プロローグ:この世界よ
「この人だれ?」
「この人は、ロンのお父さんよ」
「そうなの?この人が?」
「そうよ」
そう何気ない会話をする親子。親子は何やらソファに座りながら、アルバムの様なものを広げて楽しげに閲覧している。母親とおぼしき女性はアルバムの一枚の写真に指を指し、子供もそれにつられるように目線をその写真に移した。写真には黒い色をした爪のようなものだけが写った見るからに巨大な生物に向かってそれも刃渡り1メートル以上はあるであろう巨大な剣を振るう、厳しい白銀の鎧を纏った男性の姿が写っていた。そのそぶりは写真越しでも鳥肌が立つ程精悍で、子供はその男にあっという間に見入ってしまいそうになり、感心してつい口から驚嘆の声を漏らしてしまう。
「わぁぁ」
(カッコいいなぁ。僕もいつかこの"お父さん"みたいになりたいなぁ…)
「ほらこの写真とか、ロンがまだ赤ちゃんだった頃の――」
「ねぇっ!お母さん!」
母親の言葉を大声で遮って子供はソファから立ち上がる。すると子供は腕を上下に忙しく振って、何か喋りたげにソワソワしていた。
「ん?なーに?」
母親が微笑みながらそう聞くと、子供はその言葉を聞くなり満面の笑みで声を張り上げ宣言する。
「僕、お父さんみたいな最高のハンターになるッ!!!」
これは俺が齢4歳にしてハンターを目指すきっかけとなった、いわゆるプロローグの一文の様な話だ。
地球。この星には数十億年もの長きに渡る歴史が深く刻まれている。誕生直後、多くの隕石が幾度も降り注ぎ、マグマが地球全体を覆い尽くしていた。が、数千年経つとやがてマグマは冷えて固まり、熱は水蒸気と成り雨と成った。その雨の水が地表に溜まり、一粒一粒の水は最終的に果てしなく広がる蒼海と成った。更に数億年後海底のプレートが衝突し合い、その弾みで陸が形成され、最初こそ矮小だった陸地は遂には幾つもの大陸と成った。それら全体を総じて「世界」と云う。
「世界」が完成するまでの期間、生命と呼ばれる者たちも共に出現していた。彼らも最初こそ生物は皆、小さな単細胞生物であったが今日より数百万種もの生命がこの世に芽生えた。
現在、
大海には水中を悠々と泳ぐ魚や海竜が。
そして陸地には生い茂る植物たちを尻目に高く跳躍する小さなウサギや地面を抉り蹴り、木々を薙ぎ倒す程の力を持つ獣竜までもが生息しており、更には手を伸ばしても届かない白雲立つ天空には気高き剛翼で突風をも掻き切る飛竜が我が物顔で天を駆けている。現存する生物の多くが生存競争に打ち勝ち、それぞれ独身の進化をし過酷な環境下にも順応した者たちなのである。
この様な生物たちが更に進化し今に至るまでの間、一際目を引く種がある時偶然生まれた。その名も人だ。人は猿と呼ばれる生物から分岐した種である。だが彼らは最初期猿人と呼ばれる種であり猿から進化して間もないの生物たちで、その他の野生動物と大差ない暮らしをしていた。そこで彼らの中に動物の骨やそこら辺に転がっている石などを狩りで使用した個体が出現した。
その個体が生まれた事を境に同様に骨や石を狩り等に用いる者も次第に現れ、数年後経つとそれらを用いて武器を作り出す者も現れた。そして伝播する形で物を作り上げる文化が人から人へと伝わっていき、
彼らの脳も繁殖する連れて進化、発達していき、勢いはまだ弱いが確実に、着々と発展を極めていた。
時は数百万年後、人類は自らを新人、ホモ・サピエンスと分類し、大陸全土に繁栄を遂げていった。
彼らはそれぞれの文化を発展させていき、
道具を作成して自分たちで建造物を築きあげ、
その他にも食材を火などを利用し調理を行ったり、洗練された素材で衣類を編んで暮らしを更に輝かしくして、金属や鉄でさえも生活の道具として使用する事も可能とした。日増しに人類は生活を豊かにしていき、単なる文化の一端だった技術はいつしか文明という大規模なものへと徐々に変化していく……………
今や村や町、そして都と大きく生活域
を広げていった。人の大人は皆働き、汗を流しながら己の暮らしのため、社会のため、毎日尽力している。
そして子供は元気よく遊び、そして人間社会で生きるための勉強にも熱心に勤しんでいる。
これだけを聞けば当然平和であると思うだろうが如何せんそんなことはない。当たり前だがこの世は人間だけが生活してるわけではない。
モンスター。現在多くの種が確認されており、言うなれば危険な生物たちと言った方が妥当だろう。
モンスターは自然界において重要な役割を担っており、人間の暮らしの手助けをする事もある。だが場合によっては人の生命、財産を奪いかねない生物たちでもあり、人々にとって彼らは危険な存在でもあるのだ。モンスターによる死亡事故、事件も人類が文明を発展し続けてもなお、度々発生している。
不安と恐怖に苛まれる、そんな弱肉強食の世界で、恐ろしきモンスターたちに日々立ち向かい、戦う者たちが現れた。彼らの名は「ハンター」、またの名を「狩人」とも言う。彼らは一般人よりも桁外れな屈強な肉体を持ち合わせ、並の人間では到底扱えない程の大ぶりの剣や銃火器を巧みに操り、繁殖しすぎたモンスター、生態系や人間に害を及ぼす恐れのあるモンスターを駆除、討伐する役割を担っている。
初めこそ正式な職業では無かったものの、勇気ある人々がモンスターの討伐に乗り出す事が日に日に増え、いつしか一つの職業と成ったのだ。
狩り以外にも植物、昆虫、小動物や鉱石などの採取、採掘も生業とする。一般人にとって彼らの存在は
ごく身近であり、それと同時に自分たちを守護してくれる、いわゆる勇壮な戦士のようなものでもある。
これらハンターたちにも様々な動機で成った者たちがいる。モンスターの素材やその他鉱石など収集し、自らの暮らしを華々しくする為、そして仲間と冒険し、世界を知り得ようとする者、名声を得るため、より強いモンスターに挑戦し続ける者もいる。だがそれは建前で、全てのハンターに分け隔てなく渡された共通する役割、それは「人を護る」事である。
モンスターがいつ何時人里に攻めてくるかも分からない世界だ。そんな世の中だからこそモンスターから人々を護るため、身を張り、負傷を負っても頽れず、己の肉体と精神力のみで強大なモンスターたちと闘うのだ。現在も人々の安寧を維持するため、人々の安全確保のため、今日も世界各地で「狩り」が始まっている。
そしてそのハンターたちの中で最も力を持ち、自然に敬意を払うと同時にそれを制す、そんなハンターたちを人々はこう呼称する。
「英雄」と………………………
この話は、モンスターと人間が共存する世界で「最高のハンター」になるのを夢見る少年が英雄になるまでの長く遠い、物語である。
プロローグ...それは始まりの物語