俊足の鳥竜 後
ドスランポスは血がこびり付くように塗りたくられた全身を動かす度に前脚を地に何度も付けながら、じわじわ這いずって接近してくる。見る限り、卒倒してもいいくらい重傷を負っているのに、なぜ倒れない?とロンは心の中で驚きの一声を上げる。このモンスターの動力源は何なのか、甚だ合点がいかない。
「グロロロロ.....」
「グゥッ......」
(……考えろ、考えろ、今俺ができる事.....)
ロンは目の敵をどう対処するか頭を
フル回転させ、策を練ろうとするが如何せん案の2つや1つも思い付かない。
それでもロンは1秒1秒熟考し続けた。その都度考えているとある"方法"が脳に浮かぶ。
(はっ、アレなら!)
ロンは大剣を振り抜くと同時に、ニヤりと物々しい笑みを張り付ける。
「さぁ、いいよこいよ!ドスランポス!!!」
ドスランポスへ意気揚々とした声で誘発させる。
「グゥアアアアアッ!」
ドスランポスは一時も隙を見せずに口蓋と牙が見え隠れするまでに口を開口。わき目もふらずに吠え狂って突貫していく。
ロンは素早く大剣を持ち上げると、
まさかの、もう一度ガードの姿勢をとった一見すれば同じ事を無意味に行っている様にしか見えないだろう。
時はすぐにやってきて、ロンとドスランポスの
間隔が10メートル以内になる。
「かかったなァ!」
ロンは構えそのままに、玉砕上等。自らぶち当たりに目前のドスランポスに狙い定めて疾走する。この動きは、ガードタックルである。ポンメル、またの名を柄頭。それらをモンスターの頭部やその他弱点部位に打ち当てるタックルの派生技で、ガードの構えで相手へノックバックをする大技だ。それでも反動もかなり激しいのでそれなりのリスクが伴う捨て身技と言えよう。
「グオアアアッ!」
「うおおおおおおお!」
もう1人と1匹が狙う相手はもう目と鼻の先。
ドスランポスはロンの血の匂いを嗅ぎつけ、傷跡に刺激されたのか、ガードするロンの真横の脇腹の傷を体勢を低くし噛みつこうと、タックルを避け、ロンの横側に飛び移って牙を剥く。
ここで、ロンはその一瞬の隙を逃さずに、
"秘策"を実行する。ドスランポスが斜め脇腹に牙を立てた瞬間、
「ここダァァァァァッッ!!!」
ロンの足がドスランポスの頭蓋を急襲する。
「グァッ!…………!」
ロンはドスランポスの顔面に大剣という錘を手にしているのにも関わらず、その重量を意に介さずドスランポスにハイキックをお見舞いする。
その次の動き、ポンメルと右エルボを白目の向いたドスランポスの全開された胸にタックルで押し当てる。意識が朦朧としたドスランポスは、後ろに一歩下がる。ロンは容赦せず、止めどなく大剣を叩き込む。
(真溜め………激昂斬ンッッッ!!!)
「グァァッアゥッ!…………」
ロンの編み出したコンボ最後の大技は、真溜め斬りと激昂斬の複合技という変則的かつ相手を圧倒するに相応しい大技を、ドスランポスの土手っ腹に、内に秘めた余力を最大限に絞り出して100%のパワーで叩き斬った。
その一撃は生い茂る草原のど真ん中に巨大なクレーターを造り上げる威力で、並のハンターが到底体現できるとは思えないような力量であった。
「ハァ、ハァ、や、やったぞ…俺、グハッ!」
振り下ろした大剣に手を離し、フラッと斜め左に転倒した。息払いをしながらドスランポスに目を細めながら視線を向ける。確かに、ドスランポスは息を
引き取り、瞳孔が消え去りもはや死んでいるように見えた。歯を食いしばり、辛うじて起き上がる事ができた。地に手を付け、呼吸を整え、状況を確認する。
ロンはドスランポスの腹に食い込みながら、地面に突っ伏したアイアンブレードが目に見えた。
ロンは土だらけの手の平を見つめ、腕をゆっくり
下げる。ロンはひと息吸って、虫の鳴く声すら響かない渓谷の静寂を断ち切る。
「シャアアアアアアッッ!!!!」
喜びの笑みを満面に浮かべて、どこか自身の体の中で沸騰する液体が溢れ出るような感覚が走る。両腕を振り上げ、今一度勝利に吼える。
(勝った、討伐した。この闘いに俺は勝ったんだ)
「やっとハンターとしての第一歩踏み出せたんだァ!」
と、ロンは勝利の余韻に浸りながら目頭を徐々に熱くし、これでもかと喜びに打ち伏した。
(なんだぁこの感じ、肩が一気に軽くなったような、
なんかこう肩自体が飛んでいるような感覚だ。勝利
ってのはこんなにも嬉しいことなのかぁ)
叫ぶと肩荷が急に軽くなり、ロンは少しばかり緊張が逸れた。いわゆる虚脱感というやつだ。それでも他人が思う以上にロンは自身をこれでもかと体を揺さぶるまでに心の中で褒め称える。ロンは一笑に付し、速攻地面に大の字に寝そべって、青空に目を向けただただずっと眺め続けた。その先にあるものを、見据えたかのように。