか?
ロンは操縦士、いやこの男性の偉大さに気付かされた。
「ほあぁ、おはようございます………」
ロンは手を口に当てながらあくびを呈し、眠気混じりな声で操縦士の男性に挨拶をする。
「もうすぐで、目的地に到着だよ!準備しといてね」
「そうなんですか。ありが……え?もうすぐで?」
「ああ、そうだけど?」
いつのまにか、行き先付近までリトルブレイブは迫ってきていたようだ。
「驚いただろう。最近、飛行船のモーターは日に日に進化していって、約五百キロメートルを僅か五時間で飛行できるまでに性能が格段に向上したんだ」
「そ、それじゃあ…昨日から飛行を継続してるって事は、今どのくらいの距離を移動してるんですか?」
「うーん、ざっと三千里くらいじゃないか?」
(三千里……何キロだ?うーん…………別に気にしなくていいか………)
「へぇ、そんな遠くまで」(あっ、そうだ)
操縦士と何気に雑談していると、
意味不明な単語が飛び出たので少し考え込んだが、何度考えても答えが見出せない。そこでロンは突然先程から聞きたかった事を思い出し、すぐさま声を出す。
「ところで……あのその、目的地ってどこですか?」
ロンは言いずらそうに苦笑いし、操縦士に行き先を訊ねる。
実はロン、目的地がどこか教えてもらっていないのだ。ハンター試験後、冒険科説明会が行われていたにも関わらず、ロンはその説明会を知らずにノコノコ
試験会場から帰ってしまい、それ故、説明会に
赴いていないロンは目的地を知る由もない。
ロンは飛行船に乗る際も目的地を聞くのを忘れていて、ついさっき思い出し、質問したばかりだ。
操縦士はあっと驚いた顔でこんな事を言った。
「何?教えてもらってなかったのかい?目的地は
アルコリス地方だよ」
「アルコリス地方?」
(確か小さかった頃、書店の世界地図で見たことがある。大陸西部のシュレイド地方近辺の地域だったかな)
アルコリス地方。シルクォーレ森林とシルトン丘陵という森林と丘陵地が地方全体に広がっている。ギルドや地域の住人たちはその二区域を略し合わせ「森丘」と呼称し、その「森丘」近辺では
"ハンターの起源"たる竜人が住まう村があるという。
ロンが無意識に物思いに耽っていると、
「あ、おーい!ここだよ!おーい!」
操縦士は突然、何か見つけたように操縦室の右側の窓から半身はみ出しながら何の変わり映えのない青空に、出発前と同じように腕ごと手を繰り返し上下に振っていた。
「どこに手振ってるんですか?」
「そこだよ、そこ、おーい!」
操縦士はロンを半見し上空に人差し指で手を振る方向に指を指す。操縦士は再度上空目掛けて手を大きく振るう。
(そこ?アレは…気、球なのか?)
操縦士の指差した方向に目は細めながら見つめ続けると気球?らしきモノがリトルブレイブのいる方向に謎の機械をピカピカと明滅させ、謎の暗号?を示してくる。
「あのぅ」
「ん?」
「あれ気球ですよね?何度も変な機械向けてくるんですけど?」
「気球?違う違う。あれはな、誘導船だよ」
「誘導船?」
「飛行船の操縦のサポートをああやってモールス信号機とやらで僕たち操縦士に指示を下してくれる。
ま、要するに司令塔と言ったところかな」
操縦士は誘導船について、端的に解説してくれた。
誘導船には専門の誘導員が一人から二人程度乗員
しており、彼らがモールス信号機という機械で飛行船に信号を送り誘導を図ってくれるのだ。
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(北北西へ直進)
「北北西ね…なるほど」
操縦士は発信された信号をよすがに、
操縦士は誘導船に導かれるままに着陸地へと
舵を左にフル回転させ、プロペラも同時に急速旋回させてリトルブレイブを森丘へと発進させた。
それから1時間が経過し
(よし、着陸地点に到着したハズ)
「あとはぁ何々?」
着陸地点空域にやっと迫り来て、操縦士はもう一度誘導船の信号を確認する。信号ではここが着陸地点だという指示をしており、飛行船の真下には広大な森林の間、明らかに飛行船が着陸するために作られたと察する事のできるぐらい木が一本も生えていない地面があった。
操縦士は誘導船の信号を確認した後、拡声器に口を詰め寄りアナウンスでこう告げた。
「ギルドの承認により飛行船ナンバー0114、リトルブレイブ、ただ今高度を下げて着陸致します!
足元に気をつけて安全に―――」
(ようやく着いたか!よし!)
リトルブレイブをこれより、着陸地点へと即時着陸
させるというもの。ロンはとっくに眠気が取れたのか澄まし顔で体をブルっと奮い、ハンターバッグを肩にかけ、大剣を背負い上げる。
ロンはただ前方を向いて立ち尽くす。いざ、ロンは両足に力を入れ、新天地に向かおうとしていた。
ロンがハンターになった時代にはモールス信号がすでに発明されています!